第4話 初めての友達
「……はっ!!」
目を覚まして最初に視界に入ったのは白い天井。
どうやらレイラは何者かによってベッドの上に寝かされた様子だった。
周囲を見渡せばこのベッドを囲うように白いカーテンがかけられており、外から見えないように仕切られていた。
病院かとも思ったが、独特の消毒臭がしない。
ここは学園の保健室だろうとレイラは推察した。
怪我以外で来ることは滅多にないため、天井を見ただけではここがどこかすぐには分からなかった。
だがどうしてこんな場所で寝ていたのか、それまでの記憶が定かじゃない。
「誰かいますか?」
養護教諭がいるなら事情を把握している可能性が高いと思ったことから呼びかけてみる。
もちろん、自分以外の病人が寝ている可能性を考えて控えめな声で言葉にする。
するとすぐに仕切りのカーテンがガバッと勢いよく開かれる。
「レイラ!! 目が覚めて良かったですぅ!!」
「うぇ!? て、テト!?」
歓喜の涙を浮かべて跳ねたテトはレイラの胸元へダイレクトに飛び込んできた。
「ごはっ!!」
腹部にテトの頭が直撃して肺の中の空気が追い出され、勢いで再びベッドに仰向けで寝そべる。
「レイラ! 体調は大丈夫なのです? どこか痛いところはあるですか?」
「……あんたのせいで内臓が潰れかけたわよ」
怒りたいのは山々だったが、テトが本気で心配してくれていたようなので今日のところはテトの温もりを味わう事で許すことにする。
テトの銀髪を撫でながら上半身を起こすと、次にレイラの視界に入ったのはお団子結びの少女だった。
「シェディム……?」
「ちゃおちゃおー。元気そうでなにより」
そうシェディムが言葉にするとそれまで腹部に顔を埋めていたテトが思い出したかのように素早く起き上がり、レイラを庇うように両手を広げてシェディムに対峙した。
そこでレイラは、自分の身に何があったのかを思い出す。
そうなれば、目の前にいるお団子少女が何者なのかも理解できた。
「ちょっとちょっとぉ。2人してそんな怖い顔しないで欲しいなー。あたしはレイラちゃんにもこの国にも危害を加えるつもりはないから。それにあたしがレイラちゃんをここまで運んであげたんだよー?」
「ふざけないで。そんな見え見えの嘘つくとか、私を馬鹿にしてるでしょ」
「嘘だと思うんならそこの雛鳥に聞いてみたら?」
自信満々にそう言葉にするシェディムにレイラは騙されないと内心で呟きながら眉間に皺を寄せる。
魔族が人を助ける?
そんな話、聞いたことがない。
きっとテトが頑張って運んでくれたに違いない。
そう思いながらテトに視線を向けると、とても分かりやすく視線を泳がせて動揺していた。
「あんたって子は……もう一年経つんだから良い加減に攻めと守りのタイミングを覚えなさいよ。なにのこのこ魔族に従ってるのよ」
「ち、違うのです。聞いて欲しいのですレイラ! あそこは教室で、争いは良くないって……」
「そうシェディムに言いくるめられたのね? まったくもぉ……」
教室を破壊したところで直ぐに魔術で修理される。
それよりも魔族を倒すことを優先して欲しいものだとレイラはため息を吐きながら思うのだった。
「まぁまぁそれくらいにしてあげなよー。雛鳥は雛鳥なりにレイラちゃんが目を覚ますまで頑張ってあたしを見張ってたんだからさ」
「私をあんたに運ばせてる時点でアウトなのよ!」
咄嗟にそう言葉にしたレイラだが、今のは失言だったと思い至る。
怒気を孕んでいたこともあってテトの表情がみるみる落ち込んだものになり、今にも泣き出しそうになっている。
本当はしっかりと怒るところは怒らないといけないのだが、テトはかなり引きずるタイプだ。後々に影響が出てもらっても困るため、普段は注意喚起程度にしていた。
謝罪の意味を込めてテトの頭を撫で、ベッドから降りる。
ベッドの上で不安気に見上げるテトに、視線だけで安心するように伝え、シェディムへと近づいていく。
「で? あんたの目的は何? 私を殺さなかったことには何か理由があるんでしょ?」
ただ学園に潜伏して襲撃の機会を狙うだけならわざわざ正体を明かさないはず。
「んー、目的って言えば目的なのかな」
「はぁ? 何でそんな曖昧なのよ。言っておくけど変な勧誘とかだったら──」
この国を裏切るような行為をさせてくるなら今この場で戦うと言葉にしようとしたところで、その言葉を止めた。止めざるを得なかった。
いつの間にかシェディムが間合いを詰め、レイラを上目遣いで見つめて来ていたからだ。
「……あたしと、友達になって?」
「──っ!!」
心臓が跳ねる。そう表現しても何ら不都合がないほどに何故かレイラはドキドキしてしまっていた。
顔が熱を帯びているのを感じ、レイラは困惑の表情を浮かべる。
先程まで見る事ができていたシェディムの瞳を見る事ができなかった。
まるで、恋に落ちたみたいにレイラの胸は高鳴っていた。
「ふ、ふん。"なんだそんなこと" ? い、良いわよ別に。友達くらいいくらでもなってあげるわよ。友達くらい」
こんな事、恥ずかしがるような事でもない。ただ素直に頷けば良いだけ。
なぜかそう思ったレイラは疑うこともなく了承してしまう。
「れ、レイラ!? 正気なのです!?」
「はっ!?」
テトの言葉によりレイラはシェディムが魔族であることを思い出す。
まるで思考を操られたかのようにシェディムが魔族であることの紐付けができなくなっていた事に驚きを隠せなかった。
そして、当然のようにシェディムを受け入れようとしていた自分が信じられなかった。
冗談じゃないとレイラは内心で叫ぶ。
魔族と友達など、それこそ国を裏切るようなものだ。
今ならまだ撤回できると考え、口にしようとしたが、それよりも早くシェディムが口を開いた。
「ほんとほんと!? 嬉しいありがとー♡」
シェディムは心から喜び、レイラの両手を掴んでぴょんぴょんとまるで幼子のように飛び跳ねた。
普段なら誰が相手でも言い返せるはずのレイラだが、この時は何故か言葉が出てこなかった。
「これからよろしくね! レ・イ・ラちゃん♡」
「……う、うん。よろしく」
心臓の音がうるさくて何も考える事ができず、思考がまとまらない。
レイラはただ静かに視線を逸らして頷くことしかできなかった。




