恋の話 薄紅色
「なかなかファンキーな頭になったわよね。」早朝、バイト中にオーナー夫人が弁当を並べながら言ってきた。「このまま伸ばそうか、また短く切ろうか悩んでんすよね。」新聞、雑誌を並べながら話す。客が来ていない為に出来る、喋りながらの作業だ。「染まったところまで切って伸ばしゃいいじゃない。」「そうしたら、維持費がかかるんすよねぇ。散髪代も回数重ねるとバカになんないっすもん。」「え、ちょっと待って。美容室じゃないの?」「伸びたら学割1,500円カットっす。後ろから冷凍物、持ってきますねー。」なんて話してて、時間はあっと言う間に過ぎる。朝の7時でもまだほの暗い。自転車を停めていると、「おはよう、お疲れ様。」と、正人さんがスーツにジャンパー姿、リクルートカバンを手に降りてきた。「今日は早いっすね。」「ちょっと朝イチ会議があるんだ。その準備。」フルフェイスを被り、バイクをアパート前の道へと押し出す。「気をつけて、行ってらっしゃい。」右手をふりふり、送り出す。「…うん、行ってくるね。」数秒こちらを見た後で、正人さんは走って行った。「なんや、やっぱり態度おかしいで?」「なんだろなぁ。何かしたかな?」「なら、話かけてけぇへんやろ。あっ!やっと性別解ったんちゃうか?」「あー、髪が伸びて印象が変わったから?でも、ロングのウィッグ姿は正人さん、知ってるけど。」首を捻りながら自室に戻っていく。
テストが始まった。前回のように放課後、自主的に残って勉強していた生徒が幾人かいてその中には陸部の三人の姿もあった。途中、嫌気が差して遊びになりそうな時もあったようだが、“ふくい”が「解らないとこ、ない?」と、それとなく手助けしてくれたのだとか。「ふくいは悪い奴じゃないんだけど、強い奴に巻かれ易いからな。本来は真面目で気配りの出来る奴なんだ。」同じ中学だった岸田がそういって、素直に勉強を請う姿を見せる事で彼に対する当たりを柔らかくした。そうして、3日間のテスト期間が終わった。最終日、前回出来なかった慰労会をしようかと話が出たが今回は自分の都合が悪かった。テスト勉強の為にずらして貰ったコンビニバイトのシフトが入っていた。「じゃあ、バイトまでの時間でお茶しよう。」と、駅近くのチェーン店へ行く事になった。
「君たち、恋ってしてるかい?」朋ちゃんがストローくわえて、真面目くさった顔で言うもんだから、飲んでいたコーヒーを噴いた。「おい、汚いな。」「アウトだろ、あれは。」リンダがいつものごとく、ムシャムシャ食べているのはフランスパンを丸々一本使ったサンドイッチ。そのまま食べている奴を、他に見たことはない。「藪から棒だな。」「初めて聞いたよ。それ。」「俺も初めて使った。」二人のやり取りをテーブルを拭きながら聞いて、「で、どうしてその話題なん?」と話の続きを促す。「文化祭終わった辺りからさぁ。カップル出来てんの、あっちこっちで。」まぁ、イベントが興ればそりゃな。「で、こないださぁ…。告られたんだけど。」ぶふっ!と、リンダが噴いた。「おい、汚いな。」「っごふっ!あ、アウトってか、誰に?!」口の端にパン屑つけたまま、慌てて朋ちゃんに聞き返す。「相手の事は詳しく言えんよ。断ったし。」朋ちゃんはストローをチューと吸いながらアイスティーを飲むと「てかさ、“好きです、付き合って下さい”っておかしくない?」「その心は。」「相手は自分の事知ってて、何かしらのきっかけで好きになる。これは、ありがたい事だと思うのよ。」「お、おう。」リンダが紙ナプキンで飛んだサンドイッチを拭きながら応える。「けどそれで、なんで自分も好きになってもらえている|。って考えんのかな?」ほほぅ、なにやらそういった経験がおありのようだ。「まずは自分と接点作ってさ、それなりに会話したり顔合わせて、ってなら可能性あるじゃん。」「まぁ、そうだな。」「こっちは“ハジメマシテ”なのに、付き合って。恋人なって。は、おこがましいと思うんですよ、あーしは。」「確かにね。」「初見の奴だったのか。」再びアイスティーをチューっと吸うと、「で、二人に聞いてんのよ。恋、してるかい?」どこのトレンディ俳優だよ見たことないわ。「ないな。」「俺も。」えー?ほんとかぁ?とは、思っても口には出さない。「自分の場合、そんな暇がない。」「まぁ、幸ちゃんはそうだよね。」「俺、スポーツ特待生だから結果出さないと。」「けど、それはそれでモテない?」「…俺が出待ちとか差し入れとか貰ってるとこ、見たことあるか?」「ないな。」ズバッと切り捨てる朋ちゃん、嫌いじゃないぜ。「恋、恋愛かぁ。想像もつかないな。」「初恋はあるでしょ?あーしは中学の時に、部活の先輩だったな。格好良く見えたんだよねぇ。」「うーん、俺は保育園の時の実習生のお姉さん。たぶん、大学生かな?周りの先生より柔らかい雰囲気のお姉さんで好きだったんだと思うなぁ。」「おませさ~ん♪」「年上好きかぁ。熟女キラーってやつだな。」「おい、やめろ。俺の淡く幼い恋心を弄るな。」笑いながら、はてさて自分はどうだったかなと、考えてみる。




