魚釣りの話 餌針がしっかりかかるまで。
「さて、そろそろ行きましょっか。」みっちゃんが立ち上がり、号令をかける。「ご馳走さまでした。お邪魔しました。」と頭を下げる。待ってる間に、自分が飲んだカップを洗い、棚の上に置いて届かなくて困ってた買い置きのラップを取り、入り口横に重くて運べないまま置きっぱなしの水2L6本入りの段ボールを2ケース、キッチン奥に運び込んだ。「ほんと、よく動く子だわ。うちの孫に見せてやりたい!」“れいこさん”、孫いてるんだ。「“としこママ”、“れいこさん”。また、来るわね。」
そうして、店を後にする。外は薄暗くなってきている。肌寒さはないが、日中の暑さも感じられない。「いい頃合いじゃない?」みっちゃんが歩き出す。
“としこママ”は、ここら一帯の“顔”で、動く前に挨拶をしに行ったのだと言う。その上で、“ピンクパンサー”のような事案が起こっていないか聞くと、やはりちらほら、耳に入っているらしい。しかも、「うちの街じゃ無かったけど、ここじゃ引き抜きがあったんだって。それがどうやら…。」金銭が絡む厄介な話らしい。「お巡りさん…。きよっさんに、知らせるとか。」うーん。と、三人が唸る。「まだ“かもしれない。”って段階だしね。街の駐在さんがどれだけ権限あるものか。」たくやさんがズバっと切る。「まぁ、私達も若い頃やんちゃした経験があるからさ。大きな問題になる前に火消しして、若い子の経歴に傷が付くのを防いでやりたいってのもあるのよね。」と、じんさん。お節介ババアよね。と、卑下しているが、…ジジイである。
「そろそろ谷君もバイト、終わりじゃない?呼び出しましょ。で、待ってる間に手分けして、写真撮ったり、話かけてくる大学生を捕まえましょ。」みっちゃん、なんか、カブトムシ捕まえるみたいに言ってるなあ。「あんた、虫捕りじゃないんだから。」じんさんも同じ感想だったようだ。グーとパーで別れた結果、自分とたくやさん、みっちゃんとじんさんと相成った。「じゃ、谷君にLINE送って…。」「既読付きました。“解りました。”との事です。30分後に駅に着くそうっす。」「じゃ、30分後に駅に集合。ウフフ、ワクワクしちゃうぅ♪」「ちょっと、落ち着きなさいよっ!」みっちゃんとじんさんは駅の東側。「じゃ、反対側を回ってみようか。」と、たくやさんは静かに西に向かって歩きだす。「たくやさんは、ほんとにいつもと違いますね。」「んー。今日は“オネエスイッチ”…って自分で言ってるんだけど、ルーティンがあって。それをしてないから。」「なるほど(?)。けど、こんな事言ったら失礼っすけど、女性にめちゃくちゃモテないっすか?」「怖い思いしたんだよ、それで。で、恋愛対象が男性になって。ただ、自分が“女”になりたいかって言ったら、それも怖くて。」ふぅーと、ため息をつき、前髪をかき揚げる自然な姿は、道行く女性の目を引く。「大変なんすね。」「人事だと思って、いい加減に返してるでしょ?」「んな訳ないっす。」「どうだか。」「!」くるりと後ろを向くと、直ぐ真後ろに女性が二人。スマホを持っている。二人とも、びくりと体を震わせて立ち止まったのが見えた。「…何か用?」たくやさんがいつもより低い静かな声でたずねる。「あ、えっと…。その。」二人は、真面目そうな田舎から出てきた感じが残る女性で、たくやさんの態度にだんだん青ざめてきている。あかんわ、こりゃ。「お姉さん達、ナンパっすか?」出来るだけ軽くチャラく。「こんな可愛い子に声かけられるなんて光栄っす。」「えっと…。」「あ、先輩は緊張しいなんで。女の子に声かけんのも、実はドキドキなんすよ。」にへらっと笑って、道化になる。「ね、先輩。」と、女の子達から見えない様にアイコンタクトを送る。「あ、ごめんね。さっき、知らない女性が勝手に写真撮ってきたりしたから。ちょっと過敏になっててさ。」なんて、嘘っぱちをつらつら述べるたくやさん。小首を傾げてサラツヤ髪を肩に流すと首筋が色っぽくなり、二人は瞬く間に赤くなる。初だ。これは、絶対のチャンス!「まあ、ここからは俺らにエスコートさせてよ。どうかお嬢さん方、お茶を一杯、僕らにお付き合いして頂けませんか?」二人の指先を両手に取る。優しく。軽く。「あ、お願いします。」「ね、いいよね。」二人はきゃあきゃあ言いながら、了承を得た。たくやさんにこっそりオッケーのハンドサインを送る。たくやさんもグッドと返してきた。ほんとに、慣れてきたな、自分。
近くの喫茶店に入る。たくやさんは来た事があるらしく、「たしか、奥が広いテーブル席だったはず。」と、進んでいく。女の子達も続く。四人掛けが二つ並びの席で、入り口からは衝立で隠れる仕様になっている。「ソファ席の方がいっすか?」と、確認すると頷いたので壁側のソファ席に女性二人が座り、衝立の横、椅子の席に自分とたくやさんが座る。「まだ、時間が早いのでノンアルっすかね。」「お前、舞い上がってんなよ。」ふざけたやり取りに女の子達も緊張が緩んだようだ。各自注文した後、色々聞き出し作戦開始だ。「二人はこの近くの大学生っすか?」「あ、はいそうです。」「お兄さん達は?」「働いてますよ。先輩はお兄さんっすけど、自分はまだ21歳っす(キャラ設定上)。」「あ、同い年ですよ。」「なら、敬語要らないっす。自分、幸っていいます。」「あ、私、はるか。」「私は、ななみ。」「はるかちゃんに、ななみちゃんすね。」「二人とも、ナンパなんて柄じゃなくない?だって、純真無垢な感じする。」たくやさんが水を向ける。「あ、えっと、ナンパじゃなくて。」お互い、チラチラと目配せしながら、はるかちゃんとななみちゃんは話しだした。「実は、街で素敵な人を探していて。」「へぇ?」「大学の学祭で、街で出会った素敵な男女を取材、招待する企画があって。」「そんなのあるんだ。」「そう、で、私達、実行委員になっちゃったんだけど。」二人の顔が曇る。「何かトラブル?」ちょうど、頼んだ品が届く。「先輩、イチゴパフェっすか。」「いいじゃん。食べたかったんだから。」イケメンが、ぷっとすねても女の子ってきゃあって言うんだね。初めて知ったよ。




