第九話 3国の景色
戦争を止める術などわからない。
ただ、今の僕にできることをしよう。
求められているなら、応えよう。
その気持ちだけだった。
「あの…おっちゃんのところに、行かせてくれない?」
「軍がすでに墓を建てたが」
「それでも会いたいんだ。ちょっとでいいから」
「ルカさん」
「…連れて行け。ただし、昼には戻れ」
「承知いたしました」
おら行くぞ。と背中を押され、クロテツと共にルカの部屋を出る。
なんとなく振り返れば、ルカは窓の方を見つめていた。
(不思議な人だ)
今まで会ったことがない、不思議な人。でもなぜか、誰よりも親しみを感じた。
モナネルはなんとも言えない気持ちのまま、長い長い廊下を自らの足で進む。
「乗れ」
「え?これ何?」
「軍の操縦機だ。俺が連れてってやる」
明け方、うっすら空が明るくなり始めた頃、クロテツに連れられたのは小型の飛行機らしきものがずらりと並ぶ格納庫。何台もあるなかでクロテツが指さしたのは、とびきり小さな円形の黒い台。見る限り翼もなく、天井もない、椅子もない、タイヤのような塊だ。これでどうやって移動するというのだ。1人困惑していると、またしても浮遊感。クロテツに両脇を抱えられ、強制的にタイヤに乗せられてしまった。
「行くぞー」
「ちょ、待って、うわぁ!」
ハンドルも何もない、穴のないタイヤが、ぶわっとエンジンがかかったように煙を吐き出して浮く。
どういうカラクリなんだ?だってクロテツは、何かのスイッチを押したわけでもない。すると頭上から声が降ってくる。
「お前、死にたくないなら、座るかコイツのボディにしがみつくかしろ…ウラァ!」
「え?・・・・・・・・うわあああああああああ!」
ガクン、と大きく揺れた直後、床が抜けて谷底に落ちていく機体(?)
まさに垂直落下。何百メートルも下に下に、頬の肉まで取れるんじゃないかというほどの風力を感じながら落ちていく。ゾワっと持ち上がる心臓、震える足。これは、死ぬ…!本当に死ぬ!
「クソガキ!俺にしがみつくな!」
「死ぬ!死ぬ!」
「テメェ、マジで落とすぞゴラァ!」
大きな舌打ちと、仕方ねえな、と言う声をきっかけに、落下速度が遅くなる。
つむっていた目を恐る恐る開ければ、言葉に表せないほどの景色が広がっていた。
(綺麗だ…)
ずっと先まで見える街並みに、深い深い山脈、そしてその先にある広大な海。そこから覗く日の出。
どこまでが空界で、どこからが山界、海界なのか、モナネルには区別がつかなかった。
「すごい、初めて見た…あれ、海だよね?」
「はっ。これからは何度も拝めるだろうよ」
「そうなの?」
「海界との戦争の度に、海まで足を運ぶからな」
「そっか…」
太陽の光を浴びてきらきらと輝く、美しい海。美しい山脈。
どうして、奪い合わないと行けないのだろう。
「クロテツ…このタイヤ、どういう仕組みなの?」
「タイヤって言うな」
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