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遙かなるシアラ・バドヴィアの軌跡  作者: 乾 隆文
第一章 第二十六節 第62回サリア魔法大学院習得技識披露大会
208/220

1-26-11.直接対決(序)







 アルセステの弾指に従い、空に氷の粒が生まれる。


 生まれては落ちる、ティリルに襲い掛かるように。


 目視で確認しながら、降りしきる雹を避け続ける。


 まるで激しいダンスでも踊らされているかのよう。


 直撃すれば大怪我を免れないだろう。危機感が心を痺れさせる。


 違う、応戦しなければ。もう一人の自分が、ティリルを奮い立たせた。


「……精霊さん、襲ってくる雹を溶かして。私を、守って!」


 強く念じ、炎を、宙に浮く氷の塊にぶつける。


 二つ、三つ、四つ。炎は次々に生まれ、空中で氷の塊とぶつかり、それを溶かす。


 拳大もある氷の粒を、空中での体当たりで完全に水にすることは難しいが、少し小さくしてやるだけでも脅威は格段に減った。


 ふ、と微笑む。


 魔法が成功したことで、心に余裕ができた。


「落ち着いてティリル! 今はあなたの方が有利なのよ!」


 背後からミスティが声をかけてくれる。


 そう。わかっている。ルールは確認した。


 この競技は基本的には風船の取り合い。だが同時に、引き分けだった場合風船を多く壊した方が負け、というルールも大きい。


 アルセステが風船を十まで壊したことにはどんな狙いがあるのだろう。少なくとも、残ったひとつをティリルは自陣に収める必要はない。壊せばいいのだ。それだけで、ティリルの勝利になる。


「精霊さん。水の力を私に貸してください……。あの風船を壊すのを手伝って!」


 手の平から、水の塊を続け様に放つ。狙うはアルセステの手許。まるで自分のもののように翳した左手の下に守る、たった一つ残った風船。


 アルセステも応じる。水の塊で、ティリルの水の弾丸を撃ち落とす。


 にんまりと笑い、壊させるわけないでしょ、と挑発的に言い捨てた。


「水鉄砲で私に勝てると思わないでね」


 空いた右手。横薙ぎに振ると、今度はティリルの足許が揺れる。


 気付き、横っ飛びに避けたティリル。元居た場所に目を向けると、そこには棘状の土塊がいくつも飛び出していた。


「ほら、もっと逃げなくていいの?」


 さらに楽しそうに、腕を連続で振り上げるアルセステ。


 その手の動きに従って、次々と鋭い棘が、際限なく飛び出してくる。


 後ろに、横に、跳んでそれらを避けていく。


 地面が、耕された畑のように、細かく刻まれ柔らかくなっていく。


 ――逃げてばかりじゃダメ!


 一つ、間近の棘を避け、着地した瞬間攻撃を狙った。


「精霊さんっ、炎を……っ、アルセステさんの周りを炎で囲って!」


 瞬間、アルセステの周囲を取り囲んで、円形に炎が上がる。


 ちょうど彼女の腰の高さまで。身動きを封じた形。


 棘の攻撃も、そこで止む。


「あなたにしちゃすごいけど、でも残念ね。この程度の火遊びで私をどうにかできると思った?」


 陽炎の向こうから微笑みを寄越すアルセステ。


 そして、持ち上げた右手を頭上でぐるり一周。その軌道に従って、水が生じる。


 炎の真上、やはりアルセステを囲うように生じた水は、そのまま落下し、火を鎮めた。


 だが、鎮火と、ティリルの次の手は、ほぼ同時だった。


「――風を!」


 下から上に、気流を生じる。水の外側を撫でる形。


 炎によって上昇の様子を見せていたアルセステの周囲の空気が、外側からも持ち上げられて一気に空へ翔ける。


 狙いは彼女の左手。ふわりと風船を持ち上げることに成功し、後は狙いを定めるだけ。


「引き裂いてっ!」


 ボールでも投げるようにかぶった右手から、天を目掛けて放った氷の矢。


 風船の布を掠ればそれで試合終了。そのすぐ手前、僅か三センターン辺りまで迫ったところ。そこであえなく矢は砕かれる。


「惜しかったわねぇ。残念至極」


 目元を歪めて、微笑する妖魔(ネデルア)


 火も水も風も収まったアルセステの周囲。何事もなかったように風船はふわりと下降し、もう一度彼女の左手許に収まった。触らない。触れば減点対象になる。ただ、手の平の上に浮かべているようにして、安定させているのだ。


 ティリルは攻撃が失敗に終わった、その口惜しさに、舌の根元をくっと鳴らした。


「言っておくけど、風船を壊して終わり、なんてつまらない幕引きを本気で狙えると思わないでね。私はほら、ここまでのあんたの攻撃じゃ、まだ一歩も動いてないんだから」


 ぞくりとした。


 言われて気付いた。確かに自分の攻撃はアルセステ自身を傷つけることを目的とはしていない。そもそも魔法というものは、人を傷付けるには向かない。が、それにしても一歩も動かせていないのは、戦局の偏りを感じざるを得ない。





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