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お前を愛することはない、私もなのでお構いなく  作者: 紡里
第一章 卒業パーティーとそれから一年後

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真夜中の会談

たくさんの人が出てきますが、覚えなくても大丈夫です。今回限りの人もいますし、今後、また出ることがあったら軽く説明をつけますので。

会話の内容を楽しんでください。


性犯罪の描写がでてきます。苦手な方は、申し訳ありませんが、このページを閉じてください。

「このような夜遅くまで、申し訳ありません」

 王妃は一同に丁寧に声をかけた。


「わたくしが国王代理として認められました。ご協力のほど、よろしくお願いします。

 まずは、解決すべき課題の優先順位を決めましょう」


 王妃の前に並ぶのは、すでに会議室にいた貴族院議長、法務卿、軍務卿、宮内卿、最年長の王族。

 そこに外務卿、新聞社との窓口を務める秘書官、ダンブリッジ公爵夫妻も加わり、合計十人。


 秘書官は場違いな所に呼ばれてしまったと、緊張で体を固くしている。



「まずは、情報が不用意に一人歩きしないようにする必要があります。

 明日、朝一番に王国大評議会を開きます。

 評議会の議員は法務卿に招集してもらえるかしら。宮内卿、大会議場の準備をお願いします」

「軍の指揮官の召集は軍務卿に……。

 魔道士長は容疑者の一人ですので、彼を呼ぶか副魔道士長を呼ぶかの判断はお任せします。

 決まったら、会議前にわたくしに報告を。

 神殿長への連絡は、セレスタリア様にお願いしてもよろしいでしょうか?

 ……智輝教会には、今回は連絡しなくてもよいと思われます?」

 国王の叔母が宗教関係者なのは、こういう時に頼りになると思いながら、セレスタリアに視線を向けた。


「智輝教会は王国大評議会の正式な構成員ではありません。

 特例招集として呼ぶこともできますが……やめておきましょう。精霊を否定していますから、話し合いが紛糾するだけです。

 それに教会は多国籍に展開していて、情報が他国に漏れる恐れがあります」

 そして苦笑いを浮かべた。


「……あの子の精霊嫌いは、本当に傍迷惑ね」

 国王は精霊力を持たないことに劣等感を抱いており、精霊力の高いセレスタリアを一方的に敵視していたのだった。



「新聞には王国大評議会の話し合いが終わるまで、記事にさせるわけにいきません」

 王妃は、広報担当の秘書官を凝視した。

「状況の把握はできていますか?」


「は、はい! 主要な新聞社は週三回の発行で、前夜に印刷されます。

 今まさに刷っている会社と、げ、原稿を用意中の会社があります」

 秘書官は緊張でどもりながら答えた。


「では、国王代理の権限で、記事の確認と必要なら差し替えを命じます。

 そして、大評議会の後に号外が出せる印刷所を押さえて……すぐに動けますか?」


「はいっ、広報担当と図書館の職員を待機させております! 命令書をいただければ、すぐに印刷所へ」


 それを聞いた法務卿が命令書の部数を秘書官に確認し、控えていた部下に指示を飛ばす。

 頼もしい顔つきの部下が、「でき次第お持ちします」と部屋を出て行った。



「さて、次の案件に参りましょう。

 イスカリーヌ国に第一報を入れねばなりません。

 全権大使から情報は伝わっているでしょうが、姫の無事と、正式な謝意を伝えます」


 外務卿が応じた。

「……沈黙は状況を悪化させます。どこまで情報を開示するか、明日の午前中で話し合いがつくといいが……」



「大評議会ではイスカリーヌ国が属国ではなくなったことと、謝意を表明することだけ伝えましょう。

 賠償や姫の処遇、子どもたちの扱いについては、三日以内を目処に。

 大まかな方針がまとまった段階でイスカリーヌの大使に相談し、互いの要望をすりあわせて。無用なすれ違いを起こさないよう、根回しは大事ですよ」


 外務卿は、王妃が現実的な対応を考えていることに安心したようだ。



「王の職務はすでに停止、幽閉中と報告しましょう。

 廃位の話は、息子があれですから……悩ましいですね。

 大評議会の構成員は、国王派が何人いるのかしら」


 宮内卿が少し思案する。

「……十二名中、半分くらいでしょうな。私を含めれば過半数です」

 やや自嘲気味に答えた。


 貴族会議の議長でもある王妃の兄が、苦笑しながら言った。

「それなら義理の兄である私も国王派ですかね」



 それぞれの言葉が飛び交う中、王妃はひととき目を閉じた。


 この混乱の火種は、明日のうちに燃え広がるだろう。

 だが、ここにいる者たちは知っている。

 夜明け前の密室で決まったことが、王国の命運を左右することを。




 今後の予定としては、翌日の午前中に王国大評議会を開催し、急ぎの案件を決めて、正午にはイスカリーヌの大使と国内の貴族に向けて公表する。

 その際、印刷所に号外を出すよう指示を出し、午後には国民に周知する。


 夜までには、その他の国々の大使にも親書を出さねばならないだろう。



 ところで王国大評議会とは、国王と十二名の者たちによって国家の重要事項を決める場である。

 王位継承、戦争の宣言、国交断絶など――いずれも国家の安定にかかわるため、そう頻繁に開かれるものではない。



 外務卿が口を開いた。

「……まず、親書について確認させてください。

 イスカリーヌ本国ではなく、大使へ第一報を送るかたちでよろしいですね。

 本国が独立したことを察知しているか、確認できていませんから」

 イスカリーヌは巫女が王になり、巫王として立つ国だ。その不思議な能力で、何をどこまで察知しているか正直わからない。



「そうですね」

 王妃はうなずく。


「全権大使はその場にいましたが、あらためて正式に連絡を入れ、わたくしたちが関係の遮断を望んでいないこと、誤解や報復を避けたいことを明確に伝えましょう。

 どこまで情報を出すかは、今後の外交方針に大きく影響します。

 大評議会で検討するべきですね」



 王妃は続けて問いかけた。

「国民にとっては、突然、属国が一つ消えることになります。

 どのような影響があると考えますか?」



 財務卿が腕を組んで答える。


「そうですね。税収は減少するでしょうが、それは後で考える話ですね。

 まず、関税をどうするか……他国と同様の扱いにすることになるでしょう。

 関係部署に早急に通達するとして__適用開始日をいつにするかが重要になります」

 やり手の財務卿はニヤリと笑った。


「打撃が大きいのは、商人たちです。

 特に、イスカリーヌ産の香草・医療用薬草・オリーブオイル・加工された大理石や金属工芸品――。

 価格高騰や供給停止への懸念から、買い占めや敵対的な投機が発生する恐れがあります。

 混乱を防ぐためにも、王都商人組合には速やかに声明を出すべきです」


「なるほど。

『何日付けで独立したとするか』という点も、重要ですね。外務卿、イスカリーヌとの調整をお願いします」

 王妃の指示に、外務卿はさらさらと手帳に書き込んだ。



「それから……王家の恥をどこまで正直にさらすか、でしょうね。

 ふん……わたくしは大評議会には参加できませんが、王家の体面より国家の安全を優先して構いませんからね」

 元王女である神官セレスタリアのこの一言に、皆が胸をなで下ろした。



 ――国王であれば何をしても許されると信じている甥。

 セレスタリアと彼の仲が悪いわけだ、と王妃は心の中で苦笑した。


(この方が王位を継げるなら……どれほど心安らかに暮らせるか)


 王冠は男のもの――そんな古い制度を変える時ではないかという考えが、ふと脳裏をよぎる。だが今は、目の前の混乱を収めることが先だと、思いを振り払った。


 軍務卿が机の上に指を置き、慎重に言葉を選びながら話し始めた。

「騎士団長と魔道士長は、いずれも強固な国王派です。

 踏みにじられるのが嫌なら強くなればいい、力を持つ者が偉いという考え方に共鳴しています。

 王妃陛下の名のもとに集結させるには、明日の大評議会で両名を納得させるような演説が必要です」

 軍務卿のまなざしは真剣そのものだった。


「それから、調査対象、尋問してもよい者の判断基準は……」

 言いかけたとき、会議室の扉がノックされた




 王宮を警備する衛兵が、はきはきとした口調で驚くようなことを告げた。


「王太子殿下がダンブリッジ公爵令嬢の部屋に押しかけ、強姦未遂。駆けつけた公爵令息に返り討ちにされ、意識不明です」



 全員の血の気が引き、部屋の気温が下がったように感じた。




 王妃は思わず口にした。

「……未遂、なのね?」


 ほっとしたその瞬間、クラリッサが目をむいた。


「襲われたのよ? どれほどの恐怖か想像できないの?! 

 あなたたち親子には、心底呆れたわ!」


 王妃はクラリッサがこれほど激高するのを、始めて見た。

 彼女は大きな声を出すときでさえ冷静で、効果を計算していた。そんな理性的な彼女が、ここまで取り乱すなんて……。




 公爵は、興奮して息が荒くなる夫人の手をそっと握った。


「正当防衛として、我が息子は当然無罪でしょうな?」

 それ以外の答えは許さないという、強い意思が宿っていた。



「・・・失言を謝罪します。当然、そのように」

 王妃は自分が恥ずかしく、激しい後悔に襲われた。



 公爵が夫人の腕を軽く叩くと、夫人は退出の礼もせずに早足で娘の元に向かった。




 それを見送った公爵は、改めて脅すように告げた。

「重ねて、王太子も地下牢に入れることを要求します」


「認めましょう。それは宮内卿か法務卿に・・・」

 王妃はめまいを覚えながらも、指示を出す。


「どうして、そんなことを……」

 王妃が思わず嘆きを漏らすと、衛兵から信じがたい言葉が返ってきた。



「ご令嬢を婚約者に戻せば、全てがなかったことになる。言うことを聞けばいいんだ、臣下の義務を疎かにするな、と喚いていらっしゃいました」



「……一段落したら、息子以外の王位継承権を持つ方々と話をすべきかもしれませんね」

 王妃は落ち込んだ様子だったが、誰も慰めの言葉をかけようとしなかった。


 貴族なら、後継者を育てるのも仕事のうち。それは王家とて同様なのだから。




「……留学生の保護者たちへの口止めも必要では?」

 ダンブリッジ公爵が、ややぶっきらぼうに問いかける。


 ――あ、それを失念していた。

 王妃は、はっとして顔を上げた。


 これまでは、こうした細やかな調整を公爵が担ってくれていた。

 だが、今の状況では、こちらから頼むのはさすがに憚られる……。

 ちらりと公爵に目をやるが、彼は王妃を見ようともしない。


 この件については、内務卿が学園長と連携して対応してくれることになった。




 その他、早急に決めなければならない議題を片付けた。

 夜も更けきって、終わるころには、決して若くない面々は、体も口も重くなっていた。

 部屋には妙な気怠さが漂う。




 その中で、ダンブリッジ公爵だけはさっさと席を立つ。


「イスカリーヌの大使には、外務卿のところへ向かうよう伝えればよろしいですか?

 これにて、ダンブリッジ公爵家は辞去させていただきます」

 力強い、まるで決別の宣言のようだ。


 公爵は、用は済んだとばかりに、後ろも振り返らずに出て行った。



 今までの彼であれば、ねぎらいの言葉ひとつくらい、かけてくれただろう。

 夫と息子に加えて、自らの失言が、公爵家との絆を断ってしまったのではないかと悔やまれる。

 一晩で怒りが収まればいいが――そんな都合の良い願いを抱く自分にも、嫌気が差す。

 王妃は目をしょぼしょぼさせながら、自室に向かった。




 その数時間後。

 朝日が昇るころ、王太子の婚約者に与えられた部屋から、コーデリアの私物が全て運び出されていた。


 朝の澄んだ静けさの中に、楽しげな鳥のさえずりが響いていた。


王妃の失言……人間だもの、と思う一方で、当事者なら許せないよなぁとも思います。

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