文化祭の話
今日の為に練習したんだもの。大丈夫よ。他の生徒が失敗したって、私の演奏が引き立って、逆にいい位だわ。選曲は最悪だけど、序盤の速弾きはプロもトチる難しさだもん。サビの転調も、クラシックにはないやり方だから気をつけなきゃ。 幕が上がって、自分の場所へ。関係者観覧席に、目当ての人物の姿を確認する。 大丈夫。私なら大丈夫よ。 何度も自分に言い聞かせて、いざ演奏へ。
「あら、知ってるわ。この曲。」「アイドルのデビュー曲だよ、話題になったやつ。」最初のイントロから早口みたいで印象に残る、アップテンポの明るい曲だ。その時の流行りの“可愛い”を詰め込んだ曲を、雛壇に並ぶピアニカとリコーダー、舞台上のピアノで奏でていく。前列の今日ガタイの良い男子学生がピアニカでアイドル曲。なかなか、シュールな演奏スタイルに、観覧者達も面白がって手拍子をする。指揮をする男子生徒が笑わずに真剣に指揮棒を振る姿が、これまた面白味を増している。さあ、サビに入る!と、言うところで…
ダ、ダン!!!その音の大きさと、足元から響く感覚に、体育館が一瞬静まりかえる。ピアノの演奏者も指揮者でさえも、目がテンである。すぐに、ダンッダンッ!と、同じく響くこの音の正体は。ダンッ!バッバンッ!舞台上の雛壇で演奏していた生徒達が一同に足を踏み鳴らし、前列の体格の良い男子生徒達が、その鍛えた胸板や太ももを叩き、リズムを刻む。繰り返し、繰り返し。そこに女子生徒の手拍子が入る。足踏みでリズムをとりながら。それは、誰もが知る洋楽で、聞けば身体が揺れ、手を叩きたくなる。観覧者達もリズムに身体を揺らし、だんだんと一体になっていく。ピアノ演奏者は、無理やり、元の演奏曲に戻ろうとしたが、一人の男子生徒の大きな歌声に負けてしまった。徐々に歌声も一人二人と増え、最後には体育館全体で歌い、手拍子、足拍子がピタッと終わった瞬間、拍手喝采を貰って幕を綴じた。
「凄いねぇ。みんな、かっこよかったー!」たっくんはキラキラした目を向けて、興奮気味だ。「アイドルの曲から、皆が知ってる洋楽に替わるのが、面白いわね!」「幸ちゃん、かっこよかったよー!!」体育館の外、ベンチに座りながら模擬店で買ったアイス(市販のカップアイスにスプレーチョコやクッキーで可愛いくデコられたもの)を4人仲良く食べていた。「皆、この後帰るだけ?」食べ終わったカップをゴミ箱に入れながら聞く。「あらかた、周ったかしら。」「お化け屋敷、結構楽しかったよね。」「ねー!」行ったんだ…。「やり投げは、最高記録出してきたわ。」みっちゃんは、腕を曲げて力こぶを作る。「さすが、ヘラクレス。」「?なんの話し?」つい出てしまった独り言に、ここあさんが反応してしまった。「いえ、なんもないっす。」
ガンッと足元の段ボールを蹴る。「なによ、あれ。ふざけやがって…!」ガンガンと段ボールを蹴り、中に入っていた缶がひしゃげる。人目につきにくい、校舎横の外階段の下。準備に使った道具の一時置き場になっているその場所で、島崎さんは荒れていた。本来なら、自分の見せ場だったはずが、全てひっくり返された。「クソックソッ!あいつらっ!」あいつらが仕組んだんだっ!クソッ! 島崎さんは気づかない。黒い渦が足元にまとわりついていたのを。誰も見えない。見えていない。




