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こんばんはおはようございます。
前話はツイッターで多くの方にリツイートしていただいたおかげか、PV数が大きく伸びていました。
本当に、本当にありがとうございます。
「そろそろ話を続けてもよろしいでしょうか」
「…………大丈夫だ。続けてくれていいよ」
数分間、黙って脳を休ませれば嫌でも落ち着く。話を聞くぐらいの余裕はできる。
まぁ気分は最悪で、どん底だが。
あらゆる場所で殺し合いが起きていて、俺たちは狩られる側。これを聞いて落ち込まないやつがいるなら見てみたいものだ。
「フォローのために一応お伝えすると、ロストの動画はきっかけ程度でした。見たプレイヤーはPKerを警戒するようにはなりましたが、すぐ凶行に及んだわけではありません。またPKer側も動画の内容は確認していました。そのため彼らも自分たちの立場が危ういことを自覚はしていましたし、なるべく刺激しないように行動していました。それこそ初めの頃は距離こそあれど、話し合いなども行われていたぐらいです」
「ならなんで、」
「殺人が実際に起きてしまったのです」
眩暈。
「……誰が、いやどっちがそんなことを?」
「どちらもです。PKKとPKがほぼ同時に違う都市で」
乾いた笑いがでる。
今ではもう相容れない両者はその一点、互いを傷つけあうというところでのみ折り合いがついてしまった。なんという皮肉だろうか。
「? なにか面白いことでもありました?」
ノーシャにこの感覚はわからないようだ。淡々と話を続けていく。
「まぁいいです。話を進めましょう。掲示板の使用ができないため情報共有が個人間のメール機能に依存していたことが、さらに事態を悪化させました。人から人に無差別に伝えられる内容は、背びれ尾びれがつき、どれが事実だったのか分からないほどになってしまいました。それで混乱したプレイヤーたちは問題解決のため、PKerの隔離を行おうとしました」
「結果、恐怖を感じたPKerが逃亡や、自衛を働いた結果が今現在の状況というわけか」
「ええそうです。とりあえず以上の出来事により両者の溝はもはや修復不可能になってしまいました。かくいう私も危険を感じたためにクラーから逃げ出したわけです」
「なるほどね。それでさっきの依頼につながるわけだ」
「そうなりますね。ロストと違い、明確にPKKに追われているわけではないのですが、結局のところ見つかったら殺されるという状況には変わりがありません。そのため環境下で生き残るうえでのパートナーが必要だと判断しました。」
それってほとんど俺と同じ状況なのではないだろうか。
深いため息が出る。まさかノーシャ――というよりこの場合PKer全般か――の問題がここまでひどいとは……。
不幸自慢ではないが俺よりひどい奴はいないと思っていたし、だからこそノーシャに協力しようと思っていた。それがふたを開けてみれば、俺と同じだとは思ってなかった。先が思いやられる。
「以上で現状の説明は終わりになりますが」
「あぁ、ありがとう。よくわかったよ」
「それはよかったです。ただ……」
「ただ? まだ何かあるの?」
「残念ながら、私にとってはより深刻な問題が一点」
どうやらまだ問題があるらしい。この際、毒を食らわば皿までだ。むしろ後で教えられるよりよっぽどいい。
話を続けるように促すと、ノーシャは再会した時から背負っている武器を、手に取って俺に見せてきた。前にパーティーを組んだ時と変わらないように見えるが、改めて見せてきたのは何か意図があるのだろうか。促されるまま彼女の獲物を確認する。
それはずいぶん古めかしい銃だった。だが決して壊れているとかそういうわけではない。むしろよく手入れがされており、新品同様の輝きを保っていた。古めかしいのは存在そのものだ。一世紀ぐらい前に活躍したものだろうか。第一次、第二次世界大戦を取り扱った戦争映画に出てくる兵士たちが使っていたような気がする。恐らく史実で運用されていたものをモデルに作っているのだろう。もっとも参考になった武器がどういった名前なのかは、そういう分野に疎い俺にはさっぱりわからないが。
まぁそんなことよりも、今はなぜノーシャが自分の銃を見せたかということだ。俺が疑問の目を向けるのと、彼女が口を開くのはほぼ同時だった。
「装弾数を確認してください」
言われるがまま装弾数の確認をすると、そこには四と表示されていた。
「実はクラーから脱出する際、急いで出る必要があったためにほとんどのアイテムを回収することができませんでした。その結果、現在深刻な弾不足に陥っています」
「すると、あれか。もしかしなくても、この四発だけしかないのか」
「えぇ、お恥ずかしながらその通りです。一応少しずつなら弾を作成することはできますが、実戦闘で消費する平均弾丸数を考慮すると、焼け石に水というべき状態でして……」
ノーシャの左目、猛禽類のような魔眼とは違いエメラルドのように美しい緑眼が揺れる。俺が今の情報で非協力的にならないかどうかに不安を感じたのだろう。だがそれはいらぬ心配だ。というより、もう手を組まないという選択肢はない。そんな甘えたことを言えるような状況ではなかった。それに――。
「それぐらいは問題ない」
「えっ?」
「弾不足は心配しなくていいってこと」
事実として些細な問題だった。無論ノーシャに戦闘能力があったほうがいいのは確かだし、そう考えると攻撃手段がないのは痛手だが、俺が彼女に求めているのはそれとは違うものだった。
「別に俺は戦おうとは思ってないからさ。当然必要が生じたら戦ってもらうし、弾が補充できる状態であれば補充はしてもらうけど」
「であれば私は何を……」
「その右目にあるじゃないか。君にしかできないことが」
「…………あぁ、なるほど」
これだけで、こちらが何を考えているのか分かってくれるノーシャに心強さを感じる。ギャグセンスが壊滅的なことや、あまりに冷淡そうなところが玉に瑕だが、そこに目をつぶれば歴戦のPK。頼もしいかぎりだ。
「了解しました。それでは最終確認を行いますが、お互い協力し合うということでよろしいですね?」
「それは勿論。こんな状況だけど、かの〈魔眼の射手〉さまと、再び手が組めるなんて光栄の至りだよ」
笑いながら手を差し出す。
「それは私もです。〈恩寵を棄てし者〉さま」
結果的に交渉は決裂もせず、ましてや戦闘になることもなく上手くまとまった。
二回目の握手。それは初めのものよりより確かなものだった。
こうして俺とノーシャはともにこの狂った世界でともに行動することになった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
改めてになりますが、宣伝協力ありがとうございました。
もしよければ今後ともよろしくお願いいたします。
失礼いたします。




