試練の話 知恵の輪を解くように
テスト三日目最終日。昼前に終わり、朋ちゃんと「カラオケ行く?」「駅前の新しい店見てみる?」「ちょっと都会まで行っちゃう?」なんてはしゃいでいたが、校内放送で『放課後、陸部は集合。』と、流れた瞬間の朋ちゃんの悲壮な顔は忘れられない。「絶対、連絡するから。終わったら連絡するから!待ってて!」そう言い残し、赤点三人衆を引き連れてグラウンドに向かっていく姿を、敬礼で見送った。
三学年全てがテストを終え帰宅する為、駐輪場も校門も混雑する。思う事は皆一緒で、一分一秒でも早く学校を出て自由を楽しみたい、学生の悲しき性分だ。時間をずらして行こうと学生食堂へと向かう。使う事はめったとないが、食堂前の廊下には自販機が数台置かれていて、その廊下には中央分離帯のようにベンチが置かれている。そこにも、テストから解放された生徒達がいくつかの塊になって、ジュース片手に喋っていた。自分も自販機で飲み物を買う。選んだのは、ブラックコーヒー。取り出して座る場所に向かおうとした時だ。「あ、ねぇ。」と声をかけられた。相手の姿を見るとこちらに向かうのは背の高い男子学生で同学年では見た事がない気がする。上級生か。「何かご用でしょうか。」警戒MAXのオーラに上級生は、少し離れた場所で足を止める。「えっと、テスト前にさ。自転車のかごに手紙」お前かぁ!「ああ、間違いの手紙ですね。宛名、差出人が記載されておりませんでしたのでイタズラと思い、破棄いたしました。」相手に全てを喋らす前に、立て板に水のごとく話す嘘八百。いや、ほぼ本当の事、捨ててないだけ。「あ、ああ、そっか。」相手が怯んだすきに、「勝手に捨ててしまい、申し訳ありませんでした。失礼します。」ペコリと頭を下げると、踵を返して駐輪場へ早歩きで向かう。幽霊が後ろをニヤリと笑いながら見て「おい、あいつ、ぽかんとしとるわ。」と話しかけてくる。「知らん、知らん。巻き込まれるのはまっぴらだ。」と、ぶちぶち言いながら玄関へと急ぐ。
自転車に乗り、校門を出た所で朋ちゃんからLINEが届く。『ごめん、遊びに行けない。休んでた分、みっちりしごくって。』涙が滝のように流れるハムスターがスタンプされてきた。うーん、仕方ないかぁ。残念、と、鳥獣戯画の蛙がひっくり返ったスタンプを返す。
バイトまで時間が空いた。帰っても、勉強はさすがに休みたい。秋晴れの今日、せっかくなら外に出たい。
アパートに向かって漕いでいたが気が変わって途中、「ぷいぷい」に寄った。昨晩(今日の未明頃)まで営業していた名残でいつもより煙草と酒と人の臭いが鼻につく。内鍵をかけて二階へ上がり、いつもより気合いを入れた格好にした。服も、じんさんとたくやさんが、それぞれの歴代元彼にプレゼントした挙げ句、着ずに放置していった質の良い服だ。永らく「ぷいぷい」の二階に放置されていた。捨てるよりいいから使ってちょうだい。と、言われていたが、なかなかに高価なブランドで高校一年のクソガキが着るなんてと遠慮していたが今日はその自制をとっぱらう。そうだ、と思いついて、ごちゃごちゃしたメイク道具の墓場をかき分けると「あった。」前に、見つけてたんだよな。スプレーのヘアカラー材。洗ったら取れる、一過性の物だから学校生活には支障ないかな。ウィッグかぶるし。「中身、腐ってないかな。」スプレー缶を振って、ゴミ箱に入ってたストッキングの台紙に吹き付けてみる。ちゃんと色がつく。匂いも、触った感じも大丈夫そう。一度は着た上着を脱いで下着姿になり、髪に吹きかける。鏡で確認し、セットする。上着を着なおし、アクセサリーを付け準備はバッチリだ。最後、サングラスをかけてブーツを履いて。「ぃ良し!」バイトの時間まで、この姿で出歩いて何が釣れるか。「凄いな。ほんま、化けるよな。まるっきりの別人やもんな。」「声までは変えれないけどね。」「大丈夫や!元々が酒焼けしたみたいな声やん。」塩撒いたろか。




