5.
ある日、事務所に大量の野菜が届けられた。
「あのこども園の人からのおすそ分けだってー」
え? ああ、野菜作りのか。
「押井さん、持ってきてくれたのはどなたですか?」
「んー? いつもの人じゃなかったからなぁ。あれ、でもどんな人だったっけ。忘れちゃった」
忘れちゃった、と言うが、そういうなにかをしたのだろうとひとり納得。
「すごい量ですね」
双葉さんがふふっと笑う。
受付のカウンターには、どんどんどんと三つの大きなダンボールが存在感を主張している。
普段、いただきもののお菓子は台所へ移動、三時ごろに配る。
ちょうど今はお中元の季節。午前中、三件くらいの運送会社さんからけっこうのものが届く。
おかし類は台所に移動して、それ以外は二階へ持っていき、季節が過ぎたら全員で山分けだ。
届けられるものはお酒が多く、うっかり(?)多い日に受付になってしまうと、二階への移動が重労働。
二人で持ってもずしっとくるこれらは一体なにが入っているんだろう。夏野菜といっても、そんなに重いかな?
ガムテープをべりべりっと引っぺがす。
ぱこっ
「わー」
「すごいですね!」
「いっぱいだ」
ぎっしりと詰められていたのは、きゅうり、なす、トマト、ミニトマト、おくら、とうもろこし、ゴーヤ、ズッキーニ、ブルーベリー。
曲がっていたり、大きすぎたり、ちょっと傷があったりはするものの、みんなつやつやと新鮮な色。
「ほんと、すごい量」
「でも……」
なぜかかぼちゃに栗、じゃがいも、ねぎ、白菜、キャベツにレタス、にんじんに大根。
「これって……今の季節ものですかね?」
「今ではスーパーでいつでもなんでも手に入るし、おかしくはないよね」
いやいやいやいや、おかしいですって。
だって、おすそ分けしてくれたの、子ども園ですよ?
園児が農業体験で育ててる野菜ですよ?
農業を本職としている農家さんじゃないんだから、季節外れの野菜を育ててるわけないじゃないですか!
でもまぁ、うん、そういうことにしてもらったほうがいっか。
多分、向こうには季節関係なくすべての食物を育てられる場所があるんだろうな。ちょっと見てみたい。
ビニール袋を人数分用意して、それぞれ均等にわける。わけた袋もずっしり重たい。
きゅうりやなすの棘で、または重みで、袋が千切れそうだ。
車のみなさんはいいけど、徒歩アンドバス通勤ということになっている私にはちいときついぞ。
……ま、短い時間だから、大丈夫だろうけどさ。
心配してくれる先輩方の優しさに、胸がちくりとする。
なすの棘が刺さった感じ。なかなか抜けなくて、じりじりする。
この野菜でおいしいものを作ってもらって、気を晴らそう!
なに作ってもらおっかな~。
考えるだけでにまにましてしまう私はやっぱり安上がりだ。
今度、雷と風太が来たら、おいしい食べ方を教えてもらおう。伝ちゃん先生に一度お目にかかりたいが、それは難しいだろうから。
「八幡さん、こども園の先生にお礼伝えておいてくれる?」
「あ、はい」
次に“招集”がかかるのは、来月の頭になるだろう。お礼を伝えるなら早い方がいい。
すぐに受話器をとって、「鬼押出し園」にプッシュした。