皇悠人、パンツを錬成する。
軽快な挑発は目標の男性人物の気を留めさせた。警察や特殊部隊、あるいは一般人でさえも軽率な行動だと思えてならない悠人の言葉には、二つの確信が存在する。
一つは、男性人物が《O・パーツ》に身体を乗っ取られていないということ。
そしてもう一つは、たとえ声をかけたとしてもすぐさま手にもつ刀で斬りかかられることはないということ。
「……お前、何者だ?」
「俺は、皇悠人って言うもんだ」
「そうじゃない。このデパートで事件が起きているのは知っているはずだ。そして、その犯人を知らずとも、手に武器を持ってるオレを見て犯人だと思わないほうが不思議だ。なら、話は簡単だ。お前、警察だな?」
「おいおいおーい? こんな子供を警察にしたがる国家は頭が十分にイカれてるってやつだ。安心しな。『俺』は警察じゃない。売り物の女児パンツに顔を埋めてスーハーしてる変態を取り締まる暇な連中と一緒にしないでくれ」
むしろ、取り締まられる側の存在である。
「それよか、あんたが手に持っているその刀。見たところ普通の刀じゃなさそうだ。それは……妖刀の類かい」
「ほう。お前、刀の目利きができるのか。そうさ。これはただの刀じゃない。銘を『矛盾』と言ってな。そりゃあもう素晴らしい切れ味さ」
そりゃあそうだろう。悠人は自分の中で男性人物が持つ《O・パーツ》について大まかな予想を起てる。
男性人物が矛盾という言葉をどこまでしっているかはわからないが、こと『矛盾』という名を持つ《O・パーツ》は名前からして、それらしいものだろう。つまるところ、よく切れてよく守れる。しかし、男性人物の言葉では素晴らしい切れ味なんだとか。それでは守るという言葉が嘘になる。男性人物が褒められて嘘をつく必要性は無くはないが、けれどこの場合《O・パーツ》を扱いきれていないと考えるほうが妥当だろう。
そこまで予想して、悠人は推測を起てる。
では、守るとはどういったものか。簡単に思いつく辺りではバリアを張る。あるいは、刀が勝手に攻撃を弾く。前者であった場合、なるほど確かに守れるだろう。しかし、ここに至るまでに一般人に反撃をされなかったわけがない。どうしてその時に矛盾の盾に気が付かない? じゃあ、後者はどうだろう。同じ理由で却下となる。
もしかしたら盾には発動条件があるのかもしれないが、そういうものがあるのであれば一般人がするであろう反撃で相手を撃退すればいいだけの話である。これで本当に男性人物が嘘をついていれば完全敗北だが、それはあり得ない。なぜなら、悠人の観察で男性人物が嘘をついていないという結論を出してしまっていたから。
ならば、面倒ではあるものの矛盾の盾について解き明かしていこう。
悠人は右手をポケットから出すと、人差し指で握った小さな鉄球を親指で弾いて男性人物に向かって飛ばす。男性人物の完全な意識外からの攻撃。避けられるはずがない一撃に、どう対処するのかによって矛盾の盾についてを明るみにしようというものである。
そして、その意図を知らないであろう男性人物は、ひょいっと首を横に傾けて鉄球を避けた。当然、その行動を攻撃だと理解した男性人物は睨みつけるように悠人を見て怒りを言葉にする。
「テメェ……っ」
「いやいや、すまない。あんたが本当にこの事件の犯人なのかを調べるためには必要だったんだ。ほら、刀を持った、逃げ遅れたイキリって可能性もあるはずだろ?」
何の悪びれもなく言う悠人に男性人物はムッとした顔をしながらも、確かにそれは大切なことだと思ったのか襲っては来なかった。代わりに男性人物は自分こそが犯人で間違いないだろうと聞いてくる。
「それで? 結果はどうだったんだ?」
「ああ。信用に足る犯罪者だ。いやはや、こんなにも白昼堂々とデパートを占拠する同類に出会えるとは運命っていうのを感じちまうのは俺だけかい?」
「そうだろうそうだろう。オレがこの事件の犯人だ。そしてオレは今、念願の女児下着コーナーに足を踏み入れているわけだ! いつもは店員が怪しいやつを見る目で見てくるんだ。けど、今日は違う! このデパートにいる人間は全て追い出してみせた! 警察だっておいそれとオレを捕まえようとはしてこない! ははははっ! もう誰もオレを止められないとさえ思えてくるぞ!」
テンション高めでもはや勝ちを公言する男性人物に悠人は終始笑顔のまま、うんうんと首を縦に振って煽ててみせた。だが、男性人物はまだ知らない。悠人の笑顔が賛同の意を込めていないことを。その笑顔こそが、悠人の心のほくそ笑みだと。
そう、悠人は確信していた。他でもない勝利という二文字の獲得は既に悠人の手の中にある。ポケットに突っ込まれている左手をゆっくり出すと、悠人は男性人物が興奮している中で申し訳ないと思いつつ、パンッと胸の前で祈るように両手を叩く。そして、次の瞬間、悠人の口から告げられたのは性格に似合わない賛美の言葉であった。
「いや~、そんなあんたに朗報だ。この曲芸をちょいと見てくれないか」
そう言って胸の前で祈るように合わせられていた両手がゆっくりと開かれる。そして、両手の中指にはめられて徐々にその形を露わにしていく布を見て、男性人物は眼を丸くして驚いた。
「…………ッ!? お前――パンツを錬成したのか!!」
そう、悠人が曲芸で見せたのは女性、特に女子中学生くらいが履くであろう真っ白なパンティーだった。
「いやいや、驚くのはまだ早い。今ここに錬成されたパンティーはただのパンティーなんかじゃない。今そこで剥ぎ取ってきた純血清純派女子中学生の脱ぎたてほやほやの生パンティーだッッ!」
「純血清純派女子中学生の脱ぎたてほやほやの生パンティー……だと……!?」
「そう! 今俺の両手の中指に引っかかっているパンティーは純血清純派女子以下略の生パンティーに間違いない! これを、同類の中の親友に受け取ってもらいたい。俺には過ぎたるものなんだ」
「い……いいの、か?」
「ああ。お前に受け取ってもらいたいんだ」
注意すべきは、この二人が醸し出す映画のワンシーンのようなこの時間でやり取りされているのはパンツだということだろう。片方は未成年であるもののもう片方は大の大人だ。女性、しかも中学生が履くようなパンツをして、ここまで感動的なワンシーンを作り上げるなど、正直身の毛もよだつというものだ。
特に、交渉材料とされているパンツの提供者である颯希からしたら溜まったものではないだろう。事実、颯希は恥ずかしさの余り、顔を真っ赤にして今にも悠人を殺してしまいたいと、同時に過去に戻れるのであれば過去の自分に即刻目の前の男を焼き殺せと命令したいくらいであった。
しかし、悠人はこの計画に颯希のパンツは必須だと言って譲らなかった。どうしてなどと、悠人を信じていた颯希は問い正しはしなかったが、よもやこういう使い方をされるとは思わなかったようだ。実際、悠人の思い描いた状況はここに成った。あとは、このパンツを男性人物が手に取りさえすれば、すべての細工が作動する。
悠人は左手に持っていたパンツを男性人物に向けて投げ渡すと、男性人物は嬉しそうにそのパンツに手を伸ばす。そして、とうとうその手にパンツが掴まれるという時、男を取り囲むように紅色の炎が舞い上がる。
「な……なっ!?」
紅色の炎は徐々に形を成していき、最後には檻のようになって形を維持する。
動揺する男性人物に、このことを初めからわかっていた悠人は一歩前に出て男性人物に諭すように言う。
「ダメだよ、同類。あんたは、変態の俺の言葉を鵜呑みにしちゃあいけないんだ。なにせ、同じものに恋い焦がれるんだから」
「ど、どういうことだよ、これは!」
「どうもこうも、俺の領域に侵入してきたのはあんただぜ? 女児下着コーナーは俺たち変態の狩場だ。それに関して言えばお前は何も法を犯してはいない。俺も異論はない。でも、女児下着コーナーには可愛い女の子がいてこそだとは思わないか? 可愛い女の子が美しい下着を手にとって自分に似合うか、そうでないかを想像しながら、いざ選びに選んだものを買いに行く。そして、選ばれた下着を履いた女子を思い浮かべて俺たちの妄想は、華になる。少なくとも、俺はそう思っている」
だからこそ、
「あんたの行動は読みやすかった。今までよっぽど女子にモテなかったんだろう。その気持ちが女性下着に向くのは責められたことじゃない。問題はあんたが持っていた《O・パーツ》の能力の詳細だ。それがどれだけのものかを知ってるか知らないかは、俺の預かり知らぬとこだが。あんたは少し驕りすぎたな」
炎の檻を挟んで淡々と種明かしをされていく男性人物は、キョトンとした顔で悠人を見ていた。まだ、騙されたというところまで考えが至っていなかったのだろう。それほどまでに悠人の変わりようは激しいものだった。なにせ、段々と釣り上がっていく口の端は、もうすでに恐怖を与えるほどの笑顔に成り果てており。その声色は罠に嵌めた相手を面白そうに語るものだった。
「自分が最強だと思ったか? 自分に振り向かなかった女に復讐したかったか?
ざ~んね~~~~ん♪
すまないがあんたの行き先は刑務所さ♪」




