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第40話 知ろうとしない

「じゃあ何かね。GMの言葉を喋ることが出来ないと、言う事を聞かせる事が出来ないのかね?」

「人の言葉を覚えるようにプログラムしましたので、いずれは誰でも指示を出せるようになるはずです。ですが、それまでは彼らの言葉でないと命令できなくて…申し訳ございません。」


 あの後、スグル達は基地指令室に連れてこられた。そこでさらに詳しい話をすることになった。結論から言えば、確かにGMは敵対しなくなったし、こちらの指示にも従うのだが、難点は指示をGM語で行わなくてはならないことだった。そして、現在それを話すことが出来るのは当然、スグルただ1人。


「それは…、困る!」


 うん、そうだろうな。自分の命令しか聞かないのでは、せっかくの戦力もただの宝の持ち腐れだ。


「…少し、よろしいでしょうか。」

「ギルダー中尉?」


 その時、ギルダー中尉が口を開いた。


「スグル、君はGMの言葉も文字もわかるんだよな?」

「ええ、そうです。」

「なら、簡単な指示を予め録音しておくのはどうだ。前進、止まれ、後退、ここを守れ。こういった状況に応じた指示を録音しておけば、スグルが傍にいなくても現地の部隊だけで運用が可能になるのでは? さらに、文字にも書き起こしておく。指示が書かれた紙を見せるだけでGMが動いてくれるなら、より細かい運用も出来るようになると愚考するが…どうだろうか?」


 この人は…本当に凄い。


「ギルダー中尉、それです! それで行きましょう!! 大佐、簡易の指示表だけでなく五十音図。つまり、あいうえお表も作っておきます。これで、大佐や皆さんもGMに指示を出すことが可能になるはずです!」

「そ、そうか。それは助かる。早速取り掛かってくれ。」

「はっ! 失礼いたします!」


スグルは早速作業に取り掛かるべく、指令室を出て行った。


「私達も失礼します。」

 

 そう言って大尉達も指令室を後にしようとしたのだが…。


「いや、大尉。君だけ残ってくれ。」

「…? わかりました。」


 ギルダー中尉達を先に行かせ、エコー分隊の中でただ一人残る大尉。


「大佐。何でありましょうか?」

「何だではない! 一体彼は何者だ!?」


 分隊メンバーが出ていくのとほぼ同時に、ザルス大佐は叫んでいた。


「こんな事が可能だなんて! 今でも夢を見ているのではと不安になる! これは現実なのかと! GMを配下におこうだなんて、そんな発想がどこから出てくるのだ! 彼はどこから来た! 一体何なのかね彼は!」

「何なのかと問われますと…、少し答えに窮します。ただ、あえて言うのであれば…。」

「言うのであれば?」

「…救世主……ですかね。AI大戦時にオリヴァー氏が現れたように、彼もまた、人類の滅亡を阻止するためにどこからかやってきた……。」

「それはどこかと聞いているのだよ!」

「それは私にもわかりかねます。」

「それは困る!」

「困るとは?」

「もし…万が一だぞ。考えたくは無いが…彼がGMの側だったら、GMに限らず人ではなくエイリアンだったら…。我々はどうなる! 全ての種族と会話可能だと! そんな事が可能な存在が、本当に人かね!」

「…大佐……。」


 大佐の顔には恐怖がありありと浮かんでいた。

 人は、自分よりも強大な力を持つ存在を本能的に恐れるものだ。幾ら力のある方が配慮したとしても、無い方からすればそれは勝者の余裕に過ぎず、何時潰されるか分からない恐怖に怯え続ける事になる。この恐怖によって、どれだけの才能が潰されてきたことか。

 スグルもまた、全く意図しないところで人々に恐怖を与えていた。少なくとも、現時点でGMを操れるのがスグルただ一人である以上、それ自体を怖がることは無理からぬことだった。

 はっきり言って、このままではスグルは救世主どころか魔女狩りの対象になりかねなかった。


「大佐、大丈夫です。」

「む?」


 しかし、スグルには魔女にならない縁があった。


「彼は、味方です。徹頭徹尾、人類です。私が保証いたします。」

「…どうして……。」


 そこまで言い切れる。その言葉を大佐が放つ前に大尉は明言した。


「彼には守りたい存在がいます。彼女達がいる限り、アカガネスグルは人であり続けるでしょう。守るべき人達のために、守りたい人達のために全力を尽くす。それが人でなくて何だと言うのです。」

「…………………。」


 大尉の言葉に大佐は押し黙り、大分時間が経った後。「わかった。」と一言だけ呟いた。




「スグル、幾つか質問があるのだがいいか。」

「ギルダー中尉、なんでしょうか?」


 指示表の文字起こし中にギルダー中尉が声をかけてきた。作業中に声をかけてくるなんて珍しいな?


「一つ目、GMが生体兵器である事は昔からわかっていた。そして今回、GMはあのパラサイト対策で古代文明人が生み出したこともわかった。だが、ここで疑問が沸く。なぜGMは我々人類を襲ってきた? GMとは光明歴48年、つまり今から727年前に邂逅したわけだが、その時から問答無用でこちらを襲ってきた。他の勢力にも、同じように見境なく襲っている事が分かっている。元々パラサイト対策で作られた物なら、他の生物を襲うのは妙な話だ。二つ目、古代文明人は敗れ、施設はパラサイトの手に落ちたにも関わらず、ここT46dを含めて幾つもの施設が生き残っているのは何故か。三つ目、そもそも勝ったはずのパラサイト共は古代文明を滅ぼした後、なぜそのまま銀河を支配できなかったのか。奴らが天下を取ったのなら、我々人類も、他のエイリアン達も文明を築き、こうしていまここにいる事は出来なかったはずだ。」


 地下施設で何も喋らなかったからどうしたんだろうとは思っていた。しかし、こんな事を考えていたのか。この人はやっぱり目の付け所が他の人と違う。はっきり言って自分と同じ、異世界から来たんじゃないかとすら思えてしまう。


「あくまでも…、自分の推測ですがよろしいですか?」

「無論だ。」

「では、まず二つ目から。ここ、T46dは確かにパラサイトによって陥落したと思われます。」

「それなら、破壊されていないとおかしいのでは?」

「いえ、パラサイトなら破壊しないと思います。」

「なんだって?」

「思い出して下さい。パラサイトは増殖する事、それだけを目的として行動しています。そして、GMもまた、パラサイトにとっては寄生先でした。ここの施設を乗っ取って、GMを無限に生み出せるのなら、それを利用しない手はありません。現に、古代文明はそれによって滅びています。皮肉な事に、古代文明人はパラサイトにみすみす餌をやったことになってしまったんです。」

「数か月で死ぬ運命にある存在であっても、増殖できるなら構わないと?」

「そうです。むしろ短時間で次々と乗り換えが可能と言う意味で、最適だったのかもしれません。」

「ふむ…。」

「次に一つ目ですが。今日、解放したGMは古代文明人が作ったGMではないと思います。」

「なに? どういう事だ。」

「古代文明人は最後の抵抗として、これ以上GMをパラサイトに利用されまいと全て破壊しました。しかし、パラサイトは寄生先の知識を得る事が出来ます。ほぼ間違いなく、古代文明人を滅ぼした後は自分達で稼働させたのでしょう。その際に、攻撃先をリセットしたんです。自分達パラサイト以外を攻撃する様に仕向けたんです。」

「なんと!」

「最後の三つ目。パラサイトは確かに施設を乗っ取り、GMを利用して増殖する事に成功しました。そして、それが破滅への入り口だったんです。」

「むむ?」

「中尉は、生態ピラミッドと言われるものはご存知ですよね。」

「もちろんだ。食物連鎖のあれだろう。」

「そうです。植物を草食動物が食べ、草食動物を肉食動物が食べるあれです。生態ピラミッドの最大の特徴は上位捕食者が増えた場合、捕食される側は数を減らし、結果的に捕食者側も数を減らして元の数量関係に戻って自然界の均衡が保たれる理由を説明したものです。」


 植物が何らかの理由で急に増えたら、それを食べる草食動物も増える。すると草食動物を餌とする肉食動物も増える。しかし、増えすぎると当然餌となる草食動物が減って餌不足に陥ってしまい、餓死する事になる。結果、一時的には繁栄を極める事が出来ても、最終的には元の数量関係に落ち着くというものだ。


「最初の輸送船で、感染したと思われる船員たちを一つの部屋に押し込めたら、エイアースに着くころには共食いを始めたことを覚えていますか。」

「ああ、思い出したくないがな。」

「あれ、エネルギー不足を起こしたから共食いを始めたんだと思います。あれと同じ事が過去にもっと大規模に、それこそ銀河規模で起こったんだと思います。」


 そう、増えすぎたがゆえに、餌となる存在が減りすぎたのだ。


「ちょっと待て、GMには胃も腸も無いはずだ。仮に、お互いを食いあったところで栄養を補給できないぞ。」


 スグルの解答に中尉は異を唱える。スグルはそれに、首を振った。


「GMそのものではありません。GMを生み出すエネルギー元が不足したんです。」

「…な……に?」


 スグルの返答に中尉は理解が追い付かないようで、一瞬だけ絶句する。


「当たり前ですが、何かを生み出すには必ず原料が要ります。GMだって、無から生み出された存在ではありません。きちんと、元となる材料があります。」

「それは?」

「植物。正確には葉っぱです。GMは、植物細胞で構成された植物です。」




 中尉は今度こそ、何を言われたのか全く理解できずに数分間固まっていた。


「信じられませんか。」

「…当たり前だ。植物は動かない。動けない。」

「でも、間違いなく植物です。嘘だと思うのでしたら、皮膚の一部を顕微鏡で見てみてください。植物細胞独特の細胞壁や葉緑体を見る事が出来ます。」

「……なんと!?」


 外から見た時に、血管、もしくは神経のように見えた筋は植物特有の葉脈だった。GMは、元はたった一つの植物細胞を培養して生み出された生体植物兵器だったのだ。


「逆に中尉に聞きたいです。本当に、700年以上戦っている相手が何であるのかを知らなかったんですか?」

「知らない。知ろうなんて思わなかった。そんな発想すら思いつかなかったし、聞いたこともなかった。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「そこに人じゃないものがいるから撃つんだ!!!」


「800年、800年ですよ。余りにも…余りにも長すぎました。人は…自分達とは違う存在=敵。そう言う認識になってしまったんです。相手がどういう存在なのか、それを知ろうと言う発想が欠落してしまったんです。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 相手を、知ろうとしないというのはこういう事か。知ったうえでどう思うかは、その人次第だろうが、決めつけて知ろうともしないというのは明らかに問題だ。まして戦争中の相手を知る必要性すら認識できないなんて…。

 AI大戦は本当に、人類の精神構造を決定的に変質させてしまったんだな。800年以上、交渉事が一切できず、破壊するか殺されるかの2択しかない状況に置かれたら、そうなってしまうのも無理はないのかもしれない。

 ただ、それだと不思議な事が一つ。


「中尉はパラサイトのサンプルを確保するのには賛同してくれましたよね。あれはどうしてです?」


 そうだ、大尉がパラサイトのサンプルを焼こうとした時、ジェイド中尉と共にこの人は反対してくれた。なぜ?


「あれは…。自身ではなく、相手を乗っ取って使役するなんて前代未聞だったから…かな。ジェイドの言った通り、治療法がもしかしたら見つかるかもと、淡い期待を抱いていたのかもしれない。ただ…、本質的にはわからない。どうしてあの時だけ…あんな気持ちになったのか…。」


 ギルダー中尉は自身の言動に悩んでいるが、スグルからしたら中尉の判断は至極まともなものだ。中尉は以前、同僚が異種族の子供を撃つ姿に疑問を抱いていた。それ自体がこの世界ではかなり異端な考え方だ。だからこそ重要なのだが、中尉も周りもその事に気が付けない。異論を封殺するのではなく、そもそも異論を思いつくことすら出来ない。だからこそ中尉は自分の感情に違和感を感じるのだろう。


「話がそれましたね。GMが植物を元として生産されているのなら、それが枯渇してしまえば当然生産は不可能になります。これが、パラサイトが天下を維持できなかった要因です。考えなしにGMを増産しまくったんでしょう。結果、銀河中から植物が消えたんです。」


 売れているからと増産しまくったら、供給過剰になって価値が暴落して結果は大赤字。経済で言い換えるならこんな所だろう。


「馬鹿な! GMが数か月で死ぬ運命の生き物なら、なおさらその管理と維持には慎重にならざるを得ないはずだ。我々人類に言い換えるなら、パラサイトにとってGMは田んぼだ。収穫を増やそうと種をまき過ぎたら、直ぐに土の養分を使い果たして育たなくなる。そのレベルの失態だぞ!」


 前言撤回、中尉の説明の方が的確だ。


「それが分かる生き物なら、今も銀河はパラサイトの天下です。先の事は考えない、ただ今この瞬間、増えれればいい。奴らは、そういう生き物です。」

「………。」


 スグルの指摘に、中尉は何もいう事が出来ないようだった。


「理屈はわかった。疑問点も解消できた。ただ、最後にもう一つだけ聞きたい。それだけの自信をもって言い切れるのは何故だ? 根拠があるのか?」

「GMに施されている行動プログラムを見たら、何度も改変しようとした痕跡が見つかりました。その中には活動期間を伸ばそうとした形跡や、胃や腸を作ろうとした形跡もありました。GMが対パラサイト用兵器であるのなら、そんな事をする必要性がありません。古代文明人ではない何者かが、弄ったと見るのが適当です。」


 スグルの解答に中尉はいたく感動したのか急に涙声になった。


「プログラムを見るだけで、そんな事まで分かるのか…。君でなければ、到底解析することは不可能だった。まさに救世主だよ。ありがとう。」

「中尉、それは少し違いますよ。」

「む?」


 中尉が頭を下げようとしたのを、スグルは手で制した。


「確かに、プログラムを解析する事は難しかったかもしれません。でも不可能ではなかったはずです。時間はかかったでしょうが、必ずこの世界の人達でも理解する事が出来ました。少なくとも、この施設を制圧した500年前から始めていればもっと早くにGMを味方に引き入れる事が出来ました。仮にそれが無理でも、GMを調べれば彼らが植物であるという事は最低限わかったはずです。ギルダー中尉、この国は…人類存続機構は、知れるものを知ろうとしなかったがために、死ななくていい兵士が死んでいったんです。これは紛れもない事実なんです。」


 自分で言っておいて何だが、酷だと思う。800年の長きに渡って、破壊するか殺されるかの2択を強いられた人類。知らないものに対しての意識が変質してしまったのも理解している。それでも、これは言っておかねばならない事だ。

 500年前、この施設を制圧した時点でGMの研究を開始していればその後の展開は大きく変わっていたに違いないのだ。それはもう、間違い用の無い事実なのだ。

 中尉は無表情のまま、何も言わずにその場で立ちすくんでいた。


設定の補強、穴埋め目的の回。読者が思うであろう疑問に何とか答えようとしたところ、全くつまならい話になってしまいました。

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