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文化祭の話 忘れちゃならん事

「今日、観覧席に来てたもんね。音楽学校の先生。」「?!」「島崎さん、言ってたよね。憧れてるって。」「専門学校、入りたかったって。」「息子さん、この学校だったっけ。」「お知り合いになりたいんだよね?」立ち上がった女子生徒二人の怒涛の言葉の攻めに、島崎は反論出来ずに真っ赤になる。「応援してたよ。」「機会があればいいねって。でもっ!」「あんた、何してんのよ…。自分さえ、良ければいいの?」4月に入学してから約半年、そこそこ相手と仲良くなり、腹を割った話も出来るようになっていたんだろう。

島崎さんは、黙ったまま俯いてしまった。「いくら私達だって、怒る時あるの。」「せめて、私達にだけでも相談して欲しかったよ。協力することが出来たよ。」なんとも、シリアスな空気が流れていたがぶった切ったのが、「つまり何か?クラス巻き込んで、俺らを土台に自分を良く見せようって作戦?選曲も?」と、話す中岡。「…選曲は、先生の独断。」島崎さんがポツリと呟く。「…“クラスで相談して選択”していれば、選曲だってその流れで、選べたかもしれないよね。」他の誰かがこぼす。「偉そうに、練習練習言ってたのは、自分の欲かよ。」「そりゃ、こうなるわ。」「結果、成功したけどさぁ。」ハハハと一部で笑い声が起きる。島崎さんが、ばっと顔を上げ、立ち上がる。目が血走っていて、怖い。「あんた達、皆で邪魔したんだからっ!いいじゃない!成功したんでしょっ!?なら、私、攻められる必要ないじゃないっ!」「俺ら、そんなの知んねーよ。」「は?」笑っていた男子生徒がいう。「邪魔とかじゃなく、楽しくしたかっただけ。」「おめぇの考えなんか知らんっての。」「動画みて、やっただけだもんな?」「動画?」男子生徒がスマホ画面を開いて見せる。それは、ゆーチューブで流れている動画。最初の曲から、途中で違う曲に切り替わるその手法が、まんま同じだったのだ。「お前や“ふくい”も知ってると思ってたんだよ。」「LINEで“これやろうぜ”ってきたから。」「一応、先生の手前、今まで通りの練習もしてさ。」なー。と、周りの生徒達と確認しあう彼らを呆気に取られたように見る島崎さんに、井上さんが言う。「知らない内に騙されてる気分、どう?」島崎さんは、静かに「…最悪。」「そう、私達の気持ちを、わかって貰えて良かった。」そう言って、静かに席に座った。島崎さんも、力が抜けたように座る。そこに、教室のドアを開けてタイミングよく学年主任が入ってきた。「えー、みんな、今日はお疲れ様でした。担任の野村先生ですが、火事の際、ケガをしたため病院に行かれました。幸い、軽いケガでしたが、そのまま帰宅して頂くように手配しましたので、心配は要りません。」そこまで一気に言った後、「今日は、色々と学ぶ事もあったかと思います。日頃の訓練の結果、火事も大事に至らなかったし、生徒達にケガ人も出なかったからね。」と、なにやら意味ありげに、生徒達の顔を見回す。「さ、気をつけて帰るように。月曜は振替休校だからね。忘れ物などないように。」「はーい。」「俺、部活あるわぁ。」「あー、バイトだりぃ。」お調子者の男子生徒が、元気に返事したのを皮切りに、皆、カバンを手に教室を出る。どうやら、他のクラスは既に教室を出ているようだ。学年主任は、廊下で中の騒ぎが収まるまで待っていたのだろう。「…先生って大変な仕事だな。」廊下を進みながら、ボソリと呟く。「ほんまや。怪我人も生徒やったら、教育委員会に保護者会、どえらいうるさいで。」幽霊が現れ、頭上を飛ぶ。「お疲れー。」「じゃーねー。」朋ちゃんとも別れ、自転車に乗って帰宅する。早くしないと、バイトに遅れてしまう。自転車を漕ぎながら、「しかし、よく、気がついたな。」「あー、あれな。ナイスプレイやったんちゃう?」


島崎さんがスプレー缶の入った段ボール箱を蹴飛ばしまくった後、箱の中でガスが少しずつ漏れていた。インク溶剤のシンナーも混ざっているガスだ。それに気づいた幽霊は、どうしようか慌てふためく。暫くすると、体格の良い男子生徒数名が“猫車”に土嚢や傷んだ畳を積んで持ってきた。「土嚢の中の土、どうすんだ?」「確か、植木の根元に撒いておけって、先生言ってたぜ。」と、下ろし始めた。幽霊は、(ささや)いた。「もうちょっと、こっちに寄せて。」「土嚢はまた、使うかもよ。」


そうして、()()()()段ボールから離れて、他のゴミを囲う様にそれらが積まれる事になった。幽霊がその場を離れた時、段ボールから這い出たのは黒いモヤ。それは、外階段の外壁を伝い、二階部分の踊り場に向かった。そこで隠れてタバコを吸っていたのだ。“野村先生”は。「はー、やんなっちゃうなぁ。」煙を吐き出しながら、スマホを弄る。画面には、演奏曲のアイドルの壁紙。「せっかく、ファンサイトで載せようと思ってたのに。くそっ!」自分の学校で演奏しましたって送れば、ラジオや番組で話題にして貰えるかも。そういった下心があって、合奏に決まったとクラス委員から聞いた時、直ぐ様、楽譜を準備し有無を言わさず練習させたのだ。

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