1-17-11.勝手な都合のいい解釈
「そんな、どうしてっ⁉」
「どうしてったって、まぁわかるって言っても私の想像でしかないしね。会ったことのない人の、たぶん結構大きな決断の理由を、横から無責任に推測でとやかく言えないよ。ティリルにとっても重大なことなんだろうし」
「でも! その、ヒントくらい!」
「だぁかぁらぁ。私が思いついたのが正解ってわけじゃないだろうから、私は言わないって言ってんでしょうが。ヒントも答えもない。ただの私の解釈。
でもね。彼本人が何も言わないうちはティリルにはティリルの解釈があっていいと思うけど、それについて私が思うのは、もうちょっとそのウェル君と自分のことを信頼してもいいんじゃないの?ってことかな。勝手に悪い解釈して、勝手に落ち込むくらいなら、勝手に都合いい解釈して勝手に幸せになる方が、健全じゃない?」
「……どういう、こと?」
「もし今の自分のことをウェルが知ったら『王様に推薦されて魔法大学に入学⁉ すごいじゃん。しかもそこで気難しい先生に気に入られて、首席目指して勉強してるんだって? やばい俺全然かなわないじゃん……。もうちょっと成績抑えといてくれよ。俺の立場ないじゃんか』とか言っちゃうかもしれないな! それくらい私頑張ってるよね! ――くらいの妄想したらどう?ってことよ」
「え、そ、そんな――」
そんな図々しいこと、そうそう思えない。
にやにや顔かと思いきや、案外真顔でそんなことを言ってくるミスティ。さすがにその発想はどうなのよぅと、ベッドに座りながら上目遣いで下唇を突き出してみる。
けれど、ミスティは大真面目らしい。
「いない人の真意なんて逆立ちしたって把握しようないんだし、都合よく解釈したって別に構わないと思うけどね。
ま、できないっていうならそれはそれで別に構わないけど、だったら過小評価もしないであげなさいな」
「かしょう、ひょうか?」
「私に言わせりゃ、そのウェル君は多分ティリルのこととっても大事に思ってるわよ。あなたの話を聞いてるだけでも、それは十分伝わってくるわ。あなたが気付いてないだけなんだから、そんなつまんないことでティリルのことを見捨てるような小さい男だって思わないであげたら?」
「え、えぇ?」
「そんでもまぁもし、私の想像が間違ってて実際のウェル君が今あなたが心配してるような冷たいこと言うような小さい男だったら、私がぶん殴ってやるから安心しておきなさいよ」
ぐっと拳を握り、片目を瞑ってにんまりと笑う。
うまくごまかされた。そんな感覚は否めなかった。けれど、ミスティのごまかしに乗って悪いことがあった試しはない。むしろその力強い軽口に助けられることがほとんどだ。
ウェルの真意は怖いままだけれど、今回もミスティにごまかされてみよう。そう思えるまでになったのは、うまく落ち着くことができたということなのだろう。
そうやって自分を落ち着かせている間に、ミスティは早々とティリルの部屋から出ていき「ほらご飯作るよ。麦粥でいいよね」と、鍋を用意しながら声をかけてくれた。
「あ、うん。あの、手伝うよ」
「あのね。自分で気付いてないかもしれないけど、あなたまだ熱あんのよ。大人しく寝てなさい? 明日は闇曜だし、明日一日ゆっくり寝てればよくなるわよ」
「えぇ? まだ寝てなきゃダメ?」
口を尖らせると、少し強めの語調が帰ってきた。
「当たり前でしょ! 風邪のときは何もしないでひたすら寝る! 今回の経験で覚えなさい」
「ふえぇ」
実のところ、一日ゆっくり寝て、ティリルの病状はだいぶ良くなった。
ミスティの見立てではまだ熱があるということだったが、朝に比べたら体は軽い。
もう動き回るくらいのことは平気だと思ったんだけどな。大人しくベッドの中に戻りながら、知らず膨れてしまう頬を、慌てて布団で隠した。
「できるまでもうちょっとかかるから」
そういって、不意打ち気味に、木のカップに水を注いで持ってきてくれるミスティ。ほら危ないところだった。どうせ向こうの部屋にいるからと油断していれば、今の瞬間膨れっ面を見られて「文句あるの?」と詰問されているところだ。
大人しく、注いでもらった水を飲み、麦粥ができるのを待つ。
ほらできたよとミスティが持ってきた器の中身は、溶いた玉子が落とされていてとてもおいしそうだった。そう、美味しそうだった。口に運ぶまでは。
「……ミスティ、これ――」
「……ごめん。砂糖と塩間違えた」
「ええーっ? ミスティこそ熱出たんじゃないの?」
「うるさいわね。私普段料理しないんだもん。平熱でこんなもんなのよ」
ひどい味の麦粥は、それでも、二人で食べると十分に食べられるのだった。




