Prologue 市場にて
「捧げよ、捧げ、無垢な子供を、捧げよ!」
怪しいローブの集団が、なにやら怪しい言葉を発している。
「我らが、神の召喚を……!」
* * *
筋肉質の男が、幼女を肩車をして、やってくる。
「パパ、早く! 今日の特売品をゲットするんだよ!」
店の床に下ろしてもらった幼女は、子供用のかごと共に、走り出す。
「あ。リアナ! 走るな!」
男──アグナードは、娘のアドリアナを追う。
「お野菜に、お肉に、お魚! も〜、シュフは大変!」
「誰が主婦だ」
「忙しいママの代わりに、リアナがシュフなの!
平メンバーのパパと違って、ママはぎるどのかいちょーだから」
「ぐっ……。痛いところを。
いいのさ。母は、偉大というからな!」
「パパ! お菓子は、一つだけだよ」
「パパのおつまみは、いくつでもいいの!」
「そんなフケイザイいけません!」
「不経済? どこで覚えた? 5歳なのに」
「パパはもう、35だよね!」
「聞いた〜? 奥さん、子供が次々、失踪してるって!」
「聞いたわ〜!」
どこからか声がし、見ると、主婦と思しき人たちが、噂話をしている。
「最近、よく聞くな。リアナも気をつけないとな」
「あ! エルくん!」
アドリアナがまた駆け出す。
そこには、娘のお気に入りの、エルウィンがいた。
只今、9歳。某貴族の令息である。メイドを連れている。
なんつーか、利発そうなイケメンだった。
「お貴族様が朝市かよ」
目をハートにしているアドリアナ。
おもしろくなさそうな。アグナード。
「こんにちは。リアナちゃん。アグナードさん」
「エルくん。こんにちは!」
ちょうど、広場だった。
エルウィンは、なぜか鳩たちに囲まれていた。
「あ、リアナちゃん、鳩さんに、ごはんあげる?」
エルウィンは、手にパンを持っていた。
「こんにちは。急いでるんで。
リアナ! 行くぞ!」
「え〜〜? いま、いいとこなのに!」
アドリアナの手を引いて、アグナードは歩き出す。
「なによぉ、パパ、ヤキモチ? 別に急いでないのに!」
「急いでま〜す」
「はいはい。見たでしょ、エルくんってね、動物が大好きなんだよ!
すぐ懐かれちゃうんだから。やっぱり優しいからかな?」
「ふーん……」
アグナードは聞いてみた。
「リアナ。エルくんと、パパ。どっちが好き?」
「エルくん!」
即答だった。
アグナードは世界が崩れそうなショックを受けた。
「あれ?」
アドリアナの視線の先に、青い大きな蝶が見えた。
「パパ! ちょうちょ!」
「あ? どこだ?」
何か不思議な甘さが香った気がした。
「ちょうちょ! ちょうちょ! きれいなちょうちょ!」
「待て! リアナ。遠くに行くな」
「はぁ〜い」
アグナードは、アドリアナの手を掴もうとした。
そのとき。
「アグナードさん!」
傭兵ギルドのメンバーのアインが話しかけてきた。
リアナは、そばで様子を見ている。
「おう。アイン」
「買い物っスか?」
「今少し見てたっス! 戦闘時とパパ時で、まるで違うっスね!」
「パパ時?」
アドリアナを見ると、そばにいる。
「いやいや、俺なんて、まだランクFだから」
「F⁈ ……いや、それは、すごいほうのFなんじゃ」
「なんのことだ?」
「いや……。それより、知ってます? 子供失踪の噂?」
「あぁ。リアナも気をつ……リアナ⁈」
そこに、アドリアナの姿はなかった。
アドリアナは、蝶々を追いかけていた。
「あれ? リアナちゃん!」
「あ! エルくん」
エルウィンも、蝶々を追ってきたらしい。
「綺麗なちょうだね!」
「うん!」
蝶々は、ひとけのない細道に入っていく。
二人は、それを追う。




