理由を探す話 うっかり知ってしまった
食後の皿洗いを済ませ、自室に戻る。ゆり子さんもそろそろパートの時間だと言う。みっちゃんは自室で寝ている。他の住人も出払う中、掃除をして、食事中にランドリーで回していた洗濯物を畳む。「…一応、連絡だけ入れておくかぁ。」スマホを手にとり、父にメッセージを送る。『冬休み、入りました。成績表は学校から保護者宛てにパスワード届きますので、それで見れます。正月、帰りません。水入らずで過ごして下さい。』っと。スマホをベッドの上に放り、服を畳む作業を再開する。「隙間バイトでもしよっかなぁ。」勉学も大事だが、なにぶん生きて行くには金がいる。「んー、今までの分で、約35万かぁ。」ざっくりだが、4月から掛け持ちしたバイト2つの給料から、家賃(水道代、光熱費含む)、食費、雑費を引いての金額である。出来る限り、貯めておきたい。「修学旅行も行きたいしなぁ。親父が金、出してくれるかなぁ。」親父っていうか、嫁さんの方だよな。あれ、新しい“お義母さん”の名前、なんだっけ。ま、いっか。興味もないや。もし、子供が出来たら、義理の娘より、自分の子供に金を使いたいだろうしな。出来るだけの事をして、ダメなら一か八か、頼んでみようか。
なんて考えていたら、電話が鳴った。父だ。「はい。」『おぉ、LINE、見たけどさ。』「あぁ、うん。」『夏も帰って来なかったのに、年末も帰って来ないのか?』「バイトがあるし。年末年始はお手当てが付くから。」『けど。』「夏の新婚旅行、楽しかったんっしょ?正月も旅行しりゃいいじゃん。温泉とかさ。」『んー、それがなぁ。』モゴモゴと言って、ハッキリしない。「何か問題あんの?」気になって聞くと、『んー、あのね、幸。』「何?」『…。父さん、別れちゃった。』「…。はぁ?」昨年の進路志望提出時には、籍を入れていたはずだ。なので一年ちょっとの短い結婚生活となる。「え、なんでまた。」『んー、彼女ねぇ。』父が電話口で、ふぅーっとため息を漏らす。『お姫様で居てたかったみたいなんだよ。』「…。え、どっかの華族や皇室の末裔とか?大企業の一人娘?」「いや、全然。一会社員の娘さん。」「じゃあ、“お姫様”ってのはお姫様扱いって事?」『そうだね。まぁ、歳も離れてたからさぁ。僕も甘やかしてたんだけど。』スピーカーにして、ローテーブルに置く。『いくらなんでも魔法の小鎚じゃないんだから、湯水の様にお金が湧いて、自分が動かなくても何もかもしてくれる。なんて事はないんだよって言っても『幸せにするって言ったのは嘘だったのね!』なんて言われてさぁ。』
父の愚痴を聞き流しながら、畳む作業を再開する。しかし、『嫁さんの写真見つけた日にゃ、娘も嫁さん側に親権渡して、何のしがらみなく縁を切れって言われちゃったからさ、頭に来て。ってな理由で、別れちゃったんだぁ。』軽いノリで話す父に聞き直した。「え、ちょっと待って?今、なんつった?」ベタな言葉だが、聞き逃してはならない事を父は言った気がする。『…あぁ、教えてなかったかぁ。しまったぁ。』父は、父で何やら、やらかしたように一人ゴチたが、「え、母親の写真があるって何?今も生きてんの?」と、質問を投げ掛ける。これは、ビックリどころの話ではない。しかし、『んー、写真はあるよ、一応。ただ、生きてるか、死んでるかは判らないんだ。』言い方に不穏さがある。「…。もしかして、男が出来て、出ていった。とか?だったら、知らなくて大丈夫だけど。」知らぬが仏って事もある。『いや、そうじゃないよ。…そうだね。簡潔に言うと、“自分は自己中だから人の世話は出来ない”って言われたんだよ。』…?は?どういう事だ?『君のお母さんって人も、今、思うと同じなんだろうな、別れた彼女と。僕はつくづく女運が悪いなぁ。』まぁ、良くはないだろうな。「…とりあえず、正月は帰らない。部屋の片付け等は、ハウスキーパーさんを頼んで下さい。あと、揉め事にならないように財産分与とか慰謝料云々は、弁護士に相談して下さい。」『相変わらず、ドライだなぁ。幸は。じゃあ昼休み、終わっちゃうから。』そう言って、電話は終了した。
「おい、まさか、母親の話が出てくるなんてな。びっくりやなぁ。」いきなり背後から話しかけられて、声もなく飛び上がった。「あ、すまん。電話中やったんで静かに入ってきたんや。」「てめぇ、よくも夕べは!」「ごめん!ほんま、ごめん!浮かれててん!うっかりしとったんや!」出来る限り声のトーンは低くしたが、ハラワタの怒りの炎がいつまた爆発するか判らない。「…。お前の謝罪は上っ面だけだからな。怒るのも馬鹿らしい。」畳んだ服を衣装ケースにしまう。「いや、本気で反省しとるで?」「くどい。」上着を羽織り、カバンに財布とスマホ、鍵にエコバッグを入れ、しょげている幽霊を無視して玄関ドアに鍵をかける。風は冷たいが、高い空は青く澄んでいる。ふいに、地元の幼なじみや、お手伝いに来てくれていた“みつ子さん”を思い出した。父と話したからだろうか。「皆、変わりないかなぁ。」ポツリとそんな言葉をこぼした。




