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祭りの話

その日、最後の授業だった。そして、最後に返されるテストの科目でもあった。

クラスの空気は、どこか緊張を含んでいた。先生が全員に配り終える。「じゃあ、間違い直ししていくぞ。…おい、点数確認しろー。」複数人、裏返したまま机に置いていた。前に座るリンダの背中から出る放射熱が熱い。「ほら!点数確認して!」先生のお叱りを受け、その生徒同士、互いに目配せの後、意を決して表に返す。「「「うわぁぁぁぁ!!」」」歓声はビリビリと窓ガラスを揺らした。「ちょっ!何!どうした!?」教科担当の先生は知らないから無理もないが、彼らは一体となっていた。「赤点じゃない!」「俺も!」「やったぁ!」さすがに先生も呆気にとられていたが、「静かに!点数減らすよ!」の一言に、彼らは着席し静まり返った。「…えっと、赤点は誰一人いませんでした。しかも、他のクラスに比べても平均点が高かったです。よく頑張ったな。」先生の言葉が、染みた。


「苦労が報われた~。」朋ちゃんは、半ば諦めていたと言う。「テスト終わってすぐ、部活だったから。できたか確認とれなくて。」あの、赤点三人組。テスト終わって部活を挟んでしまえば、テストの内容など頭から消えてしまう、自分が書いた解答など覚えてすらいない。しかし、無事赤点を免れ、しかもクラス平均が学年平均より上回ったという奇跡に近い結果だった。「まぁ中間だから、範囲が狭かったのも良かったよ。」「文化祭、楽しみだね!何が出来るかな?」朋ちゃんは、ワクワクとはしゃいでいる。可愛い。「一年は毎年、劇か、合唱か合奏をするって決まってるのよ。」「「え?」」「私の姉、今、三年だから聞いたの。」クラス委員の島崎さん。「…。それは、内容は生徒が決めていいの?」「さあ、そこまでは。けど、派手な事は出来ないんじゃない?」と、言い置いて、さっさと帰ってしまった。「あーし、なんの為に…。」朋ちゃんが砂になりそうだ。「朋ちゃん!しっかり!」誰か、彼女に希望を!光を!「どうせなら格好いいの、やろうぜ。」リンダが、立ち上がる。「ゴスペルやアカペラみたいな。楽器とかも、ちょっと変わったの使うとかさ。」「バンドや吹奏楽とは違う演奏って事だよね。」「手作り楽器とかどうよ?」「ゆーチューブに、夏休みの工作であがってたね。塩ビパイプとか、鍋の蓋、使うやつ。」「面白そうじゃん!」あぁ、朋ちゃんに希望の光が灯った。


「“面白い”ってのは、人を動かす原動力よね。」じんさんが、カウンターの中のキッチンで根菜を炊いている。「いい匂いっす。」出汁にゴボウや、レンコン、人参に厚揚げ、鶏モモ肉、こんにゃくとが入っている。「夜は、さすがに冷えてきたもんね。」店が開く時間には外は真っ暗に日が落ち、足元から冷気が上がってくるようになった。「日中は日差しが暑いのにね。今が一番、紫外線がキツいのよ。」たくやさんが、カウンターの上を拭きながら話をする。「あれから、どうなりました?」一応、聞いてみる。「まだ、学祭まで日にちがあるし。準備は始めたけど、まだ余裕をみてるって感じね。」…。わからん。きっとうまくやってくれるのだろう。未成年者は、大人の事情など知らなくていいのだ。

「ほら、“山P”のとこに買い出し、行って来て。」「ついでに、ドラスト(ドラッグストア)で、消毒液の詰めかけもお願い。」「…了解っす。」持っていたモップをバケツに入れ、エコバッグと買い出しメモ、財布を預り買い出しに向かう。「えぇなぁ。青春、暇なしやなぁ。」幽霊が横を歩く。「何だか、立て続けて(せわ)しいんだよな。」肩を回すと、かかっていた髪が流れて落ちる。ロングのウィッグをポニーテールにくくり使っているのだ。服装は緑のライン入り上下ジャージの前を開けて、中にバンドTシャツを着ている。じんさんセレクトの衣装だ。「ぷいぷい」には、じんさんや、みっちゃん、たくやさんが、使っているウィッグもあるのだが色と長さが普段では使えない。サイズも違うし。「あれ、頭、どうしたの?」山Pもとい山久商店の店主が自分の頭を指しながら聞いてきた。店主の頭は、店の明かりを受け、光っている。「ちょっと、髪の色、おっかしくなっちゃって。かつらでごまかしてるんすよ。」「ははぁ、お洒落も大変だね。オレなんか、髪があるだけありがたいと思っちゃうけど。」つるりと頭を撫でる店主は、その名も“山下知久”、通称山Pである。若かりし頃は(髪があった時代は)そこそこモテたらしいが、今は影も形もない。(2つの意味で。)買い物をして、その向かいにあるドラストで消毒液を買い、店を出たところで、幽霊が「おい、あの子や。」と指す。多分、アパートにまで来た人だ。なんだか、やつれて顔色が悪い。こちらには気づかないで歩いていった。「まぁ、髪型も服装も違うから気づかないっちゃ気づかないか。」さて、早く戻って準備しないと。駆け足で「ぷいぷい」に戻る。日が暮れるのが早い。

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