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第六話『止めるなら』

第六話です。

2月16日9時10分

日本国首都東京 首相官邸



 翌日。

 柴崎の計らいで、第1師団長は浅野との交渉に向かった。

 だがこれは山野首相の許諾を得ずに行った独断行為なので、当然総理の耳に入り、柴崎は統合幕僚長として会議室で追及されることになった。



「テロリストとは交渉するなと言っただろ!!」



 山野首相が声を荒げて柴崎を追求するが、流石に譲れないのか、柴崎は毅然とした態度で反論する。



「お言葉ですが総理。今回の事案はクーデターです。彼らはテロリストではなく、未だ軍人として扱われます」

「そんな言い訳を適応できるか!今すぐ第1師団長を呼び戻せ!」

「出来ません。この機会を失えば、二度と説得はできなくなります。都心を戦場にする前に、一度でいいのでチャンスをください」



 柴崎にそう諭され、山野首相は返答に困った。

 それもそのはず、都心を戦場にするかもしれない危険を顧みず、自らの保身とプライドに賭けて交渉を拒否したのは山野首相自身なのだ。



「くっ……そもそも君たち自衛隊が勝手なことをするから──」

「その通りです。だからこそ、我々自衛隊が説得するのです」



 柴崎は一途に望みに賭けていた。それはこれから交渉の席に立つ高田も同じだろう。

 山野首相以下、内閣閣僚達も、これで問題が解決する可能性を祈り、交渉の中継を行っている東京のニュース放送を眺めるしかなかった。

 











同日同時刻

埼玉県さいたま市 さいたま新都心公園



 さいたま市にあるショッピングモールに併設されたこの公園が、今回の会議の会場に指定された。

 あまり広くはないが、周囲にはビルやアリーナなどがあるためメディアが張り込みをしやすい。それも含めて浅野の意図なのかもしれない。



『私は現在、交渉が行われるさいたま市の新都心公園に来ています。今からここで、クーデター側と政府側の自衛隊員による交渉が行われるようです』



 大手テレビ局のニュースキャスターが、現場から中継でリポートをしていた。交渉の席を見下ろせる位置には大勢の記者が集まっている。



『現在、クーデターを起こした自衛隊の部隊は都心を包囲しています。このままでは首都圏が戦場になる恐れがあり──』

『おい、来たぞ』

『あっ、見えました!自衛隊の装甲車です!政府側の自衛隊員を乗せた装甲車が、交渉の場に到着しました!』



 ディレクターが指を指すと、カメラマンがその方向に注目した。キャスターもそれに合わせて交渉人がやってきたことを伝える。

 交渉のための自衛官が現場に到着すると、装甲車はテーブルの近くで停車。そこから非武装の第1師団長高田が降りてきた。

 待ち構えていた浅野が高田の前に現れる。彼とその周りの自衛官達も非武装だった。



「日本国陸上自衛隊、第1師団の高田です。交渉の場を設けていただき感謝する」

「……陸上自衛隊第2師団、及び決起部隊指揮官の浅野だ。座ってくれ」



 浅野は顔見知りが来たにも関わらず、ポーカーフェイスを崩さなかった。彼はそのまま高田をテーブルの方に案内する。

 テーブルは質素なものだった。指揮所などで適当に広げられるものだったが、何も問題はない。椅子だって両者ともパイプ椅子だ。



「まず第一に、こちらの要求は変わらない」



 椅子に腰掛けると、浅野は開口一番そう言い放った。



「我が決起部隊は、山野首相率いる内閣の総辞職を要求する。また、現在の与党は即座に政権を降り、昨年の選挙より前の政治体制に戻すことを要求する」



 高田は苦い表情をする。

 浅野の決意は固い。この状況でも彼の要求は変わらないと見た。

 しかし、国民のためにもここで妥協点を見つけなければならない。高田自身、交渉や根回しは苦手ではあるが、彼にかかる期待と責任を考えれば、これが最後のチャンスなのだ。



「……それは、自衛隊による政治への干渉ということでよろしいか?」

「そうだ」

「自衛隊及び公的機関による選挙結果への介入は憲法違反だ。政府としても飲む訳にはいかない」

「困難なのは理解している。だから武力によって覆すのだ。何事も権力か武力のどちらかだ。これに勝る結果はあり得ない」



 浅野は拳を握りしめ、強く訴えかけるようにそう言う。彼のメッセージに、テレビの前の国民達も少なからず衝撃を受けていた。



「……民意の結果を武力で捻じ曲げるなんて、自衛隊として外道だと思わないか?いや、自衛隊だからじゃない。どこの国の軍隊でもだ」

「では、このまま次の選挙まで黙って見てろとでも言うのか?山野政権になってから僅か数ヶ月で、外交の失敗、経済不振、日本円の急落、そして在日米軍の撤退など、失策続きだ。これでは次の選挙まで待たずに日本は滅びる」

「そうだとしても、自衛隊には国民の民意を守る義務がある。民意を捻じ曲げるなどあってはならない」



 高田も浅野に負けじと強く訴えかける。

 クーデター軍の首謀者が相手でも臆することなく説得し続けるが、浅野に伝わる様子はない。彼はそれどころか、こちらの意図を全て察しているのか、向こう側のビルを指差してこう言った。



「一つだけ止める方法がある」

「なんだ?」

「止めたければ俺を殺れ。あそこの狙撃手なり、なんでもいい、俺を撃ち殺せば全てが止まる。部下達にはそう指示してある」

「っ……」



 高田は冷や汗をかいた。やはり狙撃手は見透かされていたようだ。

 彼の言う通り、彼の後ろ側のビルの屋上にはSATの狙撃手が待機している。

 高田は対等な話し合いの場として狙撃手の配置に反対していたが、山野首相が周囲の意見を聞かず、無理矢理配置させたのだ。



「(狙撃手を下げろ)」



 高田は仕方なく、後ろ側の狙撃手に合図を送った。SATの隊員は聞き分けがいいのか、そのまま少しずつ見えない範囲に下がっていった。



「浅野、これは友人として言わせてもらう。今すぐ現隊に戻ってくれ」

「いい加減にしろ。何度も言わせるな。俺たちの意思は変わらない」

「このまま市民を巻き込むつもりか。自衛官としての矜持はどうした。宣誓の言葉を忘れたか」

「……残念だがこれ以上話すことはない──」

「待て、浅野!」



 浅野とその部下達がテーブルから離れようとした。高田はまずいと思い、声を荒げて引き止める。



「だめだ、まだ間に合う、引き返せる。だから話し合うんだ、な?俺たちは同じ日本人だろ?」



 高田の必死の訴えに、彼の言葉など耳に入らぬかのように歩みを進めていた浅野が、その場でぴたりと止まった。

 まるで何かの琴線が切れたかのように。



「お前らが日本人だと……どこがだ?馬鹿を言うなよ」



 浅野は低い声色で、まるで何かの恨み言を言うかのような口調で、高田を指差した。そしてその後ろの報道機関も指差す。



「お前らを指差してやろうか?無能な政府を擁護する第1師団長に、セコい事しかしてこなかったマスコミやジャーナリスト、そしてその向こう側にいるお花畑な国民共……」

「浅野、お前は何を言って──」

「どいつもこいつも売国奴だ。売国奴は日本人じゃない、畜生どもだ!俺はこんな国の現状を憂いて立ち上がった!そんな俺たちこそが、"正当な日本人"なんだ!」

「…………」



 浅野の言葉に、高田は衝撃を受けた。

 彼は我々を同じ日本人だと思っていないのだ。彼は今の政治や日本という国に対し、大きな不満を持っている。自分と意見違う人間を同じ国の人間だと思っていない。

 だから市民を巻き込む事になっても厭わないのだろう。浅野は確かな覚悟を持ってしてこのクーデターを起こしたのだ。



「……悪いが高田、これ以上話すことはない。帰れ!無能な売国政府を守って自衛官として死ぬがいい!」

「…………」



 浅野にそう突き放されて、高田は呆然とするしかなかった。浅野は護衛に守られながら用意された装甲車の方へと帰って行った。

 その後ろ姿を見送ることしかできなかった高田は、制服の帽子を取り、深くため息を吐いた。



「師団長、行きましょう」

「……ああ」



 傍の副官がそう言うのを聞き、意識を取り戻した高田は、足早に装甲車の方へと戻っていく。



「あの、東京テレビジョンの者ですが……」

「高田陸将、この先どうなりますか?」

「自衛隊同士で戦闘するのですか!?」

「すまない……今は何も答えられない。ノーコメントで頼む」



 途中、記者達から囲まれてコメントを頼まれたが、全て無視してノーコメントを貫いた。

 今の高田の中にあるのは失意だけだった。だから、何も答えられないのだ。


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