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人類存続機構  作者: 青山
39/50

第39話 一筋の希望

「先生! スグルの容体はどうなんじゃ!?」

「落ち着いて下さい、グレースさん。バイタルに異常は見られません。単に眠っているだけです。」


 医務室は混乱に陥っていた。医師と看護士がせわしなく動き、あらゆる数値を確かめていた。

 スグルの身に何か異常が起きたと勘違いされるのも無理はなかった。はたから見た時、スグルは突如として大量の汗をかいたかと思ったらガタガタ震えだし、そのまま奇声を発してぶっ倒れたようにしか見えなかったのだ。ミカエルとガブリエラはスグルの身にすがって泣いていたし、エコー分隊のメンバーもオロオロするばかりだった。


「寝ているだけとな? それにしてはおかしいじゃろう。これだけ声をかけても起きないんじゃぞ!?」

「そう言われましても…。数値は全て、睡眠を取っているという結果しか示していないのです。」


 オリビアもこの事態に困惑していた。数値には何の異常も見いだせなかった。彼はただ、眠っているだけだ。しかし、ただの眠りにしてはおかしいのも確かだった。何十年も人体を見てきたが、こんな睡眠は初めてだ。まるで体から何か重要な物が抜けてしまっているみたいだった。

 

 彼女の推測は当たっていた。まさか魂が一旦別の場所に行っているなど、彼女に限らず想像しろと言う方が無茶であろう。


「起きるじゃろ?」

「もちろんです。」


 いつ起きるかは不明ですが。グレースの問いに、オリビアは後半の言葉を発する事を避けた。わからない、一体彼の身に何が起こったのか………。


「……………………………………………………………………………………う~ん。」


 オリビアが頭を抱えたその瞬間、スグルの体に変化が起きた。モゾモゾと動き、やがて目をうっすらと開けた。


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「!!???」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 そばにいたミカエルとガブリエラは仰天して飛び上がったついさっきまで死んだように眠っていた人物が突如として覚醒したのだ。その場にいた全員が驚いて硬直した。


「…ここは?」

「ス、スグルさん! 大丈夫ですか!!?」

「スグル、良かった…目を開けた……。」


 最初に飛び込んできたのは二人の泣き顔。まいったな…、また泣かせてしまった。ついさっき、大尉に泣かせないと誓ったばかりなのに……。


「二人ともごめん。もう大丈夫、心配してくれてありがとう。」


 そう言って泣く二人の髪を撫でた。

 

「ス、スグル! 大丈夫なのか! 気分は!?」

「大尉も…。はい、問題ありません。少し、夢を見ていたみたいです。」

「夢?」

「はい、夢です。大尉、お話しなくてはならない事があります。」

「話だと? 何だ?」


 スグルは夢の内容を話した。同時に、自分のいたかつての世界を。夢の世界はともかく、元の世界の事は大尉とママ、そしてミカエルとガブリエラには初耳なはずだ。


「…神……と言うのはよくわからないが、とんでもない奴だな。」

「ええ、本当に。でも重要なのはそこではありません。」

「む?」

「大尉、自分は全ての言語を理解して話すことが出来ます。文字もそうです。今、こうして話していますが、自分にとっては日本語で話しているとしか認識していないんです。実際には、自分は大尉に何語で話しかけていますか?」

「………エイアース語だ。」

「そうですか…。ジェイド中尉、中尉と最初に話した時に驚かれていましたね?」

「まあね。僕の出身はエクパルと言って、とても希少な言語なんだ。喋ることが出来るのは1万に満たない。だから最初は驚いたよ。」

「そうだったんですか…。今も?」

「うん。君は常に、僕にはエクパルで話しかけてるよ。」


 不思議な感覚だ。こっちは日本語で話しかけているのに、向こうには違う言語で聞こえていると言う。向こうも当然、日本語で話しているはずがないのだが、そう聞こえる。これで早期に気がつけなんて…無茶だろ。


「よくわからねえが…、意思疎通に困らないんだから良いんじゃねえのか? 何か問題があるんすか?」

「ダーム少尉、実はそこが重要なんです。」

「へっ!?」

「意思疎通、つまりコミュニケーションに困らないという事は、自分はエイリアンとも話すことが出来ます。皆さん、聞いてください。エイリアンと話して交渉をする事が出来たなら…今、人類の置かれている状況を改善することが出来るかもしれません。つまり、攻撃を止めさせることが出来るかもしれないんです。」


 スグルの言葉に、その場にいた全員が困惑して固まった。多分、何を言っているのか理解出来なかったのだろう。


「首を捻る気持ちは分かります。でも、このままじゃ人類は本当に危うい。大尉もそれは薄々感じているでしょう?」

「いや、まぁ…それはそうだが……。エイリアンと話して何が変わるんだ???」

「こちらを攻撃する理由を聞いて、対処や妥協が出来るなら議長に進言します。大尉、お願いです。自分を最前線まで行かせてください!」

「何だって!? そんな無茶な!」

「お願いです。Δ戦線司令官であるジャクソン将軍の言葉を思い出してください! 「人類がこれから先も宇宙に存在し続けられるか否かはこの先1年以内に決まる。」将軍はそうおっしゃっていたではありませんか!」

「それはそうだが…。」


 そこに、ミカエルとガブリエラが割り込んできた。


「スグルさん! スグルさんは今、休暇中なんですよね! それなのにわざわざ戦場に行くんですか!」

「休暇中と言っても、休暇らしい休暇を取っていない。少し休んでからでもいいはず!」


 二人の目にまた光るものが浮かぶ。大切な人に少しでも多く傍にいてほしい。危険な場所に行ってほしくない。それは決して責められるべき感情ではない。しかし、今は駄目だ。


「二人ともごめんよ。でも行かなくちゃ。今は動くべき時なんだ。将来、君達と多くの時間を共にするためにも、ここで動かなきゃ意味が無いんだ。」


 タイムリミットが迫っている。しかも、それはそう遠くない。余力がある内に、何とかしなくてはならないのだ。


「二人とも、行かせてやれい。」

「「ママ!!」」


 ママが口を開いた。その目にはやはり光るものがあるが、意思ははっきりしていた。


「人には、負けると分かっていても、たとえその敗北が死に繋がるとしても、戦わなければならない時がある。スグルにとって、それが今なんじゃろう。」

「「そんな!!」」

「落ち着けい! スグルの目を見ろ。死に行く人間の目か? 違うじゃろう。生をつかみ取るための目じゃ。スグルははっきり言ったぞ。二人と長い時間を過ごすと。そのために今行くのだと。男の覚悟を邪魔してはいかん!」


 流石だ。これでミカエルとガブリエラは大人しくなった。

 ベッドから降りて、立ち上がる。後は…。


「最前線に行くなんて…やっぱり駄目だ。許可できない!」

「何故です!」

「俺だって君を死なせたくないのだ! そもそも、話が出来る保証がない! いきなり銃撃を受けるのが落ちだ!」


 う、それは確かに…。うーん、これはどうやって納得させようか……。


「隊長、ありますよ。」

「なに!?」


 その時、それまで黙っていたギルダー中尉が口を開いた。この人は何を…?


「話が出来るかどうかはわかりませんが…、要はエイリアンの言語と文字が分かることが証明できれば良いのでしょう?」

「ええ、そうですけど…。中尉、何か良い案があるのですか?」

「G79c基地に向かう途中、GMが生体兵器だと聞いて君は驚いていた。覚えているか?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「防具どころか服すら開発できないのに宇宙船は作れるって変な知的生物ですねw。」

「何言ってやがる?」

「何言ってるの?」

「…知的生物?」

「スグル、GMは知的生命体ではないぞ。あれはどこかの宇宙人が作りだした生体兵器だ。まさか知らなかったとは…。」

「知的生命体じゃなくて生体兵器だってどうしてわかったんですか?」

「昔、奴らの拠点の一つを攻略したらそこは生産施設だったらしくてな。数十万ものGMがシリンダーに入っている光景には度肝を抜かされたことを覚えている。大戦中に幾つか攻略しているんだが、宇宙で幾つのそういった生産施設があるのか見当もつかない。事実上無限大に生産されると思っていい。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 思い出した。あの時、初めてGMが知的生命体ではない事を初めて知ったんだった。


「あ、はい。思い出しました。でも、それが何か?」

「その攻略した拠点に行けば、奴らの文字が残されているはずだ。そこなら最前線まで行かなくていいし、何より戦闘の危険が無い。」


 さ、流石ギルダー中尉!! ここぞと言う時に頼りになる!


「そ、それです! それで行きましょう!! 大尉、それならいいですよね!」

「ああ、それなら問題ない。」

「じゃあ早速…。」

「待て!」

「…え!?」


 許可が出たので直ぐに行動を起こそうとした所を大尉に止められる。何か今ので問題でも?


「私も行く。」

「…えっ!?」

「「「!??」」」


 な!? 大尉まで!!?


「一人で行けます!」

「駄目だ。単独行動は許可できない。私も行こう。」

「戦闘の危険はないんですよね? それに休暇は?」

「関係はない。私も同行する。それが条件だ。」


 大尉の悪い癖が出たか? いや、それにしては何か変だな。


「正直、半信半疑なんだ。話している言葉がそれぞれ違う風に聞こえるだなんて…。いくら何でもそれはどうかと。だから私も付いていく。」


 うーん、そういう事か。確かに、普通に考えたら別々の言語で喋っているのに、同一言語に聞こえるって信じられる訳がないよなぁ。


「わかりました。何だか休暇を潰すようで申し訳ないですが…。」

「それはお互い様だろう。と、いう訳で私とスグルは行ってくる。お前たちは残って休暇の続きを…。」

「何を言っているんです。私も行きますよ。」

「「えっ!?」」


 ギルダー中尉まで!?


「何、勝手に話を進めてるんですか。当然僕も行きますよ。ダーム少尉もそうでしょう。」

「当ったり前ですぜ! 一人だけ除け者なんて冗談じゃねえです。あっしも行きますぜ!」


 ジェイド中尉とダーム少尉まで!?


「ちょ、ちょっと待ってください! 何もわざわざ皆さんまで…。」

「おっと、そこまで。水臭い事は無しだよ。僕達が、行きたいからいくのさ。それに、初めての場所に一人で行くのは不安だろう。危険だってゼロじゃあない。例え大尉が行かなくても、そこが最前線だろうと僕は志願したさ。君と一緒にいたいんだ。」


 ジェイド中尉が笑顔でスグルの言葉を遮る。その言葉に頷くダーム少尉とギルダー中尉。


「皆…。すみません、ありがとうございます。」


 改めて、仲間のありがたさが身に染みる。休暇を潰してでも、一緒に来てくれると言うその姿に目頭が熱くなる。


「ギルダー中尉、その制圧した拠点というのはどこなんですか?」

「T46。惑星T46dだ。」




 惑星T46d。かつて、スグル達が命懸けでおとりを果たし、ビーストアークから奪還した地。その地に再びスグルは来た。


「まさか、基地の地下にGMの生産施設があったなんて…。」

「知らない人の方が珍しいんだけどね。」

「教えていなかったからな。そこは私の落ち度だ。」


 ジェイド中尉が冷やかし半分呆れ半分でスグルを弄ると、大尉が弁明してくれた。


「しかし、広いですね。」


 見上げると天井まで100Mは優にありそうだ。幅はそれ以上あるし、奥行きに至っては向こうが見えない。そして、その空間一杯に淡い緑色の光を放つカプセルが並び、中にはGM達が眠っていた。


「ここのGM達は生きているんですか?」

「電気は生きているから、そのはずだが…。」


はて? なんか奥歯に物が挟まったような言い方だな? 生きてる、死んでるをどうして明言できないんだろう?


「研究者達はなんと言っているんですか?」

「研究者達? 何の事だ?」


 えっ!??


「GMを研究する絶好の場所じゃないですか。生体を調べれば弱点とかもわかったのでは?」

「……………………………………………………………はぁ…じゃくてん……ねぇ………。」


 大尉が首を傾げ、スグル以外のメンバーも意味が分からないと言うジェスチャーをする。

 おいおい冗談だろ。


「この施設は発見したのは何時なんですか?」

「説明しただろう。500年程前にこの惑星を制圧した時にだ。それがどうかしたのか?」

「まさかと思いますけど、その時からずっと放置しているんですか?」

「そうだが?」


…信じられない。絶好の生体サンプルが手に入るのに、何も調べていないのか!??


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「相手と話し合う。分かりあおうと言う、相互理解の概念が……きれいさっぱり無くなったんですか………。」

「素晴らしい、100点です。その通りです。800年、800年ですよ。余りにも…余りにも長すぎました。人は…自分達とは違う存在=敵。そう言う認識になってしまったんです。相手がどういう存在なのか、それを知ろうと言う発想が欠落してしまったんです。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 大尉達の不思議そうな顔を見た時、教授との会話を思い出した。

 戦争をしているなら、相手の事をむしろ研究しなくてはと思うのが普通なはずだ。しかし、この世界の人々はあまりにも長い間、相互理解が不可能なAI相手の戦いを強いられてきた。対話も和解も望めない相手と種の存続をかけて戦った結果、相手を知る必要性が分からなくなってしまったのだ。

 

 大尉はパラサイトのサンプルをあっさり焼こうとした。あれはこの世界では普通の反応だったんだ。サンプルを確保できたことは相当異例で、そして幸運な事だったんだ。


「見えてきたぞ。」

「!? あれが…。」


 さらに奥に行くと、事前に聞いていた施設のコントロールパネルらしきもの。映像を映すためのスクリーンと、タッチパネル式だろうか? キーボードが暗闇に浮かび上がっている。

 それらをしばらく眺め…そして、思わずガッツポーズをした。


「よし! わかる!!」


 そう、わかるのだ。理解できるのだ。キーボードに書かれている文字は、明らかに日本語ではないはずなのだが、スグルには理解できた。

 キーボードを叩くとスクリーンが反応して光を放つ。検索エンジンを見つけて施設情報を出すと、スクリーンにはこの施設の全体像と説明文が映し出された。


「………すごい。地上の基地の何倍も広いじゃないか! 今稼働可能なのは1割程度だけど、ここだけで1日最大100万体を生み出せたのか。それに…他の施設の位置も示してくれてる。…これは! ここの同じ規模の施設が銀河中に点在してる! …100はあるな。と、いう事は一日で最大1億体ものGMを生産していたのか!」


興奮気味に話すスグルに、大尉達は全く付いていけずに置いてけぼりを食らっていた。


「…なんだか、すげぇ嬉しそうじゃないですかい?」

「ホントだね。ジャイアントを見た時と同じくらい感動してる。」

「………。」

「こんなものを見て、本当に何かが変わるのか??」


 加えて大尉は、目の前の情報が何を意味しているか分からずに困惑していた。普通なら宝の山なはずなのに、それすら理解できなかった。ただし、それは大尉だけの問題ではない。これの重要性を理解できる人間は、現時点では教授とスグルくらいしかいないであろう。理解できないのではなく、理解する必要性を認識できない。まさに、これこそが大問題であった。


「…うん? 通信記録?」


 スクリーンに映し出される情報の中に、メールのアイコンを見つけたスグルはそれをクリックしてみた。果たしてそこには、こことは違う施設との、外部とのやり取りが記録されていた。




『宛先 エリック:ヒューズ

 Cc  パラサイト対策本部


エリックへ。こちらは何とか完成が間に合いました。ですがNo122は駄目でした。9割がた完成したところで奴らの襲撃を受けて所員は全滅。施設も奴らの手に落ちました。122で生産開始したばかりのGHも奴らに変貌した事でしょう。残念です。


ローズ:ハフマンより。                       』


『宛先 ローズ:ハフマン

 Cc  パラサイト対策本部


ローズへ。施設が完成したとの事、まずはおめでとう。これで奴らに対抗できる最低限の戦力が揃ったことになる。122の事は残念だ。あそこが稼働していれば、ずっと楽になるはずだったのに。君の友人のマリーも駄目だったんだね。悔しいだろうね。彼女の敵を討とう。必ずあの忌々しい寄生スライム共を、この宇宙から根絶やしにするんだ。それが、残された僕たちの使命だ。


エリック:ヒューズより。                            』


『宛先 エリック:ヒューズ

 Cc  パラサイト対策本部


エリックへ。マリーだけではないわ。奴らが現れて10年足らずで、一体どれだけの人が犠牲になったか。その数字を見るだけで涙が出てきます。奴らのせいで私達の文明は崩壊の危機を迎えています。今まさに、私達が生み出している生体兵器、GH(グリーンホープ)が奴らを倒してくれる事を祈るばかりです。」


ローズ:ハフマンより。                             』


『宛先 ローズ:ハフマン

 Cc  パラサイト対策本部


ローズへ。もちろんだとも! 僕たちが開発した生体兵器GH(グリーンホープ)は、これまでの「寄生させない、されない」から、あえて寄生される事を前提に作られた、これまでの対パラサイト対策を根本から変えるものだ。GHは胃も腸も無いから、感染されても数か月でエネルギーを使い果たして活動を停止する。動き回れば、その分エネルギー消費も激しいからもっと早く停止するはずだ。最初から死ぬことを前提に作られた兵器ゆえに、奴らはそれ以上その個体から感染する事は出来ない。加えて、射撃の腕を意図的に落としてある。これなら、安心して遠距離からの対処が可能だ。ローズ、僕達は勝つんだ。勝って未来を手に入れるんだ。


エリック:ヒューズより。                                  』


『宛先 エリック:ヒューズ

 Cc  なし


エリック。先ほどNo89に次いで、No102も陥落したと報告がありました。ここにも奴らが迫っています。あなたの所にも1兆を超える大軍が迫っているはずです。残念ですが、これまでです。私達がGHを生み出す速さよりも、奴らの感染スピードの方が上回っていたようです。今や各地の生産施設が、逆に奴らの増殖に使われています。エリック、私は今から銀河中に散らばる施設の機能を停止させます。稼働中のGH達にも、今すぐ自決するよう指示を出します。これ以上、GHが奴らの増殖に利用されてはなりません。私達の文明は滅びるでしょう。子供たちに、未来を見せることが出来なかった…。本当に、本当に残念です。さようならエリック。願わくば来世でまたあなたと会いたいです。来世があれば、ですが…。


ローズ:ハフマンより。                                  』


『宛先 ローズ:ハフマン

 Cc  なし


ローズ! 待って、待つんだ!! まだ何か手があるはずだ!! あんな、あんな増殖するしか能のないスライム連中に、僕らが負けるわけが無いんだ!!! 諦めるのか! 文明が誕生して5万年。最初の僕らが生まれて500万年。その月日を、あんな寄生スライムのために! たった10数年で、銀河全土を支配した僕らが跡形もなく破壊されるだと!! そんな事は断じて! 断じて許される事じゃない!! 勝つんだ! 僕らが勝つ! 勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つカ…………………………………………』




「………。」


 読み終えてスグルは絶句した。GMの正体もさることながら、パラサイトが遥か昔にこの銀河で猛威を振るい、一つの巨大な文明を完膚なきまでに滅ぼした事。その事実に戦慄した。


「スグル、何が書かれているんだ?」


 大尉の問いでようやく我に返り、メールの内容を伝えると、大尉達も息を飲んで押し黙ってしまった。


「それ、本当かい?」


 しばらくして、ようやくジェイド中尉が口を開いたが、半信半疑な様子だ。


「ジェイド中尉、嘘を付いてどうするんですか。何の得にもならないですよ。」

「で、でもよ。それが本当なら、あのパラサイトってやつは想像以上に厄介な敵だぜ! どうすんだよ。俺たちも最終的にはあれになっちまうのか!」

「落ち着いてくださいダーム少尉。このメールの中身から、ここから全ての施設をコントロールすることが可能な事がわかりました。さらに、GMの行動にも関与することが出来るようです。それを使って、まずは人類への敵対行為を止めさせます。」

「!? そんな事が可能なのか!」

「可能です、大尉。いえ、可能にして見せます。」


 本職には当然劣るが、これでも元IT企業の営業担当だ。プログラムの何たるかは、ある程度理解している。

 ファイルを幾つも開き、そこに書かれている内容を読み解いていく。




 どれくらいの時間が経ったのだろうか。Enterキーと同じ役割のボタンを押すと、瞬時に命令がカプセル内で眠っているGM達に伝達されていくのが分かった。


「大尉、そこのカプセルを開けます。出てくるGMは敵対行為を取らないはずです。が、念のため気を付けて下さい。」

「本当にやるのか?」

「はい。」

「……わかった。全員、構え。」


 念のため全員装甲服は着てきている。大尉達が銃を構えた先のカプセルがプシューという音と共に開く。中にいたGMが目を覚まし、ゆっくりと起き上がった。


「…自分の言葉がわかるか?」


 GMの言葉で話しかけてみる。


「…………はい。」


 返事をした!


「我々に敵対しないか?」

「…あなた達人類を、攻撃するなと命令されております。」

「証拠に、両手を上げてみてくれ。」

「御意。」


 GMは黙って両手を上げて、いわゆる降参のポーズをとった。


「やった! 大尉、成功です!」

「……………………………………………………………………信じ……られん。本当に……。」

「うわーお。マジかよ。」

「こんな事が……現実に起こるなんてよ。スグル。おめー、歴史を変えたぞ。オリヴァー氏以来の救世主だぜ!」

「………。」


 GMの様子に、大尉達は愕然となり、しばらく動くことが出来なかった。

 その間に、スグルはこの命令を銀河中に散らばっている稼働中のGM達に送信する。これで、人類に敵対する事は無くなるはずだ。同時に、人類は大量の戦力を得ることが出来るだろう。




「ようやく出てきたか! 遅かったな、丁度今迎えを……!!!?」


 地上の基地に戻ったスグル達を、T46d基地の基地司令となっていたザルス大佐が出迎えてくれた。大佐はスグル達の訪問を痛く喜んでくれて、地下にあるGMの施設への入室許可も直ぐに出してくれた。

 その大佐の顔が驚愕で固まってしまった。無理もない。なにせ出てきたスグル達の後ろから、GM達がゾロゾロと付いて歩いてきているのだから。


「たたたたたたたた大尉!!? 後ろのGM達は!!????」

「大佐! そんな事を言っている場合ですか!! 総員構え!!!」


 大佐の側近らしき人物が、部下たちに指示を出す。固まっていた兵たちも即座に反応して銃を構える。彼らの反応は異常でも何でもない。極々当たり前のものだ。


「ススス、ストップストップ! すみません皆さん! 大丈夫です! 大丈夫ですから!!」


 慌てて制止する。


「大佐、聞いて下さい。もう、GM達は敵ではありません。むしろ私達人類に従順です。人の命令に従うよう再プログラムしました。これからは強力な、頼れる戦力として重宝する事になるでしょう。」

「……は!?? 何を言って…。」

「見て下さい! 彼らはほら! 銃を向けられたにも関わらず、襲ってきません。もう敵対する相手では無いんです。きっと、直ぐに各地からGMが敵対行動を停止したという連絡が次々と入ってくるはずです!」

「…………………………………………大尉。本当かね???」


 大佐が半信半疑といった感じで大尉に確かめる。まあ、いきなり信じろと言う方が無理な話だ。これは致し方がないだろう。


「大佐…今までの常識通りなら、既に戦闘が始まっています。」

「……………………………………………………………………………………信じられない。」


 今だ大人しいGM達を見まわしながら、大佐は呟いた。


「ふむ…。総員、整列!」

「…!?」


 半信半疑の大佐に、スグルは大佐と大佐の部下の目の前である事をやって見せた。


「大佐、見て下さい。」

「…並んだ……!?」


 今のスグルの号令に、GM達は一斉に反応して規則正しく整列した。


「前へ倣え!」 ザッ!

「!!?」

「直れ! 休め!!」 ザザッ!

「……………………………………………………………………………………(  Д ) ゜ ゜」

「ポポポポポ( ゜д゜)゜д゜)゜д゜)゜д゜)゜д゜)ポカーン…」


 その光景に大佐は目の玉が飛び出し、部下達も開いた口がしばらく戻らなかった。


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