二時間目
二時間目。
数学。
教室の空気は、心なしか少し張り詰めている。
原因は一人しかいない。
AI教師、MIRAI先生。
いかにもAIらしい教師で、厳しい。
居眠りをすれば即座に検知され、名前を呼ばれる。
ひどい時は廊下に立たされる。
今の時代では珍しい、昭和の時代でしか聞いたことがない、どこか古い指導方法。
けれど、その分、授業は正確で、無駄がない。
「それでは、始めます」
感情のない、均一な声。
コン、コン、コン。
一定のテンポ。
一度も迷うことなく、完璧な字が黒板に並んでいく。
「問題集〇ページ、①から⑩まで。終わった人から前へ」
いつもと同じ流れ。
いつも時間通りに終わる授業。
完璧すぎるほどに。
キンコンカーンコーン。
「ありがとうございました」
授業が終わった瞬間、張り詰めていた空気が一気に緩む。
「ふー。まじで数学自体無理なのに先生も無理なんだけど」
隣の席で、丸井が机に突っ伏した。
丸井は何度も居眠りを注意され、ついには廊下に立たされた過去を持つ。
さらに野球部の顧問にまで通告がいったらしく、今ではこの授業だけは絶対に寝ない。
「MIRAI先生の授業、楽しいじゃん」
NINAが言う。
「AI同士だから合うんじゃねえの。人間のことなんも考えてないだろ」
「考えてるよー。不器用なだけ」
軽く笑いながら返すNINA。
「計算できない人間をゴミを見るみたいな目で見てくるけどな」
丸井は不満げに顔をしかめる。
「勘違い、勘違い。そんなことより次体育だから、早く男子達はでてってー!」
大声でNINAが叫び、教室の空気が一気に現実に引き戻される。
「はーい」
気の抜けた返事とともに、男子たちがぞろぞろと席を立つ。
「あれ? 体操服どこやったっけ?」
最後まで席に残っているのは丸井だけだった。
「丸井、先行っとくよ」
「おけおけ……あれ? どこだっけ?」
机の中やカバンをひっくり返しながら、焦り始める。
「丸井ー! 早くでてって、着替えれない!」
女子たちの声が一斉に飛ぶ。
「丸井くん、わざとじゃないでしょうね。早く出ていかないと、変態として黒歴史になるよ」
NINAが淡々と言う。
「わざとじゃねえよ。女子だらけの空間なんか居心地悪すぎるから、むしろ早く出ていきたいわ」
そう言いながらも、まだ見つからないらしく、さらに焦りの色が濃くなる。
「……あったあった。失礼しましたー」
ようやく体操服を見つけると、丸井はそそくさと教室を飛び出していった。




