階段の話 足元は確認するように。
なかなか、イヤな人を字に表すのって難しいですね。自分は、イヤだ、と感じても、他者からは、そう感じない事もあります。自分自身も、もしかしたら、イヤな人になっている事もあり、うまく、折り合いがつけるようになるのが、大人なんでしょうね。…と、一応何十年前に大人認定式を受けている、自称大人がつぶやいたりしちゃったり…。
発端となったのは、中間テストに向けて勉強をする所から。「清掃は、罰ゲームですか。」静かに話す学年主任に担任は「ぃ、いや、生徒のやる気を起こしたくて。」と、モゴモゴ言って声が消えていく。「私と、杉本さんとしょっちゅうコピー、借りに来てましたよね?」朋ちゃんが事務員さんに声をかけた。コピーする際は事務員さんに許可を得なければならない。「はい、刷り損じや残ったプリントの裏に、ドリルや手書きのノートをコピーしていましたよ。何枚も。」事務員さんは正直に答えてくれた。「俺自身、川田と杉本に勉強みて貰って、赤点回避したんす。それは、中岡も岸田も同じっす。」「陸部の先生にも、練習遅れますって伝えてます。理由も。」「ふむ。」学年主任はじっくり聞いてくれている。「だから赤点回避で、文化祭、楽しみにしていました。自分たちは、この時点で一年生は劇か、合唱か、合奏かのどれかをするって知らなかったんです。」ちらりと、目だけ動かして担任を見やる。担任は顔色が悪い。「昼休みに、何できるかなって話してたら島崎さんが、その3つのどれかに決まってるって言って。」「なら、出来る事を楽しもうって考えをシフトチェンジしたんす。」まだ、選択肢があると思っていた。「そしたら、次の日、決まったって。」「誰も知らなくて、ブーイングだったんすよ。」「野村先生…!」学年主任が担任の名前を呼ぶ。「何も伝えてなかったんですか?」「いえ、クラス委員が説明するはずで、」「生徒の責任にしないで下さい!」学年主任が叱責する。「中岡が言ってた、他のクラスで行われたアンケートもうちのクラスじゃ無かったし、たとえ合奏でも、皆でアイデア出し合ったり、曲も自分達で決めたりしてたら、揉めなかったと思います。」リンダが胸を張ってはっきり伝える。その上で、「クラス委員がとおっしゃいましたが、彼女がしたのは、楽器練習の時に喚いただけです。」「と、言うと?」昨日の顛末を伝える。「…。解りました。とりあえず、教室に戻って、授業を受けなさい。」やっと狭いソファから解放される。職員室を辞して廊下を歩きながら、「ケツが痛い。」「リンダ、あんた、遠慮ってもんがないのよ。」「お前らのケツがデカイんだろ?」三人仲良く、ケツを痛めた。
教室に戻ると、島崎さんも“ふくい”もいて、島崎さんにいたっては何食わぬ顔で教科書を開いている。「ほら、席に座りなさい。」教科担当の先生に促され、席についた。これ、遅刻扱いにならないよな…?
昼休み、気分が悪いと言って朋ちゃんとリンダと三人、教室を出て中庭にいく。昨日の雨で、地面は濡れていたがベンチは座れそうだ。他の生徒もちらほら座っている。「今日は晴れて良かったよ。」朋ちゃんがサンドイッチのレタスをムシャムシャしながら秋晴れの空を仰ぐ。「昨日が最悪だったからなぁ。」リンダは、例のでっかい握りこぶし…じゃなくて握り飯にかぶりつきながら「今日、グラウンド、使えっかな?」「微妙だよねぇ。」と、部活の心配をしている。弁当に入っているアスパラベーコンに箸を伸ばしかけた時だ。「おい、気をつけや。」珍しく幽霊が声をかけてきた。人といる時は離れているのに。心の中で、どうした?と、聞きかえした。幽霊は何も言わず指差す。数メートル離れた場所に島崎さんが立っている。「…。」アスパラベーコンを口に放り込んでから、隣にいる朋ちゃんに肘で合図を送る。「どーした、」朋ちゃんもリンダも島崎さんを視認して、その上で黙々と弁当を食べ続ける。「ちょっと。」と、近づいて話しかけてくる。仕方なく自分が「なに。」と、そちらを見ずに答える。朋ちゃんとリンダは答えたくもないようだ。「あんた達、何か言ったの?」「誰に。」「クラスの皆よ。」「皆って。」弁当の蓋を閉じて、島崎さんの方に体を向ける。「何か言っているのを、島崎さん、見たの?」「口で言わなくても、SNSとかあるでしょ?」「それをする時間が合ったと?」「授業中とか、してんじゃないの?知らないわよ!」「じゃあ、全くの憶測で話してるって事だ。」「!」島崎さんは真っ赤になって、拳を握りしめる。「で、何を言われたと思ってるの?」「あ、あんた達が、私を、私を仲間外れにするように!ハブる様に言ったんでしょ!?」昨日までは一緒に昼食を食べる仲だった生徒に、今日は断られたのだろう。「自分自身、心辺りが無いんだね?」「!なによ。何が言いたいのよ。」彼女の後ろにぐるぐると渦巻く黒い霧。「面白がった浮遊霊が集まっとるで。」幽霊が、教えてくれる。全く、迷惑が付きまとう。「教室戻ろうか。」「そだなー。」リンダと朋ちゃんが立ち上がる。「行こ。」リンダは島崎さんを背に、自分の前に立ち塞がり、朋ちゃんは手を引いてくれた。三人で戻ろうとした時に、「まだ話してるでしょ!?」島崎さんが手を伸ばして朋ちゃんの肩を掴もうとした時、リンダが動くより先にグーパンチが島崎さんの頬をかする。「自分のした事の始末くらい、自分でしろよ。」島崎さんは立ち尽くして動けなくなった。自分たちは、そのまま彼女を置いて教室に戻った。




