デバフを食らう
マーギンがハナコをよしよしと可愛がったことで、ハナコの意識はミスティからマーギンに移り、ようやくミスティは開放された。
「まったく、人を子供扱いしよってからにっ!」
「子供じゃねーかよ」
いらぬことを言ったマーギンは、ゲシゲシと小さな足で蹴られる。
マーイから宴会の準備をするから待っててね、と言われたのでいつもの露天風呂に入って待つことに。
「いっ、いっ、一緒にはいるじゃとーっ! 何を考えてるんじゃ貴様はっ!!」
真っ赤になって怒るミスティ。しかし、他のメンバーはすでにそのステージは通り過ぎているので、さっさと水着に着替えに行った。
「お、俺も入るのか?」
同じく、顔を真っ赤にするノイエクス。
「女風呂は別にあるんだけどな、男風呂の方が広いから、みんなこっちに来るんだ。恥ずかしいならあとで入るか?」
ノイエクスはモジモジする。
「お前、水着持ってないよな?」
「持ってるわけないだろ」
「なら、タオル巻いて入るか、後で入るかだな」
「あ、あとで入る……」
あと一歩が踏み込めなかったノイエクスは一緒に風呂に入ることを断念した。
ムーはバネッサの予備の水着を着ることにしたが、紐の長さがギリギリだ。ほどけても知らんぞ、と思うマーギン。
「ムー、大丈夫かそれ?」
「別に水着はなくても構わんがな」
それは俺とトルクが困る。
「それなら、ミスティと女風呂に入れ」
「それより、ミスティをこっちに連れて来れば良かろう。ミスティ、誰かの水着を借りろ」
「嫌じゃ」
「私のを貸してあげますよ」
「嫌じゃと言うておるじゃろうが」
アイリスの水着なら大丈夫だと思うが、頑なに拒否するミスティ。
「それならそれでも構わんが、お前がいないと口が滑るかもしれんなぁ」
と、ムーがニヤニヤと笑う。
「なっ……」
ミスティの顔が引き攣る。
「なんか面白い話でもあるのか?」
マーギンが何の話だ? といった感じでムーに聞いた。
「それがな……」
「いらぬことを言うなーっ!!」
ムーの口を押さえようとぴょんぴょん跳ねるミスティ。なんか、見ていて面白い。
「ムー、じゃあ、飲みながら話を聞かせてくれよ」
「構わんぞ」
「だーーっ! 入ればいいんじゃろ、入ればっ!!」
観念したミスティ。それを見て、クックックと笑うムー。なんか、歳の離れた姉妹みたいな関係なんだなと思うマーギン。
そして、風呂に入り、いつものようにレモンサワーを飲んでいると、ゴイルがやってきた。
「おっ、新顔が増えて……んな」
と、ゴイルがムーを見て顔を赤くした。
「だっ、誰だよあれ」
「あれはムーだ。こっちはミスティ」
ムーは手を上げて挨拶し、ミスティは隅っこでちっちゃくなったままだ。
「月の女神様と同じ素敵なお名前なんですね。僕はゴイルと言います」
ガラにもなく格好付けたゴイル。
「そっちのミスティも宜しく……って、ミャウタン様?」
「違う。ミャウタンじゃない」
「だってよ……」
マーギンは、ゴイルに簡単に経緯を話した。
「そ、それじゃ本当に月の女神様……とラーの使徒様」
「そういうことになるな。で、俺たちは人前から姿を消すことになった。今日は最後の挨拶周りに来たんだよ」
説明し終えると、ゴイルは風呂から飛んで出て、ムーにひれ伏した。
「知らぬこととはいえ、とんだご無礼を致しました」
「ゴイル、そんなのいいって。神様と言われてたみたいだけど、ムーは本当の神様じゃない」
「いえ、我らがこのように暮らせているのはムー様や使徒様のお陰でございます」
ミスティは知らぬ顔で湯船に深く浸かったまま。ムーは笑って、そんなことはもういいから顔を上げろと言った。
「ゴイル、みんなそんなことをされるのが面倒なんだよ。いつも通りにしてくれ」
「し、しかし……」
「お前がずっとそんなんだったら、すぐに次のところに行かないとダメになるだろ」
マーギンがそう言うと、顔を上げてチラチラとマーギンもムーを見る。
「だからいいって。あと、ミャウ族のことも説明したいから」
マーギンはそう言って、ゴイルを風呂に入れさせた。
「そうか……ロブズンがミャウ族、いや、ラーの集落の長になったのか。あとで長老にも説明してくれんか」
「いいぞ。挨拶に行くつもりだったからな。それと、俺たちのことはゴイルにしか話さないから、長老やマーイにはゴイルから話しておいてくれ」
「どうしてだ?」
「みんなお前みたいになるだろ?」
マーギンが大体の説明を終えて、ふとミスティを見るとブクブクと沈みかけていた。
「何やってんだよお前っ」
慌ててミスティの方に行き、抱き上げると、全身が真っ赤になってのぼせていた。
「カタリーナ、シャランランを頼む」
「うん」
《シャランラン》
ミスティは治癒魔法をかけてもらっても、意識を失ったままだ。
「ちょっと寝かせてくるわ」
と、マーギンはテントの中にミスティを寝かせ、風魔法で冷やしてやると、身体から赤みが引いていく。
「そういや、こいつは暑いのダメだったな。のぼせるまでどっぷり浸かってんなっての」
そうブツブツ言う。
「こういうときはどうするんだっけな?」
と、ソフィアが残してくれた医療関係の本を見て対処方法を探す。
「頭、首、脇、足の付け根を冷やすといいのか」
本に書かれていたとおり、タオルを水で冷やして、順番に冷やしていく。そして、足を持って、少し広げて足の付け根にタオルを挟もうとした。
「ぎゃーっ! このスケベがっ、このスケベがっ!!」
ベシベシっ。
「痛ってぇな。お前がのぼせて気を失ったから、冷やしてやってたんだろ」
「のぼせた……?」
「そうだよ。暑さに弱いくせに、湯にどっぷりと浸かってるからだろ」
「湯に浸か……ギャーーっ! 見るなっ、見るなっ!!」
自分が水着姿なのを思い出したミスティは無い胸を両手で隠す。
「隠すほどのもんじゃないだろうが」
相変わらず、デリカシーのないマーギン。
「貴様と言うやつは……貴様と言うやつは……」
涙目でマーギンを睨み付けるミスティ。
「な、なんだよ?」
「お前なんか嫌いじゃーーっ!」
「ぐっ……」
嫌いと叫んで、デバフ魔法を掛けてくるミスティ。マーギンも身体強化魔法で対抗するが、ミスティのデバフ魔法の方が強い。
「ぎっ、ギブ、ギブ」
「うるさいっ。このまま石にしてくれるわっ!」
こうして、いらぬことを言ったマーギンは、また石にされかけたのであった。
夕方になり、宴会が始まった。魚介類がワンサカと用意され、マーイが大きな鉄板で海鮮焼きビーフンを作ってくれる。
ガツガツ。
焼きビーフンをむさぼり食うミスティ。
「マーギン、食べないの?」
「た、食べるよ。なんか身体が重くてね……」
まだデバフ魔法を解除してもらえないマーギンは動きが鈍いのだ。
「でさ、その顔とか目はどうしたの?」
「ちょっとイメチェンをね……」
ぐぎぎぎと必死に腕を動かして焼きビーフンを食べながらマーイに適当な返事をする。
「マーイとやら、これは旨いぞ」
ムーも海鮮焼きビーフンを気に入ったようだ。
「ありがとう。これはマーギンが教えてくれた焼きそばを参考にここで手に入りやすい材料で作ったものなんだよ」
大隊長には焼きビーフンは物足りないのか、マギュウの焼肉を集落の人たちと食っている。あれだけの人数で食うなら、マギュウをもう一度狩っておいた方がよさそうだと、マーギンは予定を一つ増やした。
宴会はまだまだ続きそうなので、長老用にハンバーグを焼いていると、
「私の分ですか?」
すかさずアイリスがやってくる。
「違う。お前はノクスに作ってもらえ」
「えーっ」
「これは長老の分だ」
「私の分もありますよね?」
「だから、ないって言ってるだろ。ノクスに言え、ノクスに」
そう突き放すとブーたれる。
「俺が作るから、ちょっと待ってろ」
健気なノイエクスがマーギンの横でハンバーグを作り出した。
「どうだ?」
「2点」
ブーたれたアイリスの採点は厳しかった。がっくりうなだれるノイエクス。
マーギンはそれをチラッと見ていたが、アイリスは厳しい採点をしながらも、ノイエクスが作ってくれたハンバーグを残さず食べたのであった。
焼けたハンバーグに大根おろしポン酢を添えて、ゴイルと共に長老のところへ。
「使徒様、ようこそおいでくださいました」
「ご無沙汰をしております。自分たちは暫く国を離れることになりましたので、挨拶にきました」
そう伝えると、長老は頭を下げた。
「使徒様、本当にありがとうございました。使徒様のお陰でこの集落も豊かになり、人々の生活も楽になりました」
「それはみんなが頑張ったからですよ」
「ありがとうございます。私が生きている間に月の女神ムー様、ラーの使徒様にもお越しいただけるとは、何と幸せなことでしょうか。どうか使徒様もお幸せに過ごしてくださいませ」
長老には説明せずとも、ムーとミスティのことは感じ取れているようだった。
「ゴイル」
「はい」
「この集落はお前に任せる。使徒様のようにみんなを幸せに過ごせるように導いておくれ」
「えっ? 俺がですか……?」
「頼んだぞ」
そう言ったあと、長老はマーギンのハンバーグを美味しそうに食べたのであった。




