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皇悠人、種明かしをする。

 けらけらと、まるで相手を人間とも思わぬ物言い。真実、悠人は目の前の男を人間だとは思っていなかった。自分の予想を超えないどこにでもある玩具としか考えていない。一時の面白さと引き換えに、無限の退屈さを与えるどうでも良い存在なのだ。簡単に言えば、悠人は目の前の男を同族嫌悪していた。

 変態(どうるい)であるがゆえに嫌い、同類(へんたい)であるがゆえに悪と称する。決して自分を正義だとは思わない悠人は、同じく目の前の男を悪だと断定して、処断する。これが悠人の悪の定義。これこそが悠人の倫理観。そして、これらの集大成が悠人の人生論となる。


 曰く、『楽しければ、それで良い』


 悪が肯定されようとも、正義が必ず負けようとも、自然破壊が深刻化しようとも、隣の幼女のパンツが縞柄だろうとも、その時に悠人が心から楽しめれば、悠人にとっては正義なのだ。


 ここにきて、自分が騙されたのだと理解した男性人物は一生懸命手に握った刀を振って炎の檻を破壊しようとする。が、炎の檻は切られた瞬間は切られた部分が消滅するが、すぐに勢いを取り戻して檻へと戻ってしまう。

 その行為を無駄だと断じたのは、誰でもない悠人であった。


「やめておけ。あんたはその刀の本質を知らなすぎる」

「な、に?」

「あんたは気がついていないかもしれないが。あんた、目が良すぎる(・・・・・・)よ。それがその刀の二つ目の能力だってすぐに分かるさ」

「じ……じゃあ、最初に投げて付けてきた玉は……」

「もちろん、能力を看破するために必要な行為だけど?」


 全ては炎の檻に男性人物を閉じ込めるため。そして、閉じ込めたが最後、悠人の勝利は確実のものとなる。

 さらに、悠人の話は続く。


「最初の鉄球であんたが持つ《O・パーツ》がバリアみたいなものを張る防御ではないと分かり、その行動から直感を上昇させるものでもないとわかった。しっかりと鉄球を見て避けたところから動体視力、あるいは反応速度を上昇させるものだと推測してみたわけだ。そこまで推測できれば行動を絞れる」


 攻撃性能は男性人物が言っていた通りのものだろう。しかし、それでは炎の檻は破れない。あながち、分子を切って逃げるということを考えられるが、それは悠人が断じたように無駄な行為だ。炎を消すために切らなければならない分子は『酸素』。そして、人間が生きていくために必要な分子も『酸素』だ。試しに全ての酸素を切り抜いて檻を出られたとしても、男性人物が死に至る。それでは元も子もない。だからこそ、悠人は無意味だと断じたのだ。

 そして、想定内だと断定できたからこそ、悠人は左ポケットに隠し持っていたパンツを投げ渡すことが出来、こうして男性人物と炎の檻を挟んで優雅に話すことができるわけである。


 チェックメイトである。炎の檻を脱出するには現状死しかなく、男性人物にその度胸も意味もない。悠人を懐柔するにしても交渉材料がない。絶対に自分からは出られない必死の檻に為す術など無く、悠人の勝利はここに成立する。

 が――――


「やっはー! これで晴れて颯希の尻を揉みしだけ――」


 事件解決により大喜びで颯希の待つ場所へと走り出そうとする悠人の笑顔を硬直させたのは、男性人物を捕まえた紅色の炎の檻であった。

 なんと、走り出そうとした悠人を取り囲むように炎の檻が形成されていき、瞬く間に悠人は閉じ込められてしまう。そうして、これはどういうことなのかと悠人の目は不機嫌そうに目の前に立つ颯希を見つめた。


「あ、先輩。お疲れ様です」

「お疲れ様です、じゃねーよ。なにこれ、どゆこと?」

「いやだって、任務も終わりましたし?」

「だから! これはどういうことでございますかね、颯希さん!? 俺! まだ颯希の尻を揉んでねぇぞ、おい!?」

「いやいや、いつ誰が、揉んでいいなんて言いました? 私はただ身体を弄っていいって言ったんですよ? それにほら、私のパンツを好き勝手にもみくちゃにしてくれましたし? 報酬は払ったってことでいいんじゃないですか?」

「なっ……」


 確かに、悠人に向けていった言葉は一回目が『胸を揉んでいい』に対して、二回目は『身体を好きに弄っていい』であった。悠人が録音したものにもそう記録されているはずだ。

 そして、颯希曰く、『身体に身に着けていた物を脱がせた』という行為は身体を好きに弄っていいに入る行為であり、これ以上の報酬は与えない。よくよく考えて、悠人はこの後のことまで視野に入れた。そうやって、終点へと至った悠人の顔は、


「そんなに、悲しそうな顔をしないでくださいよ、先輩♪ 私だって、伊達に三年も先輩の『生贄』だなんて言われ続けて無いんですから♪」


 そう言って、颯希は悠人を閉じ込めている炎の檻を移動させながらこの場を去っていく。恨めしそうに睨む悠人に文句を言われようと、素知らぬ顔でいる辺り、もう慣れているのだろう。

 悠人は確かにやり手の詐欺師である。その性根からして神でさえも恐れぬ言葉遣いは達者であるほかあるまい。しかし、それに三年も付き合い続けた颯希には悪魔の囁きなど既に子守唄も同然のものとなっていた。故に、騙されること無く、さらに騙されたとしてもその裏を掻くように掻い潜ることが出来たわけである。

 そして、観念したというように悠人がもう分かりきっていることを質問した。


「それで? どこに行くんだ?」

「はい? 先輩ならもうわかってるんじゃないですか? これは先輩をお外に出してもいいっていう許可をもらうための外出です。ならもう、帰る場所なんて一つしか無いじゃないですか」


 もちろんそれは、


「――――刑務所に直帰ですよ、先輩♪」

「ふっざけるな、テメェェェェエエエエ!!!!」


 こうして、後に『悪魔』と呼ばれる天才的ないたずらっ子は、悪魔の生贄であると見捨てられた颯希によって、元いた根城へと連れ帰られるのであった。



   ▲▽▲



 その頃、正義の味方と呼ばれた少年の前には、行き倒れた幼女がいた――。

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