表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/126

文化祭の話 後の祭り

“ばれたらクビ”、そう、頭では解ってたのに。いつもなら、踏んで消した吸殻は拾って携帯灰皿に入れる。けれどその時、その一瞬だけ、魔が差した。階段の手すりに押し付け、消えただろう吸殻を階段下の段ボールに向かって落とした。手すりから覗き込む様にその落ちる(さま)を見ていた。段ボール箱に吸殻が近づいた瞬間に、爆発と火柱が立ち…。


「缶が火ぃ吹いて、ゴミの山に突っ込んでたら、もっとえらい事になっとったで。」幽霊は、部屋でこちらに背を向けながら、見ていた事を手振り足振り、説明してくれる。火を吹く缶は、傷んだ畳と土嚢の壁に勢いよく突っ込み、キャッチャーミットにボールが投げ込まれたような『ズドンッ』という音がしたのだ。そして、学校校舎の形状上、音が反響して大きく鳴り響いた。あの音は、そういった経緯のものだった。箱に溜まっていたガスも火がついて二階以上の高さまで火柱をあげたが、階段はコンクリート。壁を煤で黒く汚す以外は、入っていた段ボールの他に燃やす物はなく、消火器を持った複数人の教諭にあっというまに消されたそうだ。「まぁ、あの担任。前髪と眉毛、まつ毛も燃やしてたから、暫く学校来れんやろな。」キシシと、幽霊が笑う。「大きな火事にならなかったんだ。何か褒美をしようか。」「え、ほんま、やったぁ!」着替えが終わり、そう言ったとたん幽霊は嬉しそうに、部屋中を飛び回る。「おい、止めろよ。」「えー、褒美って何にして貰お。旨いもんかなぁ。どっか出かけてもええなぁ。」その言葉に、「そういや、お前、こないだ谷さんの大学の最寄り駅。行けなかったよな。なんで?」コンビニバイトの為の長い髪のウィッグを被りながら聞く。「あー、あれなぁ。」はしゃいでいたテンションを落とし、「こないだ合コンした駅あるやろ?」谷さんの大学のご友人達と男装でメンバー入りした時だ。「あの駅は行けてん。けど、大学があるとこの駅がよう行かんのや。」幽霊は、腕を組み頭をひねる。「なんか、思い当たる事ってないの?」髪を束ねてヘアゴムでくくる。「んー。なんやろな?一応、あとでこの街の地図、あったら出してくれるか?」「ねえよ。」とりあえず、バイトに向かった。


「今日は楽しかったねぇ。」たっくんは、ゆり子さんと正人さんに一生懸命、今日の出来事を説明している。ここあさんが夜に働くガールズバーが、今夜、開店何周年かのパーティーを開くそうで、早出したそうだ。「かっこよかったー!こう、こうしてね!」ふんふんと鼻息荒く足踏みと手をたたく(さま)が、なんとも愛らしい。「やだぁ、たっくん、格好いいっ!」みっちゃんがはしゃぐ。明日は休みの者が多い為、正人さんもゆり子さんも、まったりと過ごしている。自分はバイトが長引き、皆が食べ終えた後の食事である。白菜と焼売を蒸したもの、餃子スープ、餡掛けかに玉と、今日は中華なメニューだ。「(こう)君、白菜の漬物あるよ。いる?」正人さんが、缶ビールのおかわりを取りに冷蔵庫に向かう際に聞いてくれる。「あ、頂きます。ありがとうございますっ。」漬物の入った皿を受けとりながら、「みっちゃん、仕事はいいんすか?」もう、夜8時を過ぎている。本来なら化粧も服装もバッチリ決める時間だ。みっちゃんは、にやりと笑うと「明日は特別な事があるから、“仕事”は休みなのよ。」何が特別か分からないけど、多分、ろくでもない事なのは解る。明日は、自分の事をしよう。最近、忙しくってゆっくり出来ていないし。来月には、二学期の期末テストがある。息抜きが出来るのは、今だけだろう。「ちょっと、ランドリーの方を見てくるわね。」ゆり子さんが、よっこいせと立ち上がり、コインランドリーへと向かった。「あ、僕、洗濯回したままだ。」正人さんがゆり子さんの後を追うようにコインランドリーへと向かう扉を開けていく。「たっくん、そろそろネンネの時間よぉ。」みっちゃんは、目を擦り始めたたっくんを抱き上げると「オシッコ一人で出来るかなぁ~?」節をつけて、トイレに向かう。ほんの数分の静けさが、ほんの少し、哀しい。数ヶ月前までは、一人で過ごす静かな時間は長く当たり前だったから、なんだか不思議。「ごちそうさまでした。」食器を流しに運んでいると、みっちゃんがトイレから出てきた。たっくんは、「オシッコしながら寝ちゃったわ。」そりゃ、大変だったでしょうに。「小さい子はどこででも、何をしてても寝れるんだから。」起きない様に揺れながらたっくんの寝顔を見るみっちゃん。「布団、敷いたっす。」座卓を寄せ、客用布団を出す。「天使ねぇ。」たっくんの頬を撫でて離れないみっちゃんは放っておいて、卓上を片付け、皿を洗う。そこに、カゴいっぱいに洗濯乾燥が終わった衣類を入れた正人さんが戻ってくる。「あれ、たっくん、寝ちゃったか。じゃあ、僕も失礼するね。おやすみ。」静かに退出していく。「自分も、もう寝るっす。」おやすみなさい。と

自室に戻っていく。階段を上りきったところで、正人さんが立っていた。「どうしたんすか?」「明日の予定、聞いておこうかなって。」「?なんでまた。」「あー、みっちゃんは用事があるみたいだし。ゆり子さんとたっくん達(ここあさん含む)も、出かけるかもって言ってたから。昼飯か晩飯か、先輩風でも吹かせて奢っちゃおうかなって「え、いいんすか。ありがとうございます。」食いぎみに返事をする。正人さんは洗濯かごを持ち直し、「はは、また後でLINEして決めようか。」と言って自室に戻っていった。わぁ、何が食べれるかなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ