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彼女は勇者に向いてない!!  作者: white
不死の研究~モラレス村編
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19/33

第七話 最強の村娘

リチャード君鬼畜回です。

流石に今回はやりすぎかもとも思いました。

反省してます。


では、覚悟を決められた方からどうぞ。

「さて……」


 ――ザクッ


 周囲を見回すリチャード。

 そこは、死屍累々、血煙が立ち込め、鉄と臓物と土の臭いであふれていた。


 ――ザクッ


「しっかし……聞いてはいたが、エリスは強いな」


 ――ザクッ


 倒した内訳は――

 リチャード……七名(内射手五名)

 クロエ……六名

 エリス……八名

 ――で、リチャードは矢で、クロエは剣で、それぞれ即死させていったわけだが、エリスの場合は、農具による打撃であったため、即死に至らなかったものが多い。それが故意か偶然かは本人のみぞ知るところである。


 ――ザクッ


 その為、リチャードは現在、エリスが吹き飛ばして昏倒させた男たちの首元に剣を突き立てる“作業”を行っている。

 身も蓋もない話だが、意識すら無い全く抵抗できない相手の喉元を切り裂くことは、彼にとって単純作業以上の労力を必要としないのである。

 彼の作業の間、エリスは先ほどまでの打ち解けた雰囲気を隠し、俯きがちで目を逸らしていたし、クロエは別の仕事をこなしていた。


「……そこまでする必要あるの?」

 エリスは目を合わせずに問いかける。


「………………」

 だが、リチャードはそれに応えない。


「それは後で話そう。今は別にやることがある」

 目に見える範囲での“作業”を終えたリチャードは、クロエがこなしていた“仕事”の方に意識を向けた。

 彼女に頼んでいたのは、捕獲した盗賊団の頭目の監視。

 人見知りが激しく、この場ではリチャード以外と口を利かない彼女なら、甘言に辛め捕られる心配はない。

 それを見越しての人選である。


「一度しか言わない……質問に答えろ、さもなくば殺す」

「……………」


 クロエに代わり、リチャードが男の前に立つ。


 男は後ろ手に縛られ、両足首の腱は斬られている。

 にもかかわらず、リチャードに向けられる視線には殺意と意思が浮かんでいる。

 リチャードは無理そうだとは内心思いながらも質問を始めた。


「……名前は?」

「…………」

「……出身地は?」

「…………」

「……アジトは何処にある?」

「…………」


 男はジッとこっちを睨んだまま、何一つ答えようとはしない。

 リチャードは最後の質問をした。


「……背後にいるのは誰だ?」

「ッ!?」


 ほんの僅かにだが、息をのむ音が聞こえた。

 それは、よほど注意していなければ聞き漏らしてしまうほどで、男の表情に目に見える変化は殆ど無かった。むしろその程度で押さえたこの男を褒めるべきだろう。

 だが、リチャードたちの耳には確かに届いていた。

 そのことに気付いた男は静かに告げる。


「――殺せ」


 次の瞬間。

 リチャードの右腕が外側に振りぬかれ、男の頭部は自分の体と永遠の別れを告げた。

 リチャードは、それに何の感慨も抱かず、今までと同じように淡々と行動しただけだった。




「――エリス」

「……………」


 リチャードは今までと変わらない様子で呼びかけたが、エリスは俯いたまま、視線を合わせようとはしなかった。


「俺が気に入らないのならそれでも良い。だが話だけは聞いておけ」

「分かった。何?」

「こいつらの血の臭いに惹かれてやってくる動物(ヤツら)がいるだろう。俺とクロエはここを離れる。村の外で野宿したことが経験がないなら一緒に来ると良い。何をするわけでもないが最低限、身を守ってやるくらいは保障する」


「……どうしてそこまでしてくれるの?」

「俺としてはどうでも良いんだが……。こちらから勝手に手を出した上に後は放置、では座りが悪い。アフターケアの範囲ってことで納得してくれると嬉しいかな」


「……………」


 エリスはしばらく考えていたが、やがて俯けていた顔を静かに上げた。

 顔色はまだ優れないが、ほんの数時間前、まだ会話をしていたころの柔らかい表情は戻っていた。


「わかった。貴方たちについて行く。色々聞きたいこともあるし。何を持っていけば良い?自慢じゃないけど何もないよ、この村」

「町に出るときに馬車を使うのだろう?その馬は獣どものエサにはしたくない。連れて行こう」


 分かった、と言って店の裏側に回るエリスとそれに従う二人。

 建物の裏には、屋根があるだけの厩舎が置いてあった。


 そこにいたのは、二頭の馬。一頭は茶色の毛並。一頭は黒い毛並。

 背中はリチャードの目線ほどもあり、足も胴も太く逞しい。

 走る速さを求められる軍馬のような、洗練された美しさは無いが、力強さと優しさを宿すつぶらな瞳は、この場に流れる殺伐とした空気を多少なりとも癒してくれた。


「茶色いのがレミー、女の子。黒いのがマーク、男の子ね。普段は馬車をひくから、ここには鞍とかないんだけど……。馬車は村の入り口脇だし時間かかるんだよね」


 平時ならば問題は無くとも、今はマズイ。

 ゆっくりしていて気づいたらオオカミの群れに囲まれていた、なんて状況は昨日だけで十分だ、とリチャードもクロエも思っていた。


「時間がない。このまま行こう」

 そう言うとリチャードはマークと呼ばれた黒い馬に飛び乗った。

 そして、クロエを同じ馬に引き上げると、自分は乗ったのとは反対側に降りてしまった。


「何してるの?」

 時間がないと言っておきながらの謎行動に、エリスは首を傾げた。


「俺たちの荷物はまだ二階にある。あの中には、金も少しだが入っているし、保存食もある。置いていくには惜しい」

 ちょっと取ってくる、と言って建物の裏口から消えていくリチャードと、それを見送る少女が二人。


 唐突に二人きりにされて動揺したのはエリスではなくクロエの方だった。

 比較的顔見知りの多いエルリアでも、彼女は一人で外出できないほど人嫌いが激しい。

 何故先ほどは平気だったのかと言えば、相手が明確な敵意を持っていたからだ。

 敵対者ならば斬って捨てる。その単純ともいえる行動原理が働かない友好的な他人の方が、野盗・盗賊よりも怖い、という複雑な性格なのである。


 自分よりも酷い顔色をしている少女を見て、しかしどうすることも出来ない、と無力さを感じているエリスだった。

 話しかけようにも、露骨に視線を避けられ、家の二階部分をジッと見つめているだけ。

 しばらくして戻ってきたリチャードを見つけた時には、意味も分からず感謝したくなったが、同時にこの状況を作り出した本人でもあると思いだし、何とも言えない気持ちになった。


「話は進みながらにしよう。悪いがクロエの荷物を頼めるか?こっちは二人乗りだから」


 リチャードはクロエを後ろから抱えるような姿勢で馬に跨った。

 エリスとしては、そんな義理は無い、と突っぱねられるほど目の前の二人に冷酷にはなれないし、もし仮にそう言ったとしても、その場合は二人の少女の位置が入れ替わることになり、自分が男に後ろから抱きしめられる様子を想像して、恥ずかしさで訳が分からなくもなった。

 結果、見た目よりも重さのある荷物を背負わされる羽目になったのだが、彼女にしてみればこの程度は、なんてこと無い重さだった。




 進みながら話をする、と言いながらも、彼らは話すことも無く南東へ進んでいた。

 川沿いに出ることと風上に移動することを考えて、平原をのんびり馬の背に揺られて歩いていた。


 なぜ話をしなかったかと言えば、エリスとクロエが、お尻が痛くてしようがなかったからである。

 乗馬というのは、慣れないと――たとえ慣れていてもそれが長時間に及べば――お尻が非常に痛いのだ。ましてや裸馬ともなれば尚更に。

 クロエはリチャードと二人乗りのためにあまり自由に動くことができないし、エリスはクロエの荷物を背負っているので余計に体重がかかるしで、二人とも叫びたいのをひたすらに我慢していて、雑談するほどの余裕はなかったのである。


 村を出るときには既に傾き始めていた日は、今ではすっかり、西の空を紅色に染め上げている。


「そろそろ休憩しようか」

 川を右手に馬を止めるリチャード。

 痛みも荷物の重さも感じさせずにひらりと馬から降りる姿は、街中なら乙女の熱い眼差しを集めそうなほどに様になったいたが、今この場所で集まった二つの乙女の視線は幾分恨みがましいものになっていた。


「うぅ……お尻、痛い」

「…………痛い」


 前に腰を折り、尾てい骨を撫でさする姿は、乙女の名折れでしかなかった。

 馬から降り荷物を降ろしたエリスと、リチャードに手伝ってもらったクロエは、同じような格好で同じような感想を上げた。

 そんな二人が一瞬視線を合わせた。

 エリスは苦笑を浮かべ、クロエも小さく笑ったように見えた。


「今からじゃ狩りは厳しいな。干し肉しかないが我慢してくれ」


 そう告げると、リチャードは川の水を掬った鍋を火にかけた。

 そこに一口大にちぎった干し肉と保存用の固いパン、少量の塩を加え煮込んでいくと、柔らかくなったパンと肉から出た旨味が絡まる、冒険者御用達のスープが出来上がった。

 人里から離れた場所での食事は、基本的にはこれか、それ以外なら狩りをするしかない。


 三人はスープを手早く片付け、テントを組み立て始めた。

 テントは三本の骨組みを組み合わせて、上から布をかけるだけの簡単な物で、角を固定する作業以外は手間取ることは無い。

 完成したそれは、人一人が眠る大きさしかなかった。


 元々二人旅の予定だったのだから当然ではある。

 旅の仲間も増える可能性は小なりとも予想はしていたが、まさか最初の人里で、とは思っていなかった。




 やがて辺りは暗くなり始め、夜がやってくる。

 東の空は、すでに星が煌々と光り輝いている。


 夜間の監視は三交代制となった。

 一人がテントで寝て、一人が監視。最後の一人は外で寝る羽目になったのだが、それはリチャードが手を上げた。

 寝顔を見られるのに抵抗のあった女性陣の希望もあったことは、改めて言うまでもない。

 順番は、最初がエリス。次がクロエでテント内にエリスが。最後にリチャードというもの。


「ねぇ、起きてる?」

 最初の不寝番になったエリスが、リチャードに話しかける。

 本来なら褒められた行為ではないが、野営に慣れていない分、リチャードも覚悟はしていた。


「……なんだ?」

「アンタたちって、何者?」

「ただの冒険者だよ」

「嘘」

 どちらも抑えた声ではあったが、少女の方は感情の起伏までは隠しきれてはいなかった。


「二人ともすごく強いじゃない。少なくとも私よりは――」

「そうでも無いさ」


 エリスは話を遮られたことよりも、その内容が気になった。


「剣の腕は少なくともクロエが一番だ、この中ではな。だが力だけならエリスが一番だろう。俺はこれでも“若手冒険者の雄”とか呼ばれていたんだが、俺より上が普通の女の子ってのは釈然としないものがあるよな。ひょっとして“最強の村娘”なんじゃないか?」

 リチャードは視線を向けることなく、仰向けに空を見上げたまま、そう話した。


「あんまり嬉しくない称号ね、それ」

 エリスは苦笑しながらそうつぶやいた。


 パチリと気が爆ぜる音と共に、沈黙が辺りを包み込む。

 夜はまだまだこれから。

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