魚釣りの話 逃がさないように慎重に糸を引きます。
「ななみちゃん、はるかちゃんはイケメンを探す係になっちゃったの?」コーヒーを飲みながら質問する。うーん、“れいこさん”のコーヒーの後だと、喫茶店のコーヒーの味が雑味感じるなぁ。「私達以外にもいるんだけどね。」「俺らが言うのもなんだけど、男に声かけるの苦手そうだから。」「あ…。解る?」「相手にされないんだよね。私達、地味だし。」「それで声かけてくるって詐欺だよね。」「お兄さん達は、違うっぽいから。」ギリギリ詐欺かも。「普通に『大学の企画でーす。協力お願いしまーす。』とかなら、いけんじゃないの?」たくやさんが、イチゴをフォークに刺しながら質問する。「それが…。よく解んないんだけど、競争になっててさ。」「一目を避けて探してんだよね。」「と、いうと?」ななみが、プリンアラモードのクリームをすくいながら説明する事には。元々二つのゼミが協力しあって『素敵な街人』という企画をしていたらしい。しかし、コンプライアンスの事情か大々的なミスコンやミスターコンが無くなる年、ある先輩が言った。「なら、『街人』でミスコンしたらいいじゃん。」と学内で募集した。しかし、大学側から“待った”がかかる。そりゃそうだ。趣旨が変わってくる。なのでその年は学内から各種受賞者の生徒と、街で働く若手の職人やOBで地元に就職した人を載せた。次の年、前年と同じように街で働く若い男女を取材しようとした時、「どうせなら、見た目が良い人が良い。」「見た目が良いと、企画を見てくれる人も増え、盛り上がる。」との声があがる。どうやら、前年に取材した社会人と、恋愛や出会いの場に繋がりを持った人がいるらしい。これが発端となり、賛成派と反対派で分かれしまった。しかし、おおやけに分断したら企画そのもの、しいては“出会いのチャンス”そのものが無くなる。だから、水面下で声をかけているのだとか。「ただ、ちょっとね。」「なに?」二人は回りを見て、同じ大学の生徒がいないのを確認してから顔を寄せ小声で喋る。自然とこちらも顔を寄せるのだが、たくやさんに上着を引かれ、「近い。」と注意された。おっと。「ごめん、近すぎたわ。」「あ、ううん、大丈夫。」二人は少しはにかんでいたが、近くでみて女だってバレたらヤバイもんな。「企画部の中に、カースト上位の子がいて。」「合コンとか飲み会とか行きまくってるらしいんだけど。」声は潜めたまま。噂だと前置きした上で、「なんか、斡旋みたいな事しだして、小遣い稼ぎしてるらしいの。」「で、儲かるからってOBにも話にのる人がいるらしくて。」「二人はしてないの?」たくやさんがズバリ言うと、「そんな怖い事、ムリムリ。元より企画役員も押し付けられたようなもんだし。」「なんとか頑張って、さっき話かけようとしたら、振り向いてくれて…。」「男の人に声かけるのも、かけられるのも初めてだったから。」何、この子達。尊い。そして、警戒心がない。
「駄目だね。そんなペラペラ喋っちゃったら。」たくやさんは、空のグラスにスプーンをカラカラ鳴らしながら喋る。「俺達の素性も判らずに、聞かれたまま喋ったら。社会人になったらアウトだよ?」ニヤリと笑う。うわ、キレイな顔でそれは反則じゃね?ほら、二人とも青ざめながら、赤らんでる。…。紫色って訳ではないけど。「尋問してる訳じゃなくて。俺達、商店街の人に相談されてさ。勝手に写真撮って、ネットか何かに流されてるみたいって。」「わ、私達は絶対してません!」「ちゃんと本人の確認を取った上で、大学のホームページに期間限定で載せるんです!」「大丈夫。そこら辺もちゃんと調べてみるよ。ななみちゃんもはるかちゃんも、自分がしてたら俺らに喋ったりしないでしょ?」二人の握りしめた手に、それぞれ自分の手を乗せる。「俺の先輩も、二人と同じ大学なんだ。谷って言うんだけど。」「あ、谷君。確か、講義が一緒。」「あまり、話した事ないけど。」知っている人の名前を出されたからか、ちょっと落ち着いたみたいだ。たくやさんが、「彼がね、せっかく入った大学で、もめ事が起きるのは不安だ、警察とか介入する前に解決したいって話したんだよ。」いや、言ってないけどね。「…。私達も、企画はともかくゼミの先生や先輩が巻き込まれるのは嫌なんだよね。」「あの子、可愛いし、気もつくから男女問わず先輩方や先生からの受けがいいの。」「けど、同期の私達にはね…。判るんだ、なんとなく。」「うん、下に見てるなって。証拠とか、明確な嫌がらせはないから『ひがみじゃね?』って言われるかもだけど。」いや、解るなぁ。あるよね、そういうの。
「ま、とりあえずは。」たくやさんがスマホを見ながら話す。「もう一度、始めっから説明してあげてね。」テーブルに影が落ちる。見上げると、みっちゃんとじんさん。に挟まれて小さくなった谷さんが立っていた。「よろしく。お嬢さん達♪」みっちゃんがウインクを投げる。「「…!」」どう言う心情なのか、二人は抱き合って恐がって飛び上がっているにも関わらず、見とれているようだ。「女心って複雑。」「おまゆう。」たくやさんの突っ込みで閉める。




