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暴王が通る

 黒と鈍色が重なり、所々で場違いな茜色が顔をのぞかせる雲が空を覆い、ざわつく風に乗って湿気の匂いが鼻を満たす。やがて一筋の雨が乾いたアスファルトを濡らすと、それを合図に大粒の雨が群れとなって降りはじめた。

 雨は周りを灰色に染め上げ、今やまともに先が見えない豪雨が街を覆い、地面には雨水が満ちていき遠雷が街に轟く。

 うねり狂う風が吹くその下で薄い藤色の髪が雨風を無視して扇の形へ開き、その目先には灰一色の世界からクッキリと浮かびあがった人影が、二つの黄色の光を輝かしながら歩いて来る。

 刃のように鋭く、氷のように冷たく。五臓が押されるように重く、血肉に餓えた獣のように荒々しい、人ならざる鋭い眼差しが弓張ただ一人に向けられる。

 雨粒に混じって弓張の額からにじみ出た汗が横顔を伝って顎から落ちた瞬間、雨と音の壁を突破しながら輝夜が猛進して来た。

 反撃も回避もままならなず弓張はその猛進を両手で受け止め踏んばるが、全くと言っていいほどに勢いは止まらない。


「━━━━!」


 悲鳴とも、絶叫とも取れる声を出しながら、輝夜が弓張を押し出す。その猛進の前にコンクリートやアクリルガラスで出来た建物の壁が、音を立ててあっけなく崩れていく。

 荒風によって、地の上に浅い水面が波打つ逆の方向から、輝夜と弓張が強化ガラスで出来た建物を突き破り、雨と風を押し退けて路面へと出てくる。

 未だ止まらない輝夜の猛進に弓張がこらえていた時だった。不意に正面から来ていた力の行き先が、宙に浮かんだ。

 力の源である輝夜が、両手で抑える弓張の手を掴むと、その身を浮かして押し倒し馬乗りの姿勢になると、かつて戦った雷花がしたように、流派も戦法もかなぐり捨てて、本能の命じるままに弓張に殴りかかる、原始的で幼稚な攻撃をし始めた。

 しかしそれは雷花の比ではなく、一発一発が弓張に当たるたびに、背にしている地面が盛大に飛沫を散らしながら音を立ててへこみ、外れた拳は道路の表皮を難なく(えぐ)っていく。

 そんな一撃が絶え間なく襲ってくるのだから、いかにタフな弓張でも、限界が駆け足でやって来る。


「図に乗るな!」


 輝夜の片手を掴むと、もう片方の手で胸ぐらを掴み、片足を腹部に当てると後方へと投げ飛ばした。

 弓張の膂力(りょりょく)による投げは降りそそぐ雨の壁を切り裂いて輝夜は灰色の豪雨の中へと消えていった。

 呼吸を整えつつ一息つきながら起き上がり、顔についた雨を振り払って前を見た時。濃い闇の凝縮が、灰色の世界からひときわ長い黄色の残光を引きつつ、弓張の目の前に来ていて、それを認識した時には、獣の手を模した拳が、低い音と共に弓張の顔を弾いた。


「━━━━!」


 女性の声とは思えない野太い雄叫びが、風雨雷鳴轟く嵐の中で、はっきりと街中に響いた。

 先の一撃が弓張の意識を霞ませると、次の一撃から間隔は短くなり、やがて目視すらできない速さへ、一方的で滅多打ちな攻撃が、弓張という対象に容赦なく当てられる。

 雨は弾かれ、風は切り裂かれ、こびりつくような湿気に鉄の匂いが混じり、灰色の世界に赤い血潮が飛び散る。

 狂ったような猛攻撃から、なんの工夫も無い力を込めただけのボディーブローが、無意味となった防御をすり抜け弓張の腹部に鋭く突き刺さる。

 それは平静を装っていた弓張の表情を瞬時に歪め、青ざめさせるにはたやすい事だった。

 その顔を左手で鷲掴むと、自らの握力で血がにじむ右手で顔面を殴りつける。

 人を殴ったにも関わらず、多量の爆弾が一斉爆発したような音が、雷鳴を上回って、嵐に飲まれた街に鳴り轟いた。

 黄色く光る目が一層の輝きを増して、軽く開いた口からは唸り声が漏れながら、弓張が飛ばされた先へと足が動き始める。

 その後を薄く白い球に包まれた雛月が、ビルの屋上を伝いながら輝夜を追っていた。雨は球に弾かれ、雛月は一滴と濡れてはいないが、眼下に映る黒影を見るや、額から冷や汗がワッと出て顔を濡らしていた。


(やはりさっきの雄叫びに、爆音の正体は輝夜様でしたか……! そしてあの状態。あれはマズい、とてもマズい! あれじゃ輝夜様が敵もろとも街も破壊してしまう!)


 雛月がシラユリを顕現()させると、輝夜に向けてハープやピアノ、バイオリンやクラリネットなどが混合する優しい音色を奏でさせた。

 嵐の真っ只中で奏でられる曲は、吹きすさぶ風が和らぐほどに滑らかで柔和な曲調だった。しかし輝夜が音の方へと目を向けると、奏でているシラユリが、ビクリと首をすくめさせ、曲も止まった。

 距離は離れているにも関わらず、油断をすれば血祭りにされんばかりの殺気が、シラユリを見すえる。

 シラユリが恐怖で半泣きになり、意識を共有している雛月も、輝夜が『ただこちらを見ている』だけで冷や汗が止まらない。

 輝夜が目線を外すと、再び雨風が吹き荒れる世界へ数歩歩くと、音を立てて弓張が飛ばされた先へと消えた。


(……ど、どうしよう……。これでは龍吾様に会うどころの話じゃない。……でも今私が介入したら私もまとめて殺されるかも……どうすれば……?)



 とあるカーショップの店内の静寂は、一瞬で打ち砕かれた。

 なんの前触れもなく、弓張がガラス張りの自動ドアを突き破り、スタッフ達が叫び声をあげる間も無く、展示していたニューモデルの新車に激突。勢いは衰える事なく、後方にあった新品の一世代前の車にぶつかり、二、三と跳ねながら奥の壁をへこませて、ようやく止まった。

 展示してあった新車は、見るも無残な傷物へと変わり果て、店内は現状に混乱する者や、かろうじて冷静を保つ者で分かれた。

 そのかろうじて冷静を保っていたスタッフ達は、右往左往しながらも、警察を呼んだり、負傷者はいないか確認していた。

 その内の二人のスタッフが、事の元凶である、うつ伏せで倒れる弓張へ、忍び足で近づいた。

 ピクリとも動かない弓張に、スタッフ達は「救急車を呼んでくれ!」「一体どうしてこんな事に?」と各々の言葉を発していた。

 するとスタッフの言葉が耳に届いたのか、弓張は止まっていた息を吹き返し、両手で上半身を起こすと口内に溜まっていた血を、盛大に吐き捨てた。

 咳き込みながら血を吐きつつ、ゆっくりと立ち上がり、鼻からも止めどなく血を流しながら、自分が吹っ飛ばされてきた方向へと目を向ける。

 一方で、呆気にとられ腰を抜かした二人のスタッフは、安否を気遣うことはもちろん、声すらまともに出ず、血まみれの弓張を目で追うことしか出来ない。

 未だ止まらない鼻血を、片手で拭うがまるで効果はなく。むしろ勢いを増していっているようにも見えるが、それに一切動じず忌々しげに血で、濡れた手をじっと見ていた。


(……なるほど。これが奴の能力なのか。面倒なものだ)


 弓張は目線を手から、再びポッカリと穴を開けた自動ドアの先へと移した。

 目線の先には豪雨が降りしきる、灰色の世界に黒い小さな点が、地平線の彼方から浮かび上がった。その黒点はやがて、道路に張った水面を切り裂きながら、向かってきている。


「……そこの者、今すぐここから離れろ」


 腰を抜かしているスタッフは、キョトンとした表情で、自分達にかけられた言葉の意味を、理解しようとした。

 すると弓張は、両手を上下に分けて前に出すと時計回りに腕を回し、両腕が逆の位置に来ると、金剛身の構えに似た姿勢へとなった。静かに息を吐くと、弓張を中心にフワリとそよ風が吹き、髪が扇の形へと開き目の色が白く輝き始めた。

 ━━瞬間


「者共、伏せろ!」


 弓張が警告を言った直後に、闇の凝縮が光の尾を引きながら一撃を放ち、受け止めた弓張はその衝撃と威力で、へこんだ壁へと後ずさる。

 防御に回した部分が、悲鳴を上げるのをこらえ輝夜へ目を向けると、片手に傷物となったニューモデルの車を持ち上げ、勢いよく投げつけた。

 目視で車を飛び越え、降下の勢いで攻撃をしようとした時、眼下にいるはずの輝夜がどこにもいない。思わず目を疑ったが、その行方はすぐに分かった。

 それは彼女の背後で、輝夜は同じく傷物となった一世代前の車を持ち上げ、落下する弓張に狙いを定めていた。

 そして互いの目が合うと、輝夜は槍を投げるように車を投げつけ、落下している最中の弓張は避けることも反撃することもできず、直に車に当たってしまう。

 鉄の塊が抵抗も重力も無視し、ありったけの勢いで飛んで来るものだから、深手を負った身にはあまりに重い一発だ。

 そこにダメ押しと言わんばかりに、無骨なヤクザ蹴りが車とその間に挟まる弓張を追撃し、軋んでいた壁が吐き出されるように崩れる。

 店外に放り出された弓張と廃車同然の車は、未だ車が行き交う道路に転がり、弓張は態勢を整え直して目線を上げるとまたしても隆起したアスファルトの波が向かって来る。

 直進する波を横に避けると、その後から輝夜が右手を後方へ引きながら、迫って来ていた。

 受け身をとるより前に本能的なものを察したか、弓張は敢えて、その見えすいた攻撃をすれすれで避けた。

 すると力任せにかき上げた手から衝撃波が発せられ、雨風を切り裂き、離れた所から遠雷や風雨の音に混じり、ガラスの割れる音が鳴った。

 がら空きとなった状態に反撃を打とうとするも、かき上げた勢いを利用して、その場で一回転すると上げた手を地面へと思い切り叩きつけた。

 叩きつけた所から、周囲に大小様々なヒビが走り大きくへこむ。しかし叩きつけた手が地面に埋まり、抜こうにも抜けないのか、輝夜はグイグイと腕を引っ張っている。

 その瞬間を逃さまいと弓張は両手を後ろに引いた時、不意に足元が揺れ始めた。地震と思うよりも早く、その揺れが地震ではない事を感じさせた。

 それは揺れの幅と、大きさがあまりに不規則であるからだ。

 まさかと思い弓張は輝夜を見て、次いで足元を見た。

 揺れはどんどん大きくなり、地面の下では金属が折れる太く重い音が。表面では地面のヒビが徐々に深さと大きさを増しながら、地面が浮かんで来ている。


「━━━━!」


 咆哮を上げると、弓張の立っていた所からおおよそにして、十五メートルほどの地面が輝夜の手で持ち上げられ、そのはずみで弓張は立っていた場所から後方へ飛び降りてしまった。

 地上に着地した弓張の目には、所々で下水管の管が飛び出た、いびつな地面の塊、もといそびえ立つ山を持ち上げる輝夜が殺意を込めた目を向けていた。


「…………天晴(あっぱ)(なり)……」


 呆然とする中でようやく出た驚嘆の言葉。その言葉を出すと、輝夜は地の塊を持ち上げたまま、大きく振りかぶる。

 手は弧を描きながら振り下ろされる。

 指骨と血管浮き出る締まった手から解放された巨塊は、脱兎の如く、自らの質量も重力も無視して、弓張に向かって行った。

 避けるか、壊すかの二択を瞬時に選ばされた弓張は、右手足を後方に引くと同じく締まった拳で巨塊に一撃を打ち込んだ。

 重々しい一瞬の断末魔を上げて、雨と共に塊は四散し弾け飛ぶ。その中から出て来るように輝夜が一直線に向かってくる。

 それを見た弓張の目は白の輝きを増すと、輝夜の方へと雨風を切りながら向かった。

 輝夜が自分の剛拳を今まさに、弓張へと殴りかかろうとしたその刹那に。

 輝夜の拳よりも早く、弓張の右足が刀の様に凛と伸び、滑らかな弧を描いて輝夜の左頬を鋭く叩いた。

 蹴りの勢いは止まらず、そのまま回って左足で同じ所を正確に薙ぎ叩く。

 輝夜の猛進が止まり、憤怒の形相から痛みに歯を食いしばる表情にゆがんでいく。

 すかさず輝夜の腹へと両の掌底が貫き、反射的に屈んだところへ突き上げるような掌底が、輝夜の顔を打つ。

 防御もしていない開いた胴へ、弓張が狙いをつけると、両手を脇腹に寄せた。両手の間に紫色の気が集まり始め、やがて両手からはみ出すほどに大きくなった。


(……我が禁じ手、身を以て受けろ。鬼哭焱霊波(きごくえんれいは))


 両手から放たれた気の塊は輝夜の身体を浮かし、嵐によってに作られた小さな海に、大きなしぶきを飛ばしながら倒れた。

 つかの間の静寂。雨の音と、遠くの方で鳴るクラクションの音以外に何も聞こえない世界で、弓張は立っているものの息が次第に荒くなっている。


(……まさか……禁じ手を使う時が来るとは…………。だが……これで終わったと思わん。そうだろう輝夜)


 鋭い目から発せられる白い光が、倒れている輝夜を問うように見据える。

 それに呼応して、倒れている輝夜の目が薄く開き、黄色の光が再び灯り始めた。

弓張 能力値 特 上 普 下 苦


腕力 特

守備 上

走力 特

察知力 特

持久力 上(ある条件になると 苦 )

知識 下


初符 不明


終符 不明


戦闘形式 我流 (気を集約して攻撃に回すのは別所にて取得)

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