魔王
玉座の間。
静寂は続いていた。
だがそれは、先ほどまでの“恐怖の沈黙”とは違う。
決定が下された後の、冷え切った静けさ。
魔王は玉座に座したまま、ゆっくりと指を組む。
「……戦力の再編を行う」
低く、しかし明確に告げる。
その一言で、空気が変わる。
「第3将、第4将の欠落」
視線が下へ落ちる。
「穴は大きいが――問題ではない」
言い切る。
その自信に、誰も口を挟めない。
「後任は、こちらで決める」
淡々と。
感情は一切ない。
「北方方面軍は一度後退」
「再編成の上、戦線を引き直せ」
即座に理解が広がる。
ただの撤退ではない。
次に繋げるための整理。
「南方は――」
一瞬、間が空く。
「奪還された領土を再度奪う必要はない」
ざわめきが起きかけるが、すぐに消える。
誰も声を出さない。
「……餌だ」
ぽつりと。
その一言に、何人かが息を呑む。
「守るために、奴らは力を分散させる」
王国。
教会。
そして――
「死霊王もまた、無関係ではいられん」
アレインの存在。
それを前提にしている。
「……王都」
ゆっくりと、その言葉を口にする。
すべての視線が集まる。
「最終目標は、変わらん」
当然のように。
「だが、順序を変える」
指を一つ立てる。
「まず――」
その目が、細くなる。
「死霊王を叩く」
空気が凍る。
あの存在を。
正面から。
「放置すれば、戦場を荒らされる」
冷静な判断。
「教会も同様だが……」
一瞬、思考を巡らせる。
「優先度は低い」
理由は明確。
教会は“固定された勢力”。
だが。
「死霊は違う」
どこにでも現れる。
どこにでも干渉する。
予測不能。
「……厄介だ」
静かに言う。
それが評価。
そして。
「ゆえに、先に潰す」
結論。
その場の魔族たちは、ようやく理解する。
次の戦いの形を。
「精鋭を選抜する」
魔王の声が続く。
「数は要らん」
質。
それだけ。
「……私も出る」
その一言。
場の空気が、完全に変わる。
誰もが顔を上げる。
驚愕。
そして――歓喜に近い感情。
魔王自ら出陣。
それが意味するもの。
「……直々に、確かめる」
アレイン。
その存在を。
そして。
ゆっくりと立ち上がる。
玉座の前に降りる。
「準備しろ」
短く。
「時間はかけん」
もはや迷いはない。
方針は決まった。
動き出すだけ。
魔族たちは一斉に膝をつく。
「はっ!!」
声が重なる。
恐怖は消えない。
だがそれ以上に――高揚がある。
魔王が動く。
それは、絶対の勝利を意味する。
少なくとも、彼らはそう信じている。
玉座の間を後にする魔王の背を。
誰もが見送る。
その背は、静かで。
そして――
圧倒的だった。
戦いは、次の段階へと進む。
それはもはや。
局地戦ではない。
世界を揺るがす戦いの、幕開けだった。




