5.モンスターあらわる!
「さ、三匹もいる…!」
ミノリは怖くなって思わずつぶやいた。今までは、一匹ずつしか現れなかったのに。ミノリはモニターに映し出された三匹のモンスターを見つめた。
皮鎧に身を固めた〈大地の子〉が先頭に立っている。その後ろに全身から炎がゆらめく〈火とかげ〉が控え、そして上空にはたてがみから氷の破片が舞う〈一角獣〉がふわりと飛び回っていた。
そして画面が少し薄暗くなり、画面中央に〈モンスターと戦う〉〈逃げる〉の選択肢が現れた。
BGMはテンポが早いおそろしげな音楽に変わってしまった。ステータス画面で戦闘中であることを示す赤いアイコンが不気味に光る。
「どのモンスターから戦ったらいいのかな、トウヤ?」
ミノリは、心細さをごまかしたくて、トウヤに聞いてみた。
「ん〜っ?とりあえず、前にいるヤツからでいいんじゃないかな?兄ちゃん、どうかなあ?」
トウヤはケロッとした様子で言った。モンスターを倒すのが楽しみでしょうがないようだ。
「いいよ、思い切りやって。どうしても危なければ、いったん退却しよう」
シロエも、あまり詳しい指示はしなかった。
「もちろん戦う、よなっ?ミノリ?」
トウヤはモニターから目を離すと、くるりとミノリのほうを向いて問いかけてきた。
「う、うん…!行こう、トウヤ!」
ミノリは、トウヤが一応は自分を心配してくれているのに気づいた。トウヤを安心させたくて、ミノリは笑顔で言った。
「いよ〜っし、いくぞぉ〜!!」
トウヤは画面上の〈モンスターと戦う〉をクリックした。
「いっけえ〜!兜割りっ!」
トウヤは直列のフォーメーションで迫ってきた〈大地の子〉に大技を繰り出す。攻撃は成功し、ボーナスポイントが入った。
「み、〈禊ぎの障壁〉っ!」
ミノリはトウヤを敵の攻撃から守るために、水色の鏡の障壁を張った。
障壁は〈大地の子〉が振りおろす斧からトウヤを守った。〈火とかげ〉の放つ炎の鞭も跳ね返す。だが、〈一角獣〉は攻撃を仕掛けて来なかった。
(えっ……)
ミノリは、一瞬何が起こっているのかわからなかった。
「〈木霊返し〉っ!!」
トウヤは大技を繰り出すが、一瞬減ったモンスターのHPがすぐに元のレベルに回復してしまう。
「どうしてダメージが元に……〈鈴音の障壁〉っ!」
ミノリは〈禊ぎの障壁〉の耐久力を上げる呪文を放ちながら、とまどっていた。
(今までの戦いと、なにかが違うけど……何が違うんだろう)
トウヤはまだ異変には気づかないようだった。
「こいつ、ちょっと強いのかな?」
そのあとしばらく互いに攻撃を繰り出したが、明らかにトウヤのHPの消耗のほうが激しかった。
「シロエさん……やっぱりこのモンスターすごく強いんですね……?」
ミノリが問いかけると、すぐに返事があった。
「違うよ…ミノリ、〈一角獣〉がしている役割をよく見ていてごらん?」
「えっ…」
〈一角獣〉はこちらには攻撃をしかけてこなかったが……きらきらと光の粒を撒き散らすエフェクトを起こして味方のモンスターの周囲を飛び回っていた。すると、みるみるうちにHPが回復してゆくのがわかった。
「〈一角獣〉は回復職なんですね…!…〈治癒の祈祷/ヒール〉っ!」
ミノリはトウヤのHPを回復するための呪文を詠唱した。トウヤのHPのゲージが緑に輝く。完全回復には届かないが、七割は回復できている。
「そう。けれど〈一角獣〉が得意なのはHPの回復だけ。僕らはMPの回復を得意とするから……〈フォースステップ〉!」
シロエは高く差しのべた杖の先端から、淡いピンク色の光線を放った。トウヤとミノリ、シロエの三人がその光に包まれると、ステータスバーに加速する時計のエフェクトアイコンが出現した。呪文や技の再使用規制時間が、これでかなり短縮される。
「それなら魔法攻撃に特化すれば、勝てるかもしれないんですね!」
その時、トウヤが選択した攻撃が、予想外の展開をもたらした。
「こないだもらった巻物、試してみよう……〈斬鉄剣〉っ!」
「えっ!トウヤ、これどんな攻撃なの!?」
思わずミノリは叫んでしまった。
それは、とても不思議な光景だった。
敵のモンスターの手前に突然大きな岩が現れ、トウヤの刀がシャキーン!と小気味良い効果音をたててその岩を一刀両断したのだ。
「あれ?あれれ?」
シャキーン!シャキーン!と何度も切りつけたが、切れるのは岩だけでモンスターにはまったく当たらなかった。
「え〜っ!これだけなの?」
トウヤはがっかりしたように声をあげた。
「トウヤ、それは戦いには使えない巻物だったんだよ。アンケートに答えると貰えるジョーク・アイテムだから、攻撃力はまったくないんだ」
「なあんだ、そうだったのかあ……」
シロエが巻物アイテムについて説明してくれた。
トウヤの攻撃がモンスターにダメージを与えなかったために戦況は一気に悪化した。トウヤはモンスターから集中砲火を浴び、ステータスが急降下する。
「うわあああっ!神殿送りになっちゃうよう〜!」
トウヤが悲痛な声をあげる。
「ミノリ、〈四方拝〉でトウヤを守って!」
「はい!」
シロエの指示が飛んだ。ミノリが〈四方拝〉を発動させると、白黒赤青の四枚のダメージ遮断障壁が現れて、モンスターの攻撃を強力にはじきかえした。
そのあと、シロエは攻撃が当たるとMPが回復する〈カルマドライブ〉を発動した。三人のポリゴンモデルが淡いブルーの光に包まれる。
「これで僕らのMPは自動的に回復できるよ。……そろそろトウヤは再使用規制時間が切れる技がいくつかあるね。次のターンで〈兜割り〉を使用。〈大地の子〉を攻撃っ!」
「わかった!兄ちゃんありがとう!」
シロエの指示があると、トウヤもミノリももうこれで大丈夫と安心できた。
「このまま戦いを長引かせるとトウヤが危ないから、ここからは僕が指示することになるけど、いいかい?」
シロエの声が珍しく緊張していた。
戦況はこれまでにないくらい悪くなっていた。防御力の高いトウヤのHPが残り3分の1を切っていた。
「ええ。すみません、お願いします…!」
「兄ちゃん、ごめんな?」
「いいよ、三匹も出てきたモンスターと、ここまでトウヤとミノリだけで考えて戦えたじゃないか。最初の頃より、すごく良くなってるよ」
戦闘を開始してから30分が経過していた。最初の頃から比べたら、ずいぶん長くシロエの指示なしで戦えたと思う。
「このあとミノリは攻撃呪文を中心に使って。次は、〈鏡の神呪〉だよ」
「はい!」
ミノリが杖を振って呪文を詠唱すると、頭上に輝く鏡が現れた。放たれた光線が鋭く〈大地の子〉を撃つ。
「〈ソーンバインド・ホステージ〉っ!」
シロエの呪文で、〈大地の子〉の体に瑠璃色に光る五本の茨の枝が巻き付く。
「トウヤ、〈火車の太刀〉を使って茨の枝を斬るんだ!」
「わかった…!!」
「ミノリ、呪文準備…もし〈大地の子〉が倒れなかったら〈三方御の神呪〉をっ」
「はいっ!」
トウヤの〈火車の太刀〉は〈武士〉には珍しい連続技だった。敵の周囲を円を描くように回りながら連続攻撃を行ない、大ダメージを与える。今回はシロエの〈ソーンバインド・ホステージ〉にヒットして、瑠璃色の爆発がいくつも重なった。
「〈大地の子〉は〈一角獣〉が回復してるから、大技をみんなで出さないとなかなか倒せないんだ」
そしてシロエはこのあと攻撃魔法を使うミノリに〈アストラルチャフ〉を使用した。気配を遮断する銀色の靄で味方を包み込み、敵からの注意を逸らす補助魔法だ。効果中、対象が取得するヘイトは減少する。相対的に後衛職の火力や回復力を上げることができる。
「ああ、やっぱり無理…!〈大地の子〉は倒れません…っ!」
「よし、〈三方御饌の神呪〉だっ!」
「はいっ!」
ミノリはスロットに呼び出しておいた呪文をクリックして詠唱を開始した。




