祭りの話 漫画みたいな文化祭ってある?
「いや、ない。」リンダが、大きな握り飯をわっしわっしと食べながら、ズバリ答えた。「中学の時、他校の奴らと合同練習してさ、連絡交換したんだよ。」寮生は通常、朝夕は食事がついている。昼は学食や売店で買うのだが、それじゃあ量も金も足りないリンダは、炊飯器と米を買い、一合の握り飯を三つ持ってきている。中身は前日に見切り品で買った惣菜などらしい。「夏場は食中毒が怖いけど、だいぶ涼しくなってきたからな。」昔話に出てくるような握り飯を頬張る。話を戻して「じゃあ、いっぱい飾り付けたり、夜遅くまで残るなんて…。」「無いな。他校もやってない。」「がぁ~ん。」自分で効果音をつける朋ちゃんは、力なく椅子の上で垂れた。「あったとして、都会の私学とか中高一貫校だろ。地方の県立が文化祭にそこまで予算も時間も裂かねえよ。」ごもっとも。リンダは昨晩、旧友との親睦を深めてやり取りする上で文化祭の話題になり、それぞれの学校での話を聞いたのだ。「まぁ、今日の5、6時間は文化祭の内容についてなんだから、しっかりやりたい事伝えて、計画立てないとね。」萎れた朋ちゃんを励ます。「ううっ…。」夢見てたんだよねぇ、朋ちゃんは。リンダは推薦で入ってきたし、自分は地元と距離を置くため。けど、朋ちゃんは親の離婚が原因で、母親の実家から近い、偏差値も自分が入れるレベルって事で来たから、見学や説明会もなく。本来行きたかった高校があったはずなのに。周りに学校の卒業生や在校生がいたなら話を聞く事もあっただろうが、なかなか。親戚同士でも触れにくい話題でもあったりするんだろう。「1日しかないし、出来る事は限られるけど楽しめるように頑張ろうよ。」「俺、ボディパーカッションとか、いいとおもうんだよな。」リンダが手を叩き、座ったまま自分の太ももを叩く。繰り返したら、リズムになる。「格好よくね?俺、海外の歌、よく聞くんだ。こんな感じで、ミュージックビデオでやっててさ。」肩を揺らして一定のリズムで叩く。「確かに楽器を使わないっていいね。みんなで出来るし。」ウラに手拍子を入れる。「おお、ノッてきた♪」朋ちゃんが肩でリズムを取り出した。その時だ。「合奏に決まったわよ。」「「「へぇっ?」」」三人の息が揃った。声の主は島崎さん。「え、今日、決めるんでしょ?昼から。」慌て聞くと、「決めるのは誰がどんな楽器を使うかと、曲よ。」「ええっ!昨日、そんな事言ってなかったじゃん!」朋ちゃんが叫ぶ。「昨日のあの時は、まだ決まってなかったの。後で決まったんだから、仕方ないでしょ?」「あー…。決めたのは“クラス委員会議”?」朋ちゃんが自分の顔を見た後、島崎さんを見る。「…。そうよ。各学年のクラス委員が集まって決めたの。」「えぇ~。そんなぁ…。」「学年で統一するから、私達のクラスだけ違う事する訳にいかないでしょ。」そう言って島崎さんは、離れていった。「ううっ…。合奏かぁ…。」朋ちゃんが二度目の垂れ姿。「ほら、元気出して。最後の唐揚げ、あげるから。」「要らないなら俺にくれよ。」「要るよ!」ぱくっと唐揚げを食べると鼻息荒く、「もうっ!もうっ!」と怒っている。「牛か。」「いや、鶏だ。」「食った肉の話じゃねぇよ。」
そうして、昼休みが終わり5時間目。「お前ら中間テスト、頑張ったなぁ。無事、清掃員から脱却したな。」担任はへらへら笑っているが、頑張ったのは自分と朋ちゃんだという事を忘れないで欲しい。「昨日の放課後、クラス委員会議で一年の文化祭の催し物は、“合奏”と決まったんだが。」先生の話す横で委員の島崎さんともう一人、同じく委員の男子生徒が黒板に書き出す。「まぁ、学校の楽器にも数の制限があるし。吹奏楽やブラスバンドの楽器は借りれない。みな、自分達で持ってるやつで使わせて貰えたりするか?」「…。つっても、中学の時のリコーダーとか。」「小学校時代のカスタネットかピアニカ位しかねぇし。」「俺、バンドで出るから貸せねぇよ。」一辺に賑やかになる。「静かに。まぁだろうと思って、先生、用意しました。」「え、楽器を?」出してきたのは、紙の束。ホチキスで留められている。前から後ろに渡していく。「…。楽譜。」曲名は、最近の女の子アイドルグループのデビュー曲。「?」「え、歌うの?」「歌うのは“合唱”。するのは“合奏”だろ?」多分、皆、予想をしたはずだ。まさか、そんな、あり得ない。前に座るリンダの顔も、隣に座る朋ちゃんの顔も、色を失っている。「皆で楽しく、リコーダーとピアニカで演奏しまーす。」楽しそうに笑顔で言う担任。「「「誰がするか、ボケェェ!!」」」千切られた楽譜が宙を舞う。「お遊戯会か!」「頑張った結果がこれか!!」「ふざけんなっ!」憤まん、憤慨、いくらなんでも。しかも、このアイドルグループのデビュー曲、曲自体は可愛いんだけど文化祭で演奏したとして、しらけるの間違いないぞ、こりゃ。
朋ちゃん、空いた口が閉まらず固まっている。




