目まぐるしい話 落とし穴は隠してなんぼ
フェイスカミソリで産毛を剃り、眉周りを整える。これだけで、顔色が良く見える。「はい、もう一度洗って化粧水とクリーム塗って。次の人。」「は、はい。」「谷さん、そのパンツで行くなら脛毛、剃ってきて。」「へぇ?」「早く。他の人も指毛や爪、確認して剃るか切るかして。」「「は、はいぃ。」」四人の毛を剃り終えたら、眉。一人はキレイに整えられているが、後の三人。「谷さん、剃り過ぎ。書き足します。他は長さを整えます。」「自分で出来るのか?」「鏡、見て。」「お、おう。」眉用の櫛とハサミ。100均にも売っている。眉ペンも。「男性は女性に比べ眉が濃いので、書く必要はあまりありません。これは…。」眉ペンで眉毛の輪郭を描く。「こうやって理想の眉の形に縁取りをし、はみ出ている部分をハサミやカミソリ、毛抜きで整えれば…。」「おお、なんかすっきりしてる。」「ほんとだ。」「キリッとしたな。」「谷さんは、細く剃り過ぎです。なので、髪の毛の色に合わせてライトブラウンとダークブラウンを使い陰影を出します。」「おお、なんか男らしくなったな。」「軟派な野郎じゃなくなったぞ。」「誰か悪口言ってない?」
次々!「軽く化粧します。ニキビ後、傷痕、隈、シミを消します。」「え、こんなクリームあんの?」「コンシーラーです。はたくようにのせます。すべらさないで。」「こうか?」「すべらすなっつってんだろが!」「ご、ごめんなさいっ!」「恐ぇっ。」「次にシェーディング、で男性のメイクはほぼ終わりです。」「なんだ。早かったな。」「母ちゃんみたいに時間かかると思ってた。」「何言ってんすか?」「「「「えっ?」」」」
次次々っ!「服はそれで行くんすか?」「えっ。変?」「皆さん、似たり寄ったりなんです。違いをつけましょう。」「でも今から取りに行く時間は、」「谷さん、おじいさんのジャケットやネクタイ、タイピン、お祖母さんのスカーフやブローチ、貸して貰えるか聞いて下さい。」「う、解った!」「えぇ、じいさんばあさんのって古いじゃんよ。」「まぁ、品を見てからです。」お祖母さんは、心よく貸してくれた。もちろん、イミテーションや何度も使った物だが、思い入れのあるものだ。「大切に使わせて頂きます。皆さんも。」「ばあちゃん、ありがと。」「ちゃんと返すからね。」「お借りします。」そうして、今着ている服をブラッシュアップする。「ジャケットは袖が短いですが、あえて腕まくりします。肘より少し下で。」「羽織っているシャツにこのブローチをつけましょう。」「中の服は脱いで、白いYシャツにした方が清潔にみえます。遊び心で洒落たネクタイを。」「ベルト代わりに大きなスカーフを。キャップにタイピンを刺してもおしゃれです。」
次の次の次の次っ!「ヘアスタイル、これ皆さん雑誌みて、まんま注文しましたね。」「流行りだもんな。」「大学のやつら、皆、これだぜ?」「色はちょっと換えてっけど。」「雑誌を真似ても、皆さんはアイドルにも俳優にもなれません。顔が違うからです。」「知っとるわ!」「なんだよ、俺、泣くぞ!」「違います。骨、骨格から違うんですよ。」「あ、姉ちゃんが言ってた。え、男もそうなん?」「もちろん。丸顔、面長、四角、玉子型などがあります。男性は女性よりアレンジがしにくいのはわかりますが、中途半端に弄ってるのが丸わかりなんです。」「ぐぅの音もでん。」「毛、毛先を遊ばせて…。」「それ、すぐに取れますよ。」「…。」スプレー、ワックス、ジェル。ブラシと櫛を使って形を作っていく。靴も、汚れを落とし、ブラシをかけるだけでも清潔さが増す。そうこうして、出来上がった男四人衆を見て、谷さんのお祖母さんは「あれー、孫がやっと一皮剥けたよ。私、曾孫に会えるかしら。」と、喜んでいた。 ははっ。飛躍し過ぎだ。
時間前に店に到着。「パライソ」はカラオケレストランで、店の内装に、食事もおしゃれで美味しいと、若者に人気の店だ。週末で混んでいたが予約の為スムーズに入れた。(この予約、夏休み過ぎしか空いていなかった。)「女の子達は?」「もう近くまで来てるって。」「迎えにいく?」「多分もう着いて…。あ、こっちこっち。」と、一人が廊下の向こうに手を振ると。「こんばんわ~。」「よろしくお願いしま~す。」「初めまして~。」と、間延びした喋り方の姉ちゃん達がやってきた。部屋に入りそれぞれ男女に別れて対面で座る。「先に飲み物頼んじゃお。メニューどうぞ。」「ありがと~。」「私ね~。」うぅ、駄目だ。腹の中でイライラしてくる。ハッキリ喋りやがれって、ヤクザな自分が啖呵切ってる。「俺の出番?」幽霊が頭上から覗き込んできた。「バトンタッチだ。」「え、杉本、何か言った?」隣の谷さんがこちらをみた時には、立ち上がりほくそ笑む杉本 幸が注文のタッチパネルを手にしていた。




