第九話 世界に殺される奴隷少女を、俺様が勝手に救って国を作る
白い光の中で、フィーネが口を開く。
「私は――」
声が震えていた。
腕はすでに半分近く消えている。
光の粒となった身体が、空に浮かぶ女神の影へ吸い上げられていく。
「私は、ずっと自分の命を諦めておりました」
銀色の瞳が、俺様を見つめる。
「奴隷市場でご主人様に買われる前から、生きたいなどと願ってはいけないと思っていたのです」
「誰が決めた?」
「私が、勝手に決めました」
「馬鹿だな」
「はい」
フィーネが、困ったように微笑む。
「ご主人様に出会ってから、私は何度も間違っていたと教えられました」
「俺様は説教などしていないぞ」
「ええ。ご主人様は、ご自分の欲望に従っていただけです」
「よく分かっているじゃないか」
「ですが、その欲望に私は何度も救われました」
奴隷として買われた。
勝手に連れ回された。
勝手に城主にされた。
そして今も、勝手に命を奪われることを拒まれている。
「私は自分の命を諦めました。けれど、ご主人様は諦めてくださいませんでした」
フィーネの首元に残っていた奴隷紋が、最後の音を立てて砕けた。
白い鎖が消滅する。
《奴隷契約の強制破棄を完了》
《障害消失》
《生贄執行を継続します》
フィーネの足元が光に変わった。
抱き止めているはずなのに、その身体がどんどん軽くなっていく。
「姫殿下!」
ラウラが叫ぶ。
「認めてはなりません! 役割を奪えば、この男が生贄になるかもしれない!」
「そんなことはさせません」
「ならば!」
「ですが、ご主人様は止まりません」
フィーネは俺様の胸へ、消えかけた額を預けた。
「きっと女神様にお願いしても、世界が終わると脅されても、私を手放してくださらないでしょう」
「当然だ」
「本当に、困ったご主人様です」
「文句があるなら、あとでいくらでも聞いてやる」
「そのお言葉も、何度目でしょうか」
「覚えていない」
「私は覚えております」
フィーネが目を閉じる。
「ですから――」
そして、小さな声で告げた。
「私の負けです、ご主人様」
《対象が敗北を承認しました》
《勝利条件達成》
《対象の役割――終焉の生贄》
《役割を接収しますか?》
「当然だ!」
俺様は迷わず答えた。
《役割――終焉の生贄》
《接収を開始》
フィーネの胸元から、黒い紋章が浮かび上がる。
それは無数の鎖を伸ばし、少女の魂に深く食い込んでいた。
俺様は鎖をつかむ。
手のひらが焼け、皮膚が裂けた。
構わず、力任せに引き抜く。
《対象の生命維持に異常》
《接収を中止してください》
「うるさい」
《警告》
《役割の分離により、対象の存在が崩壊します》
「なら、崩れる前に奪う!」
黒い鎖を腕へ巻きつけ、一気に引いた。
フィーネの身体が大きく震える。
「ご主人様……!」
「俺様を見ていろ!」
「はい!」
鎖の根元。
フィーネの魂へ食い込んだ黒い紋章が、少しずつ剥がれていく。
王家の血を引く者。
魔王が倒れたとき、世界の終焉を防ぐために捧げられる命。
生まれた瞬間から決められていた死。
「フィーネ!」
「ここに、おります!」
「お前の命は誰のものだ!」
「ご主人様のものです!」
「違う!」
フィーネが目を見開く。
俺様は最後の鎖を引きちぎった。
「お前の命は、お前のものだ!」
黒い紋章がフィーネから完全に剥がれる。
そのまま俺様の左手へ食らいついた。
《役割――終焉の生贄》
《接収完了》
《執行対象を再設定》
《新規保有者――ゼクト・グランツ》
《魔王王統との照合を開始》
《不適合》
《生贄条件を満たしていません》
《執行不能》
フィーネを包んでいた白い光が止まった。
女神の影から、耳をつんざくような音が響く。
『認めない』
初めて。
女神自身の声が、空から降ってきた。
男とも女ともつかない。
いくつもの声が重なった、冷たい声だった。
『定められた終焉を、個人の意思で覆すことは許されない』
「お前の許可など聞いていない」
《役割――終焉の生贄》
《執行対象の再照合を要請》
《世界権限による強制適合を開始》
左手に刻まれた黒い紋章が、俺様の身体へ根を伸ばそうとする。
「させるか」
《勝者権限を行使》
《役割――終焉の生贄》
《封印を実行》
黒い紋章へ、さらに黒い鎖が巻きついた。
生贄の力が抵抗する。
左腕の皮膚が裂け、血が噴き出した。
それでも鎖は一本ずつ、役割を締め上げていく。
『止めなさい』
「嫌だ」
『その役割がなければ、次の異界魔王が倒れたとき、世界は終焉へ近づく』
「次の魔王を作らなければいい」
『勇者と魔王は、世界の均衡に必要な存在です』
「皇蓮と美兎を殺し合わせようとした均衡など、壊れてしまえ」
『人間に世界の仕組みは理解できない』
「理解する必要があるのか?」
『何?』
「気に入らないから壊す。それで十分だ」
《封印処理を完了》
黒い紋章から、すべての光が消えた。
同時に、フィーネの身体が俺様の腕の中へ戻ってくる。
光になっていた指先。
細い腕。
銀色の髪。
最後に、消えかけていた足が元の形を取り戻した。
「フィーネ!」
ラウラが駆け寄ってくる。
フィーネは自分の両手を見つめた。
何度も指を曲げ、確かめる。
「私……生きております」
「見れば分かる」
「消えておりません」
「ああ」
「本当に?」
「疑うなら頬をつねってやろう」
「それはお断りいたします」
俺様は試しにフィーネの頬をつまんだ。
「いひゃいれす、ご主人様」
「生きているな」
「確認方法が乱暴です!」
手を放す。
フィーネは赤くなった頬を押さえながら、俺様を睨んだ。
悪くない顔だ。
「姫殿下!」
ラウラがフィーネを抱き締める。
大きな胸に顔を埋められたフィーネの姿が見えなくなった。
「ご無事で……本当に、よくぞ……!」
「ラ、ラウラ様……苦しいです……」
「申し訳ありません!」
ラウラが腕を緩める。
その目元には、わずかに涙が浮かんでいた。
「泣いているのか?」
「泣いていない!」
「俺様の胸を貸してやろう」
「なぜ貴様の胸で泣かねばならん!」
「では、そっちの大きい胸を貸せ」
「斬るぞ!」
ラウラが《ギロティア》へ手を伸ばす。
元気になったらしい。
「ご主人様」
フィーネが俺様の外套を引いた。
「ありがとうございました」
「礼などいらん」
「ですが――」
「俺様は一度言ったことを曲げない。お前を死なせないと言っただろ」
「はい」
フィーネが微笑む。
「信じておりました」
その瞬間。
空から、巨大な白い手が振り下ろされた。
『世界への反逆者』
女神の声が響く。
『貴様の存在を、ここで抹消する』
白い手が空を覆う。
指一本だけでも、魔王城の塔より太い。
「ご主人様!」
「下がっていろ」
俺様は《王喰らい》を構えた。
だが、足元が大きく揺れる。
血を流しすぎた。
傷口を《不落城主》で無理やり閉じていた力も、フィーネの消滅とともに途切れている。
「まったく」
ヴィオラが俺様の右側へ立った。
剣を抜き、白い手を睨みつける。
「最後まで世話が焼ける奴だな」
「手を出すなと言ったはずだ」
「今はフィーネを助け終わっただろ。だったら、もう私たちの勝手だ」
左側へ、エレノアが並ぶ。
「あなたの傷は、私がつなぎ止めます」
「頼んでいないぞ」
「ええ。私が勝手に治します」
背後ではラウラが《ギロティア》を構え、フィーネを守っている。
ケルベロスが三つの頭で牙を剥いた。
『姫様を奪おうとした罪、万死に値する!』
『相手は神だ。死という概念が通用するかは不明だが』
『問題ありません。通用するまで噛みましょう』
『たまには意見が合うではないか!』
美兎を抱えた皇蓮も、落とした黒い剣を拾った。
「今の俺には、役割の力はない」
「なら引っ込んでいろ」
「断る」
「俺様の台詞を取るな」
「美兎を救ってもらった借りを返すだけだ」
皇蓮の腕の中で、美兎が目を開く。
「私も……戦います」
「寝ていろ。お前はもう魔王ではない」
「はい。だから、一ノ瀬美兎として戦います」
役割を失った勇者と魔王。
剣を持っただけの男と、普通の少女。
それでも、二人は俺様の隣に立った。
女神の白い手が迫る。
「悪くない」
俺様は《王喰らい》の柄を両手で握った。
「お前たち。俺様に力を貸せ」
「素直に頼めるのか!」
ヴィオラが驚く。
「貸したものは返してもらうぞ」
「やっぱり、お前はお前だな!」
フィーネの《不落城主》が、全員を青白い光でつなぐ。
エレノアの治癒魔法が傷を塞ぐ。
ヴィオラとラウラが、白い手へ剣を振るった。
ケルベロスの三つの口から、黒い炎が放たれる。
皇蓮と美兎も、互いの手を握って魔力を重ねた。
すべての力が《王喰らい》へ流れ込む。
黒い刀身が膨張する。
巨大な顎が開き、空そのものを覆った。
「喰らえ!」
白い手と、黒い顎が正面から衝突した。
世界が震える。
魔王城の塔が折れ、石橋が崩れ始めた。
『人の身で、神に逆らうか』
「違う」
俺様は《王喰らい》をさらに押し込んだ。
「俺様のものに触れた女を、叩きのめしているだけだ!」
黒い顎が、女神の人差し指へ食らいつく。
白い光が砕けた。
『――っ!』
女神の声が初めて揺らぐ。
「いい声だな。お前も女か?」
『下劣な……!』
「美人なら、俺様の女になれ」
『断る!』
「そうか。では、もう一度聞くために引きずり下ろす!」
《王喰らい》が指を噛みちぎった。
白い光が弾ける。
女神の手が大きく後退し、空に浮かんでいた影が崩れていく。
『ゼクト・グランツ』
女神の声が、世界中へ響き渡った。
『貴様を、世界秩序への最大脅威と認定する』
「光栄だ」
『我が使徒たちが、必ず貴様を滅ぼす』
「使徒?」
『神意を代行する者。役割の理から外れ、神の力を直接授かりし十二の超越者』
崩れていく女神の背後に、十二の影が浮かび上がる。
六枚の翼を持つ女。
巨大な鎌を担いだ少年。
何本もの剣を背負う騎士。
竜の角を生やした巨漢。
黒い太陽を掲げる少女。
どれも人間や魔族とは比べものにならない力を放っている。
『十二神徒が、貴様の国も、仲間も、存在した痕跡さえも消し去る』
「強いのか?」
『貴様一人では、一柱にも勝てぬ』
「美人はいるのか?」
『……』
「何人だ?」
『死ぬ前に己の下劣さを悔いるがいい』
女神の影が消えていく。
「待て。質問に答えろ!」
返事はない。
最後に、十二の影だけが空へ焼きついた。
そして。
世界中に黒い文字が浮かび上がる。
《神託を発令》
《世界敵性個体――ゼクト・グランツ》
《討伐対象として認定》
《すべての役割保有者へ討伐を要請》
《討伐報酬――神位への昇格》
空が元へ戻る。
紫色の雲が流れ、夕陽が差し込んだ。
しばしの沈黙。
最初に口を開いたのは、ヴィオラだった。
「お前、ついに世界中から命を狙われることになったぞ」
「ああ」
「女神だけじゃない。すべての役割持ちが敵になるんだぞ」
「そうらしいな」
「なぜ嬉しそうなんだ!」
「奪うものが増えたからだ」
「この男は……!」
ヴィオラが頭を抱える。
エレノアは疲れ切った顔でため息をついた。
「やはり、勇者を解雇された程度で終わる方ではありませんでしたね」
「見る目があるな。俺様の女になるか?」
「そのお誘いは、改めてお断りいたします」
「今日だけで何度断られるつもりだ!」
皇蓮が呆れている。
「回数は関係ない。最後に頷けば俺様の勝ちだ」
「相手の意思を尊重しろ!」
「お前は美兎一人で満足だから、そんなことが言える」
「当たり前だ!」
「美兎。俺様に乗り換える気はないか?」
「ありません!」
「即答するな。よく考えろ」
「美兎は渡さない!」
「皇蓮もまとめて面倒を見てやるぞ」
「だから俺はいらない!」
まったく。
今日会った連中は、断ってばかりだ。
◇
それから三日後。
俺様は魔王城の玉座に座っていた。
美兎から《異界魔王》を奪ったことで、城は俺様を新たな主と認めたらしい。
魔王軍にかけられていた支配は消えた。
それでも、帰る場所を失った魔族兵たちは城へ戻ってきた。
玉座の間には、数百人の魔族が並んでいる。
その先頭で、ラウラが片膝をついていた。
「魔王軍全兵士の意思を確認した」
「そうか」
「彼らは、魔王陛下――美兎様を救った貴様に従うそうだ」
「見る目がある」
「ただし、魔王としてではない」
「俺様も魔王になるつもりはない」
左手には、《異界魔王》の黒い紋章が残っている。
この三日間、何度か俺様の意識を侵食しようとしてきた。
鬱陶しいので、すでに封印した。
「勇者をクビになり、魔王にもならない。では、貴様は何になるつもりだ?」
「王だ」
玉座の間が静まり返る。
俺様は立ち上がった。
「今日から魔王領は、俺様の国だ」
「待ってください!」
隣に立っていたフィーネが声を上げた。
「国とは、宣言しただけで完成するものではございません!」
「城も土地も兵士もいるぞ」
「国名がございません」
「今決める」
「法律もございません」
「お前が決めろ」
「貨幣制度も税制も、周辺諸国との国境も決まっておりません!」
「全部お前に任せる」
「なぜ私なのですか!」
「お前は城主だろ」
「城主と宰相は別の役職です!」
「今日から宰相も兼任しろ」
「勝手に役職を増やさないでください!」
フィーネが珍しく、玉座の前で声を荒らげている。
「ご主人様が王になるのでしたら、ご主人様も政務をなさってください!」
「断る」
「王が最初に国民の命令を拒否しないでください!」
「命令ではなく陳情として受け取っておく」
「受け取るだけではなく、働いてください!」
魔族兵たちの間から、わずかな笑い声が上がる。
先ほどまで張り詰めていた空気が緩んだ。
悪くない。
「では、役職を決めるぞ」
俺様は玉座の前へ並んだ連中を見る。
「フィーネは城主兼宰相だ」
「私の承諾を得てください!」
「ラウラは将軍兼フィーネの護衛」
「異論はない」
「私には確認しないのですか!?」
「ヴィオラは騎士団長」
「勝手に決めるな!」
「嫌なら、俺様に勝て」
「今すぐ斬ってやろうか!」
ヴィオラが剣へ手をかける。
隣のエレノアが、その腕を押さえた。
「国王暗殺は建国初日にすることではありません」
「初日以外ならいいのか?」
「そういう意味ではありません」
「エレノアは治療院と教会を作れ」
「女神へ反逆した国に、教会を作るのですか?」
「女神を祀らなければいい」
「では、何を祀るのです?」
「俺様だ」
「お断りいたします」
今日も断られた。
「ケルベロスは城門を守れ」
『我は王骸獣である! 番犬ではない!』
「王の城を守る獣なら、番犬で合っているだろ」
『違う!』
『論理的には正しい』
『姫様がお住まいになる城を守れるのであれば、光栄です』
『貴様らは、なぜ毎回そちら側なのだ!』
三つの頭が互いに噛みつき始める。
放っておいていいだろう。
「皇蓮と美兎は――」
「待て」
皇蓮が美兎を庇うように前へ出た。
「先に言っておく。美兎をお前の側室にはさせない」
「側室?」
美兎の顔が赤くなる。
「れん、何の話をしてるの!?」
「こいつなら言いかねない!」
「よく分かったな」
「言うつもりだったのか!」
「美兎。俺様の妃になれ」
「お断りします!」
「側室ではなく妃だ。待遇が上がったぞ」
「そういう問題ではありません!」
「美兎は俺の恋人だ!」
「では皇蓮、お前は王宮騎士になれ。俺様の妃を守る役目を与える」
「「誰がお前の妃だ!」」
二人の声が重なった。
仲が良さそうで何よりだ。
「私たちは、元の世界へ帰る方法を探します」
美兎が改めて告げる。
「でも、それまではここに残ります。魔族のみんなを放ってはおけませんから」
「好きにしろ。働くなら飯は食わせてやる」
「ご主人様」
フィーネが小声で耳打ちする。
「魔王城の食料庫は、ほとんど空です」
「なぜだ?」
「魔王軍の補給が途絶えていたためです」
「では税を取れ」
「建国したばかりの国民から何を取るのですか!」
「金がないなら食料でいい」
「皆様も不足しているのです!」
「面倒だな」
「国を治めるとは、そういうことです!」
王になるのは、思っていたより忙しいらしい。
「ご主人様」
「何だ?」
「今なら、王になるという宣言を撤回しても間に合います」
「俺様は一度言ったことを曲げない」
「そうおっしゃると思いました」
フィーネがため息をつく。
だが、その顔は笑っていた。
首元からは、奴隷紋が消えている。
女神に契約を壊されたあと、新しい契約は結んでいない。
「そういえば、フィーネ」
「はい」
「お前はもう奴隷ではない」
「存じております」
「自由だ。どこへでも行け」
フィーネが瞬きをする。
ラウラが息を呑んだ。
玉座の間に並ぶ全員が、俺様たちを見ている。
「俺様は、お前の命はお前のものだと言った」
「はい」
「だから好きにしろ」
フィーネはしばらく黙っていた。
やがて俺様へ歩み寄り、いつものように外套の端をつかむ。
「では、自由になった私の意思で、ご主人様のおそばにおります」
「俺様はもう主人ではないぞ」
「そうですね」
「なら、ご主人様と呼ぶな」
「それはお断りいたします、ご主人様」
「俺様の命令を断るのか?」
「はい」
フィーネが、少しだけ得意そうに微笑んだ。
奴隷だったころには、決して見せなかった顔だ。
「悪くない」
「ありがとうございます」
「だが、宰相の仕事はやれ」
「それは別問題です!」
「俺様の国には、お前が必要だ」
「そのような言い方をされても誤魔化されません!」
顔を赤くしている。
少しは効いたらしい。
そのとき。
玉座の間の窓から、一羽の白い鳥が飛び込んできた。
脚に手紙を結びつけた、神殿の伝書鳥だ。
鳥は俺様の頭上を旋回し、フィーネの肩へ降りた。
「なぜ俺様ではなく、お前のところへ行く?」
「日頃の行いではないでしょうか」
「鳥にまで嫌われる覚えはないぞ」
フィーネが手紙を外す。
封蝋には、王国と大神殿の紋章が並んでいた。
「ご主人様」
手紙を読んだフィーネの表情が曇る。
「王国、帝国、聖教国を含む十二ヶ国が、共同声明を発表したそうです」
「内容は?」
「ゼクト・グランツを世界の敵と認定。新国家の承認を拒否し、魔王城に滞在するすべての者へ降伏を勧告する、と」
「断る」
「まだ最後まで読んでおりません!」
「読む必要があるのか?」
「一応、期限がございます」
「いつだ?」
「七日後です。従わない場合は、十二ヶ国連合軍と女神の使徒による討伐を開始するそうです」
「ちょうどいい」
俺様は玉座へ座り直す。
「建国祝いにしては、少し遅いが許してやろう」
「攻め込まれるのですよ!」
「客が大勢来るなら、食料を持っているだろ」
「連合軍から略奪するつもりですか!?」
「俺様の国には物資が足りないんだろ?」
「国王自ら略奪を提案しないでください!」
フィーネの声が玉座の間へ響く。
その向こう。
遥か遠い空に、十二本の白い光が立ち上っていた。
女神の使徒。
人間でも、魔族でもない。
役割の外側に立ち、女神から直接力を与えられた超越者たち。
そのうちの一つが、ゆっくりとこちらへ動き始める。
世界中が、俺様の敵になった。
勇者をクビになった日の朝には、想像もしていなかったことだ。
「ご主人様」
フィーネが俺様の隣へ立つ。
「これから、どうなさるおつもりですか?」
「決まっている」
王国最強の勇者という肩書は、もうない。
代わりに城を手に入れた。
魔獣を手に入れた。
勇者と魔王を奪った。
守るべき民と、帰る場所もできた。
なら、残るものは一つだ。
「次は――」
俺様は、十二の光が輝く世界を見渡した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
これにて第一部完結です。
ゼクトたちの建国と、女神が送り込む《十二神徒》との戦いは、反響をいただけましたら第二部として続きを執筆したいと思っています。
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