死なばもろとも
魔王城だと言ったマーギンの脳裏に、かつての戦いがフラッシュバックした。
「みんな帰れ」
魔王城を見つめたまま、静かに呟くマーギン。
「ここまで来て何を言い出すのだお前はっ!」
帰れと言われたオルターネンは激怒する。
「……通用しないんだよ」
そして、マーギンは光の消えた目でオルターネンを見つめた。
「俺では力が足りないと言いたいのか」
マーギンはオルターネンの問いにコクンと頷いた。
誰もが見惚れる剣技を繰り出す勇者マーベリック、無敵を誇ったガインのパワフルな攻撃ですら平然と受け止めた魔王。自分はおろか、ミスティの魔法も通用しなかった魔王。それがここにいる。
マーギンの額に嫌な汗が流れる。
ポンッ。
「マーギン、死なばもろともという言葉を知っているか?」
大隊長が後ろからマーギンの肩を叩いた。
「死なばもろともって……」
マーギンは振り返って大隊長の顔を見る。
「ここに魔王がいるのだろ? お前1人で戦うより、みんながいた方が勝機がある。それに魔王を倒さねばいずれ人類が滅びるのだ。戦わずして滅びを待つより、戦って抗う方がいいだろう」
大隊長が魔王城を見ながらそう言うと、みんなも頷いた。
「みんな、何も通用しないかもしれないんだぞ」
「へんっ、そんなのやってみなきゃ分かんねーだろ。ごたくはいいから、さっさと行こうぜ。うちはマーギンを信じてるからな」
と、バネッサがウインクする。
しかし、マーギンがまだ躊躇していると、カタリーナが何かを見つけた。
「ねー、マーギン。これって結界の装置かな?」
カタリーナが見つけたものは、小さな祠のようなものだ。
「ほう、結界の装置か。ならば壊せばいいのだな?」
マーギンより先にロッカがこん棒で祠の破壊を試みる。
ガキンっ!
「くっ、びくともせんな。ならば……」
ガキンっ、ガキンっ、ガキンっ!
ロッカは祠に連続で攻撃を続ける。
「それが結界の装置だとしたら、通常の攻撃で何とかなるわけがないだろ」
マーギンがそれを見て吐き捨てる。ここまで複雑に守られていた魔王城。その結界の装置を単純な攻撃で壊せるわけがないのだ。
「何もしなければ何も進まんだろ。トルク、援護しろ」
「うん」
それでも諦めないロッカはトルクに身体強化魔法で援護させた。
「葬らんっ!」
ガッキーンっ!
今度は上からの攻撃ではなく、下からアッパースイングで振り抜いた。
「ふはははっ! 見ろ。祠が飛んで行ったぞ」
硬い祠は壊れなかったが、引っこ抜かれたように飛んで行った。そして、祠がなくなったあとに現れたのは魔法陣だった。
「これは……」
祠の下にあったものは、複雑に描かれた魔法陣。その魔法陣から可視化されるほどの魔力が揺らめいて見えた。
「えーっと、なになに?」
カタリーナがその魔法陣に何が描かれているか読んでいく。そう、魔法陣の文言はマーギンがいた過去の勇者パーティ時代の文字で書かれていた。
カタリーナは結界の本を取り出して、内容を見比べる。
「なんか、すっごく難しい言葉を使ってるからよく分かんないけど、この本に載ってる結界の魔法陣と似てるかもしれない」
魔導金庫を解錠するために必死に学んだ古代文字をカタリーナは読んだ。
マーギンも魔法陣に何が書かれているのか読んでいく。
「かなり複雑というか……ダミーの文言も含まれているな。解読するのに時間がかかるぞこれ」
「では、ゆっくりと解読せよ。こちらは任せておけ」
と、大隊長が戦闘態勢を取ると、他のみんなにも緊張が走った。先ほどまで静かだったこの場所に大量の魔物がやってきたのだ。
激しい戦闘がマーギンの後ろで始まる。マーギンはみんなを信じて魔法陣の解読を始めた。
《カエンホウシャ!》
アイリスが試しに魔法を使って攻撃すると、魔法が発動した。
「魔法が使えますっ!」
「でかしたぞアイリス」
物理攻撃だけでなく、魔法を混ぜて戦えるとなれば格段に戦術の幅が広がる。オルターネンが大型の魔物を下から土の槍で突き刺して足止めをする。そしてロッカがその魔物の首を斬る。アイリスが《カエンホウシャ》を放ち、大隊長が竜巻を起こして炎の竜巻にして焼き払っていく。バネッサがオスクリタで魔物の目を潰していき、カザフたちが斬り刻む。
ちらっと後ろを振り向いたマーギン。
「もしかしたら、マーベリックたちより強いかもしれんな」
そう微笑んだマーギンは魔法陣の解読を進める。
「罠とかありそう?」
戦闘には参加していないカタリーナとローズ。
「どうだろうな? もしかしたら、この魔法陣自体がダミーかもしれん」
マーギンは違和感に気付いた。通常、魔法陣は隠匿されて見えないはず。しかし、この魔法陣は魔力が可視化されるほどの強い魔力を放ち、文言が読める。
「ロッカが撃ち抜いた祠の方に仕掛けがあるとかはないか?」
ローズの言葉にマーギンがハッとする。
ミャウ族の集落にあった、ラーの遺跡で鍵になった黄金の女神像。あれは台座と女神像が一体化することで魔法陣が完成するものだった。
これも祠が載った状態で繋がりが増えるとすると、ダミーの文言がダミーでなくなり、他の文言がダミーになる可能性が出てくる。それに、祠の方にも文言があるとすれば、意味が分からない文言にも意味が出てくる。
マーギンは慌てて、飛んで行った祠のところに行った。
「あのゴリラ女め……」
ロッカに「葬らん」された祠は一部が壊れていた。
祠が壊れたか、それとも元々隠匿されていたのか、裏側には魔法陣が見えない。これで手がかりが消えた。
マーギンは魔王城への侵入者を阻む見えない壁を触ってみる。ぐっと手を押し込むと、空気の塊が押し返してくるような感じだ。
「壁を触ったこの感触はまるで……」
ボソっといらぬことを呟いたマーギン。
バチィッ!
「痛ってぇっ!」
「キャーっ、マーギンどうしたの!」
いきなり痛がったマーギンに驚いたカタリーナとローズ。
「いや、結界から攻撃を食らった。お前も下手に触るなよ」
「う、うん」
マーギンは祠を魔法陣の上に載せたり、外したりしながら、魔法陣の解読をしていくが、解決の糸口が見えないまま夜を迎える。
《プロテクションボール》
魔法が使えることが分かったマーギンは、プロテクションボールでみんなを包み、ここで野営することにした。
「やはり魔法が使えるのは楽でいいな」
プロテクションボールの外では魔物たちが攻撃をしているが、マーギンのプロテクションを破るほどの力はない。
「疲れたぜ。甘めにしてくれよな」
魔王城の目の前で唐揚げの甘辛を要求するバネッサ。
「プロテクションボールの中で揚げものなんかできるか。おにぎりでも食え」
「なら、それを甘辛にしてくれよ」
唐揚げの甘辛を却下されて、拗ねたバネッサに甘醤油で焼きおにぎりにしてやる。全員に香ばしい匂いがつきそうだ。
そして、焼肉のタレ味や、肉巻きおにぎりを炙ったので、全員から旨そうな匂いがするのであった。




