第1話 モーニングコール
昨日はいろいろあったせいか、考え事が多くてなかなか寝付けなかった。
シェディムは魔族だというのに、教科書に書かれてある魔族のように安易に人間を襲ったりはしない。むしろ街の人たちを守ってくれた。
強くて無邪気で不思議な少女。
自分は彼女の戦いを見ていることしかできなかった。彼女と同じ戦いが自分にはできただろうか。
そうやってレイラは頭の中をぐるぐると回転させていると夜の時間はあっという間に過ぎていってしまった。
やっと眠気が襲って来た頃には、外から小鳥の囀りが聞こえだす。
ずっと夜のままでいてほしいと願ったが、カーテンの隙間から差し込む朝日に、それは無理だと強制的に知らされた。
「んん……学園、行きたくない……」
もともと学園での自分の居場所なんてないようなもので、家で自主勉強してた方が気が楽なのは否定しない。
そんな憂鬱な気持ちを抱いていると本当に頭痛がしてきた気がして余計に布団から出られなくなってしまう。
「じゃあじゃあ、今日もサボっちゃう??」
そんな悪魔の囁きのような幻聴まで聴こえてきた。
まるでシェディムが隣で寝ているようなリアルさがあると感じながら再度眠りにつこうとして、レイラは我に返った。
あの声は幻聴ではなく、紛れもなく本物の声だと気づき、慌てて目を開ける。
「あ、やっと目を開けた。おはおはー」
「ひぃいやぁああああああああああ!!!」
「ちょっとちょっとぉ、いきなり逃げないでよー。まだ何もしてないんだからさぁ」
「と、隣に魔族がいて逃げない人の方が頭イカれてるわよ!! そもそも何で私の部屋にいるの!? どうやってこの家を知ったの!!」
全く気配を感じなかった。
いつ布団に潜り込んだのかさえ分からない。
最初からいたのだろうかと疑ってみるが、それはいくらなんでもありえないと内心で否定する。
シングルベッドに二人横並びで寝ていて気が付かないわけがない。実際気が付かなかったわけだが、少なくともレイラの意識が途切れる前まではこの部屋には誰もいなかったはずだった。
「レイラちゃんとすごくすごく会いたかったからさー。魔王様に聞いたらここだーって教えてくれたんだよー」
「恨むぞ魔王……というより何で魔王が私の家知ってるのよ」
「えぇ? そりゃ魔王様だからでしょ」
「答えになってないけど、なぜか納得してしまいそうになってる私が怖い!」
魔王は千里眼かそれに類する何かでも持っているのだろうか。それなら魔王を倒すなんてほぼ不可能なのではないだろうかと考えてしまう。
こちらの手の内がバレてしまっているのなら対処の仕様はいくらでもあるだろうからだ。
「それよりそれよりぃ。そんなところで立ってないでこっちにおいでー。せっかくベッドあるんだから大人の遊びでもしよ?」
「お、大人の遊びって……?」
嫌な予感しかしなかった。
なぜシェディムはずっと布団を被って頭だけ出してる状態なのだろうか。ただ寒いからなどという理由では決してないことだけは確かだ。
どこかにその証拠が散らばっているはず。
そう思ったが探すまでもなかった。
先程までシェディムの姿に動揺して無意識に視界からカットしていたレイラだが、床に散らばっている衣類は明らかに自分のものではない事に気がついた。
何せこのような布面積が極端に少ない破廉恥な下着を自分が持っているはずなかったからだ。
「にひっ、隙あり!」
「えっ」
突然、レイラの視界が真っ暗になり、気が付けばシェディムによって狭くて暖かい布団の空間に連れ込まれてしまっていた。
「いやっ、シェディムまって!」
「あらあら、抵抗は良くないぞぉ。もう一緒のお布団の中なんだから、素直になりなー? レイラちゃんもそういうの興味ある年頃だもんね?」
「ど、どうだって良いでしょそんなこと!」
上から体重をかけて両腕を押さえつけられているため動こうにも動けない。
というよりシェディムの全てが視界に入って目のやり場に困ってしまい、思うように力が入らなかった。
傷一つない柔らかそうな綺麗な白い肌は同性であるレイラであってもドキドキしてしまうほどだった。
「もう頑固なんだからぁ。ほらほら、じゃれあうくらい女の子同士なんだから恥ずかしくないでしょ?」
「いや、でも……?」
否定しようとしたレイラだが、突然シェディムの声が脳内に浸透し、それが正しいと思えてきてしまう。
恥ずかしがっている事がおかしい、抵抗している事がおかしいと感じてきてしまい、だがその思考もまたおかしいと思っていても、ふわふわと靄がかかったように思考が上手く働かなかった。
「ふふっ、力が抜けてきたね」
シェディムは妖艶な笑みを浮かべてレイラのパジャマのボタンを手早く外して行く。
「制服の上から見てても思ったけど、レイラちゃんって、その歳の割にはけっこう大きいよねぇ。魔王様はもっとすごいけど、レイラちゃんのはすごく可愛らしくて綺麗な形してる」
シェディムの指先がレイラの体の輪郭に沿って優しくなぞられる。
それが少しくすぐったく感じ、レイラの口から自然と変な声が漏れてしまう。
「んっ、シェディム、やっぱりこんなのおかしいよ」
「あれあれぇ? 珍しく抵抗してくるんだー。でもでもぉ、止めてあげなぁい。あたしも溜まってるからさぁ。レイラちゃんに手伝って欲しいんだぁ。友達の頼みなんだから聞いてくれるよね?」
「あ、当たり前でしょ、友達の頼みなんだから。だけど、これは恥ずかしいの! だからお願いやめて! ストレスの解消なら別の方法を一緒に考えてあげるから!」
そう言葉にすると、それまでレイラの全身を嬲るように蠢いていたシェディムの指がピタリと止まった。
「…………あちゃー、羞恥心が勝っちゃうかぁ。しかもあたしの言葉を理解してるはずなのに、無意識に別の解釈に置き換えて抜け出すなんて、意外とやるじゃない」
「な、何の話?」
「ふふ、気にしなくて大丈夫だぞー。レイラちゃんには言葉を濁さずにそのまま伝えた方が良いって事が分かっただぁけ」
そう言ったシェディムはペロリと舌なめずりをして、レイラに顔を近づける。
その行動に更なる危機感を覚えたレイラはもがくように両脚をばたつかせるも、被っていた布団がずれてシェディムの裸がよりはっきりと露わになったくらいで、自身の体は全く抜け出せそうになかった。
「大胆だねぇ。暗いより明るい場所の方が好みだった?」
「……うるさい」
「ふふっ、じゃ、続きしよっか♡」
そうしてシェディムが何かを言葉にしようとした時、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
「もうレイラ! 朝なのです! さっき声がしたので起きてる事はまるっとお見通しなのですよ!」
一階で朝ごはんの用意をしていたテトが部屋に入ってくるなり、上半身裸のレイラとその上に覆い被さるように乗る全裸のシェディムを見てその場で硬直した。
「テト! ち、違うのこの格好は……!」
「レイラ」
「……はい」
「テトはレイラがお家の中だけは破廉恥さんでも良いと言いましたですが、まさか昨日の今日でもうそんなにえっちぃな子になってしまったですか!?」
「え、えっちぃ言うな!! これはシェディムが勝手にした事で……」
「あれあれぇ? 責任をあたしに押し付けるんだぁ。でもレイラちゃんは自分で服を脱がされにきたよー?」
「あ、あれは……なんでか分からないけど、そういう空気に当てられて流されただけよ!」
「流されるくらいにはえっちぃな子になってしまったですか!?」
「そんなわけがあるかぁああああ!!」
お願いだから普通の朝を迎えさせて欲しい。
そう涙目で内心でレイラは懇願する。
こんな朝がこれからも続いてしまうと身がもたない気がしてならなかった。
── ねぇ兄さん。兄さんなら、どうする事が正解だったのかな。シェディムをこのまま友達として接していいのかな。
レイラにはまだ何もわからない。
だがそれでも、魔族という存在を知る事ができればもしかしたら、世界の常識が覆るかもしれない、とレイラは思うのだった。




