予感のする9話
「……なぁヨーテ、やっぱり俺は、レナが言ってたことが信じれないんだよ」
「突然なんですか?」
ヨーテは呪文を書きながらも、怪訝な顔だった。
「いや、前レナがヨーテのこと、臆病だって言ってたけど、やっぱりそうは思えないんだよ」
「この期に及んで何の話ですか?媚でも売って、助けてもらおうってことですか?」
「そんなことないよ。ただ、気になっただけ。心境の変化とか、あったのかなって」
「元々僕は臆病じゃないと、何度言えば分かるんですか?」
あくまでもかつてのヨーテが臆病であるとすることが、どうしてもムカついて仕方がないみたいだ。
「そうだよなぁ……わからないよなぁ……」
「話聞いてますか?」
「いやなに、実を言うとだな、俺、ヨーテが俺達のパーティを去る時の記憶を思い出したんだよ」
「……は?」
「そん時の俺は、ヨーテのことを臆病だと言ってたんだが……中々どうして、俺達を騙して拉致するなんて、勇気あるじゃん」
「…………え?褒めてます?それって、僕のこと褒めてるんですか?」
「うん。記憶と違うなって」
あまりに驚きすぎたのか、呪文を書く手が止まった。
「は、はぁ?今、自分の状況わかってます?」
「わかってるけど、俺は思ったこと言っただけだよ。別に今恨み言吐こうが褒め言葉言おうが、状況は変わらないでしょ」
「い、いや、はぁ……?まぁ、そうなんですけど……えぇ?」
ヨーテは、大分動揺していた。
「レナは?何か覚えてない?」
「私?私は、別に今のヨーテも過去のヨーテも、変わらず臆病な奴だと思ってるから、ユウリが求めてるような答えはないと思う」
「あー、そっか……」
「ただ」
レナは、自分の言葉を否定するように言葉を発した。
「ヨーテを追い出した後、ユウリとメルランデが、ちょっと気になること話してたかも」
「え?どんなこと?」
「確か、『ヨーテの心は、魔法を使えばまともになるかも』とか、そんな話だった」
俺は、返事もせず、頭の中で今の言葉を反芻した。
『ヨーテの心は、魔法を使えばまともになるかも』……?どういうことだ?俺の記憶の中のヨーテと、今のヨーテに違いがあるのは、魔法のおかげだというのか……?
メルランデならそれくらいできそうだが、それをするなら出会った時からその魔法使ってるよな……
てことは、あの場で覚えた魔法なのか……?
誰が?っていうのは、考えるまでもなく、俺……
「あぁ!思い出した!」
咄嗟に叫んでしまったことで、レナもヨーテもコチラを見たが、関係ない。
思い出したのは、女神が見せて来た夢の続き。
ヨーテが勇者パーティから出ていった日の記憶だ。
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「あら?ヨーテちゃんは、今日はいないの?」
野宿をした次の日、瞬間移動魔法でメルランデが戻って来て、ユウリにそう言った。
「ヨーテなら、勇者パーティを出て行くって」
「そうなの、残念ねぇ。ちょうど、ヨーテちゃんの為になりそうな魔法を作って来たばかりなのに」
「え?それってどんな魔法?」
ユウリは、まだヨーテに申し訳ない気持ちが残っているのか、『ヨーテの為になる』と聞いて、メルランデの話に興味を持った。
「言ってみれば、解除魔法の応用みたいなものよ。ヨーテちゃん、魔物を前にして逃げ出しちゃうような様子だったから、それを改善してあげたくって。臆病に考えすぎる心を『解除』して、少しだけ前向きに考えられるようにする魔法なの」
「……それ、解除魔法である意味あるのか?」
ユウリが言外に含んでいたのは、催眠魔法の方が効率がいいのではないか、ということだった。
実際、催眠魔法と呼ばれるものは、心を支配し、自由に操ることができる魔法だった。
魔王が動物を操って戦力にしているのも、催眠魔法を使ってのことだった。
「ユウリ、勇者が考えるようなことではないことを考えているわね?確かに解除魔法で心をどうにかするのなんて非効率かもしれないけど、アタシ達はヨーテちゃんの心を操りたいわけじゃないでしょ?」
「うーん、それもそうか」
ユウリ達は実際のところ、ヨーテのことをお荷物だとは思っていなかった。レナだって態度は厳しいが、一度弟子にしたからには、面倒を見るつもりでいた。
だから、心を操るわけではなく、臆病な心を少しだけ前向きにするくらいが丁度いいと、メルランデは考えたのだ。
「ユウリ、確かまだ解除魔法覚えてなかったわよね?」
「そうだな、メルランデがいたから、簡単な魔法の習得は疎かにしてたかも」
大概の拘束魔法は腕力でどうにかなったし、魔王の幹部とかから上位の拘束魔法を使われても、メルランデがいたからどうにかなっていた。
それにユウリは、やっぱり魔法の学習よりも、レナと組手をして剣の腕を上げる方が好きだった。
「これを機に覚えちゃって、ヨーテちゃんに使ってあげたら?」
「……うん、そうする。今のヨーテは俺達の話を最後まで聞いてくれなさそうだったから、せめて、最後に少しはお節介させてもらおう」
ユウリはメルランデからオリジナルの解除魔法を教えてもらった。
そして、ヨーテが辿った道を追いかけて、夜、ヨーテが宿屋に泊まっている時に、ヨーテに解除魔法を使ったのだった。
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「……ヨーテ、最後に聞かせてくれ」
「はい?何でしょう?」
「お前は俺達に臆病だと言われるのが嫌だと思ってたみたいだが、それはなんでだ?」
「……は?そりゃあ、臆病でもないのに臆病だって言われたら、腹も立つでしょう」
ヨーテは怪訝そうに言った。
過去の記憶を思い出した俺には、それが多分違うのだろうとわかってしまった。
「お前は俺達に、失望されたくなかったんだろう?」
「……は?」
「どうにかして役に立たなきゃ、俺達に見放される。そんなこと、考えてたんだろ?」
「……憶測で話すのはやめて下さい。違う、違いますよ!」
「でもさ、ヨーテ」
思い出した記憶の中では、誰もヨーテを見放してはいなかった。
俺はいらないことまで軽く口にしすぎたかもしれない。レナも、ぶっきらぼうにしすぎていたのかもしれない。
けれど、俺達は誰もヨーテに興味を失っていたわけではなかった。
メルランデだって、ヨーテの為に魔法を作ったって言ってたし。
「みんなお前のこと、見てたよ」
臆病だとは思っていたけど、そのせいで追い出そうとは思ってなかったんだ。
結果的には、そうなってしまったけど。
「何を今更、訳のわからないことを!……まぁ、もうすぐ貴方達もこの世からいなくなるのですから、ぼくが苛々させられることもないでしょう」
「そうだな……お前がこんな拘束魔法とか、俺達の力を吸収する魔法とか使えるようになるなんて、俺は嬉しいよ」
「はぁ!?立場をわかって……」
「でも、ごめん!」
俺は、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
だって、ヨーテがここまで用意したものを、全て『解除』してしまうんだから。
「ごめんな、ヨーテ」
俺がもう一度謝ると、俺達の足元にあった魔法陣が全部消えた。
そして俺達の体が軽くなった。
「は、はぁ……?うそ、なんで……?」
「メルランデ特製の解除魔法だからな、大体の魔法は解除できるんだよ。今の俺じゃあ発動が遅いのがデメリットだけど、魔力効率はバカみたいに良いから、今の俺でも1回は使えるんだ」
「え、えぇ……?」
ヨーテは、動揺から、状況が掴めていなかった。
ごめんな、色々と。弟子として育てあげられなかったこともだし、俺がこうして、メイド服という情けない格好をしてしまっていることも、拘束魔法が解けたからには、もうヨーテには勝ち目がないことも謝っておこう。
横に座っていたはずの剣の鬼が、もう既にヨーテの背後をとってしまっているので。
程なくして俺達は、ヨーテを気絶させ、そのままの勢いで騎士団に突き出した。
深い内容は、俺の正体に関わることなので言えなかったが、俺が攫われたということにしておいた。嘘は言ってない。
あとレナ様は、自分が攫われたことは恥ずかしいから騎士団なんかに言いたくないって言ってた。
でも近い感情を俺も持っているということを忘れないでほしいと思った。




