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ティアラの戦い終幕

 あれから数日か。早いものだな。

 今私がいる監獄はわが国でも最大のものだ。

 重罪人も多く収容されており、奴がここに収監されたのも当然と言える。

 しかしこの監獄は相変わらず寒いな。魔術で作り出されているこの凍てつくような冷気を、私もかつては味わったものだ。

 それも今日で終わる。今日を最後に、もう二度とここに来ることはないだろう。

 さて、それでは牢獄にいる哀れなローラスの顔でも拝んでやるとしようか。

 面会の許可を得ているからスムーズに内部に入れた。煩わしいことが無くて大変よろしい。案内人の同行はお断りした。道は、体が覚えている。そろそろか。

 ふぅ、到着した。あれだな。

 牢獄の前に立つ。するとローラスは私の存在に気付いたようで、憔悴しきった顔を見せたかと思うと、先に話しかけて来た。


「なぜだなぜ僕の計画が君にばれたんだわからない君のような愚鈍だったはずの女に……」


 なんだブツブツと。早口だな。それが仮にも婚約者だった私への態度か?

 まあ確かに以前の私は愚鈍だったかもしれないな。地位にかまけていたのもあるかもしれない。

 ある意味、私はお前のお陰で強くなれたのかもしれないな。感謝するわけではないが。


「ふっ、知りたいか?」

「……教えろ」


 ふむ、では教えてやるとしようか。言った所で、どうせ信じられないだろうがな。


「お前は不思議に思わなかったか? なぜ私が、ただのいち生徒でしかない私が暗殺者共の動きに対応できたのか」

「そうだ。それがまずおかしかった」

「答えは簡単だ。なにせ私は、もう数十回、いやもっとか。何度も彼らと交戦しているのだからな。動き位、簡単に見切ることが出来るのだよ」

「何を、言っている? 彼らは僕の手の者で、表に出たことはないんだぞ」

「その問いには既に答えているようなものだ。そして、お前が一番気になるのは、なぜあの場に合わせて私が貴様の犯罪の証拠と、それを実行する仲間を見つけられたのか、そうだろう? あまりにも手際が良いとは思わなかったか?」


 ローラスは黙ってうなずいた。


「それはな、私が時間を行き来できるからだ」

「は?」

「もう一度言うぞ。私は、時間を行き来できるのだ。正確には、定められた期間を繰り返すものだがな」


 はっ、驚いているようだな。


「この能力が発動するトリガーは、私の死だ。初めてあの卒業式を迎えてから、私は貴族の身分を失い、一族郎党、処刑台に掛けられていた。その時の貴様の愉悦の表情は、今でも覚えている。驚いたぞ、しかも貴様が連れていた女は、隣国の姫殿下だったのだからな。どこまで汚いのだ貴様は」

「バカ……な」

 

 ローラスは力を失ったように床にへたり込んだ。

 何かを諦めたような顔をしているが、最後の手向けとしてもう少し話してやろうか。


「どうだ、信じたか? あれから大変だったのだぞ。根回しに次ぐ根回し。自身の短期間における戦闘訓練。レスター殿への謁見の場のセッティング。ああ大変だったさ。それもこれも、私に偽の愛情を見せてまで陥れようとした貴様への制裁のためだ」


 反応がない。もう、ローラスは壊れてしまったのだろうか。

 もう、終わりにしよう。貴様はメイセル共々、ここで死を迎えることになるのだ。


「では、さらばだ。これまでの悪事を反省し――」

「愛してる」


 ふざけるな。

 その甘言にはもうウンザリしている。


「何を言っている? 気でも触れたか」

「今なら、まだ間に合うよ。僕にはこうするしかなかったんだ。だから、まだやり直して……」

「私は十分やり直した。もう、いい」

「愛しているんだ、ティアラ。僕は死にたくない」

「知らされてなかっただろうが、貴様は死刑になどせん。そこで朽ち果てるまで、己の不運を呪うがいい」


 私はそれだけ言うと、出口に向けて一歩踏み出した。

 後ろは決して振り返らずに。今もまだ、愛してるとすすり泣くような声が聞こえて来る。

 もう、私は前を、未来を見ている。過去は振り返らない。

 ではさらばだ。ローラス。

 かつて一度は愛した男よ。

ご覧いただきありがとうございました。

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