第19話 魔王親衛隊トロ・ロイモー
とろろ芋
開拓村の周囲の森の中を、ウチら一行は進む。
ウチの隣にはクマキチ、その背中にはシーちゃん、その前には抱きかかえるようにココアちゃんが座る。
あの後、冒険者仲間や開拓村の先輩たち総出でコーちゃんじゃなくココアちゃんにしてくれとお願いされたっけ。
シーちゃんコーちゃんと、似た呼び方が揃って紛らわしいからって。
間違えやすいかなぁ、そんなに。
そしてウチらの後ろをついてくるのが。
「オラを置いていかねえでトロ〜」
ココアちゃん親衛隊の一人だとあの後で教えてもらった、ノッポなトロールのトロ・ロイモーさん。
歩く速さこそのっそりしてるが、着ている鎧の重さを感じてすらいなさそう。
肩に何匹も小鳥が留まっていて、その小鳥たちが驚かないようにそっと歩いているのもスピードが遅い理由の一つだろう。
今回ウチらがボウ姉さんたち仮設冒険者ギルドから受けた依頼は、隣村から植木の苗を貰ってくる事。
そしてその見返りに、ウチが知る味噌の作り方を伝授する事。
そう、ココアちゃんを助けた後に作った、なめろうと味噌スープが皆に大好評で、それが隣村にも噂が伝わったらしい。
でも最初は皆、味噌を見た第一感想はウ◯コだったのは忘れてないからな!
*****
「はい、それでは確かに苗を受け取りました」
「お味噌も今日の仕込みから六ヶ月ぐらいで出来ると思うよ」
苗を受け取る前に、味噌作り教室を開いて教えたウチ。
ま、交換条件だね。
ここの人たちもやっぱり味噌の第一印象は「排泄物?」だったけど。
仕方がないから、お湯に溶いて作った味噌スープを見せて飲ませてようやく興味を持ってもらえた。
そもそも匂いが全然違うからね。
味噌を作る手前の麹を作るところから始めないといけなかったから、大変と言えば大変だったかな。
「麹の配分を多めにした白味噌で漬け込んだ、肉や魚の切り身を焼いても美味しいよ。次来た時に教えてあげるね」
「サイキョー焼き……と言ってましたか。いかにも最強好きのクラムさんらしいですわね」
「うーんエルフの里で聞いたのは、そんな意味じゃなかった気がするけどな。どんな意味かは忘れちゃったけど」
「はぁ、まったくもう」
最近のシーちゃんため息が多いよ。
もっと元気良く前向きに行こうよ。
「私のため息に、何か言いたげな表情ですわね。誰のせいだと思っているんですの?」
「にへへ〜ゴメンね」
「んもう、私がその笑顔に弱いのを知ってて……意地悪」
そうボヤくシーちゃんにもう一度笑顔を見せると、ウチはギャリソンさんの事を思い出す。
そろそろシーちゃん付きっきりなのも改めないといけないって、今回は別行動をしているのだ。
具体的には、ギャリソンさんは村でギルドのお手伝いと長の手伝いの事務作業。
ああいう面倒くさいのを出来る人材は素敵だよね。
ウチも覚えたらいけるけど、出来るだけ避けたいなあ。
ウチが食べたい物の原料になる農作物を色々植えていくのは楽しいけど。
「ところであのう、後ろの背の高い方はひょっとして……」
考え事をしているウチに、村人の一人がおずおずと尋ねてきた。
まあウチが答える前に、パッと顔を輝かせたココアちゃんが得意気に答えたけど。
「うむ! よく分かったのう、お主! 此奴は妾の忠実なる部下、トロールのロイモーじゃ! 力持ちじゃぞ!」
「ひっ、トロール!」
予想通りに怯えの表情を見せる質問者含めた村人たち。
ココアちゃんもその反応は織り込み済みだったようで、微動だにしない態度で説明を続ける。
トロ・ロイモーさんは少し困った顔で、兜の上から自分の頭を撫でていた。
「安心せい。ロイモーはそんじょそこらの野良トロールとは違う、心優しい文明人じゃぞ」
「いや、でも……」
「お主らも、同じ人間でも山賊とは違うじゃろ?」
「はあ、まあ。そう言われると……」
そんなやり取りをしてる間にも、ロイモーさんと村の子供たちとは早速打ち解けていた。
ロイモーさんが自分の肩に留まったままだった小鳥さんを手の平に移し、それを子供たちに見せていたからだ。
ニコニコと笑いながら子供の反応を見つめるその表情に、少し警戒を解く村人たち。
「すげ〜な、オッチャン。でっかい身体なのに小鳥と仲良しだなんて!」
「オラ、昔っからなんでか小鳥やリスとかに好かれるんだトロ」
「へー!!」
子供たちが目をキラキラさせてロイモーさんを見ている光景が微笑ましいね。
とか思っていると、別の村人の男の人が深刻そうな感じでやってきた。
「村長、やっぱりあの大岩、動かせそうにないですよ」
「……そうか」
お? なんかトラブルでも発生したかな。
ウキウキ顔になって村長に話しかけるウチ。
「どしたの何かあった? ウチらに出来る事があったら手伝うよ」
「も、もちろん冒険者ギルドを通じて依頼してもらう必要はありますが」
ウチの後に慌てて補足するシーちゃん。
あ、そうか冒険者ギルドを通さないとボランティアになって、なぁなぁの馴れ合いになるもんね。
まあでも、どういう事態か確認するだけでも話を聞くのは有りだよね。
「依頼はこの後でギルドに通してもらうとして、どうしたの?」
「はぁ、実は畑の近くを通る川の少し上流に怪物が棲みついてしまって……。そいつが大きな岩を投げて畑に落としているんです」
「へ~、どんな怪物なの?」
「いつも上流の淵の水の中に潜んでいて、丸い大きな頭で……」
「河童みたいな巨人かな?」
「いえ、もっとグニャグニャした感じの奴で足がたくさんあって……」
「ん? もしかしてソイツって足が八本あって体が赤くない?」
「うーん足が八本あるかどうかは……あ、でも体の色はくすんだ茶色か赤色です」
ふむ、これはアレだな。
そう思いながら隣のシーちゃんを見る。
彼女も「アレですわね」といった表情でウチを見返してきた。
「うん、そいつはタコの怪物だね」
「タ……コ……? 話でしか聞いた事はありませんが、海にいる生き物だったはずでは」
「まあウチも淡水に棲んでる奴は初めて聞くけど、今の話聞く限りでは特徴は一致してるね。美味しいよ」
「いや、え? 美味い……?」
「よし分かった、怪物退治を引き受けるよ!」
「本当ですか!?」
「うん、そしてタコ足ちょん切って持って帰るから、今夜はタコ焼きパーティーだ!」
村長さんに向かって笑顔のブイサインで応える。
そしてシーちゃんへもう一度顔を向ける。
「それでシーちゃんは……」
「分かってますわ。この村の依頼人になってくれる人の護衛をする為にウチのギルドまで同行します」
「ふむ、それでは妾はロイモーと一緒に、畑の大岩とやらを片付けてやろうかのう」
ココアちゃんが余裕たっぷりに、そう請け負う。
いやいや、ついさっきシーちゃんがギルドに依頼を通さないとって言われたばかりじゃん。
そんなウチの考えを先読みしたように、彼女はニヤッと笑いながら答える。
「妾は冒険者とやらではないからのう。ただの通りすがりのダークエルフじゃ。トロールをお供に連れた、の」
「さすがは魔お……ココア様だトロ」
一応、確認のためにココアちゃんに聞く。
そう、まあ一応ね。
「いいの?」
ウチの言葉に即答で返してくるココアちゃん。
うーん頼もしい。
「通りすがりのダークエルフが気まぐれにお節介するだけじゃよ」
「オラも人の喜ぶ顔を見るのが好きだトロ」
よし話はこれで決まった。
ウチは右手を大きく上に振り上げて叫ぶ。
せっかくだから気分盛り上げていかないとね。
「よーし、それじゃたこ焼きパーティー大作戦、開始だ!」
「……え? そっちがメインですの!?」
シーちゃんのツッコミが相変わらず素敵よ。
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