目まぐるしい話 落とし穴を回避するには
「なんか、大変ねえ。」ここあさんが、たっくんの苦手な人参を食べさせようと苦戦しながら話した。「たっくん、この人参さんはゆり子さんの里で作ったんだよ。他のより甘いよぉ。」煮物の人参をぱくっと、口に入れて美味しいっと咀嚼してみせると、たっくんも少し、口に入れる。「どう?」「…ちょっとだいじょーぶ。」「そっか、ちょっとだいじょーぶか!」ここあさんは嬉しそうに笑う。「幸ちゃん、ありがとねー。」「いえいえ。」今日の献立は、ゆり子さんの野菜のごった煮、みっちゃんのスジ煮。焼き鮭。「ゆり子さん、ほんとに野菜、美味しい。」「うふふ、娘が喜ぶわぁ。」「娘さんが作ってらっしゃるんですか?」初耳だったので、つい聞いてしまった。「そうなの。元は私の祖父母が畑をしてたんだけど。放ったらかしにしてたら『勿体ない!』って。今、旦那さんの助けも借りて道の駅とかで売ってんのよ。」「わぉ、やり手じゃない。」「うふふ、売上でトラクター買ったんだって。中古だけど。」嬉しそうだ。
食べ終わって片付けた後、コインランドリーで勉強をする。だいぶ涼しくなってきて、この時間帯ならエアコンは要らない。廻る洗濯機の音の合間にリーリーと、虫の声が遠くに聞こえる。ペンを走らせながら、頭の中でやるべき事をまとめる。陸部三人のテスト勉強。今週末の合コン。勉強は自分の為にもなるから良しとして、合コン(+メンズメイク指導)は全くの押し付けだ。「ぐぅぅ。」「なんや、悩みか?」いつもの幽霊だ。幽霊は、自分が他の人と居る時は近寄らない様に気を使って、こうして一人で居る時や自室に居る時だけ現れている。「合コンなんてした事ねーし。てか、未成年だから酒、飲めねえ。そんでもし、女だってばれたら恐えぇよ。」ノートに書き込む手を止めないまま、話す。「俺もないからなぁ。なんせ、永遠の学生時代やから。」うーん、と腕を組ながら漂う。「そうだ。お前が行け。」「は?なにがや。」「せっかくの合コンだ。男のお前ならボロも出にくい。体を貸してやる。」「いらーん。困るわぁ。そんな「初めての経験だろ?いいじゃんか。女の子と喋って楽しく騒げるんだぞ。」「お前…俺をなんやと…。」「だって、夏の始めに『皆、夏服なって二の腕が眩しっ。うわ、あの子、ブラ透けてへん?!』ってはしゃいでただろ?」「ぬぅぅぅ…。男の性や…。」それを女の自分に聞かすなって話なんだよ。
週末の土曜の夜6時過ぎ、バイト先のコンビニ前。いつもより気合いの入った男装で立っていると「おーい、杉本ー。」と、谷さんが原付でやってきた。「え、マジで杉本だよな?こないだより格好いい…。」最後の言葉は消え入りそうになっていた。「他の皆さんは?」「俺のばあちゃん家が近いからそこに一旦集合してる。歩ける距離だから。」「了解っす。」歩き始めた時、コンビニからオーナー夫人が出てきて、「谷君、幸ちゃんは未成年なんだからね。間違いのないようにね。」と、眼光鋭く釘を差してくれた。「オーナーの奥さん、お前の事気に入ってるよな。」谷さんは原付を横に押しながら歩いている。「谷さんの事も気にかけてくれてるっすよ。皆さんの事、色々気を配ってくれてるっす。」「いや、まぁそうなんだけど。おい、並ぶなよ。俺より、背ぇ高くなってんじゃん!」「シークレットブーツっす。」「知ってるよ!もう。…はぁ、なんか失敗したなぁ。」「大丈夫っすよ。自分、気合い入れて皆さん、格好良くするっすから。」「おう…。頼まぁ。」なんだ、自分から巻き込んでおいて。
谷さんのお祖母さん宅に着き、通された部屋には、谷さんに似たり寄ったりのパッとしない大学生が三人。身長や髪型、髪色は違えど。「うわ…。」「おい、開口一番がそれかよ。」「谷ー、マジでこいつ、連れてくの?」「てか、未成年だろ?大丈夫かよ。」「だーいじょーぶ。おい、杉本。」「っと、杉本 幸っす。」「まぁ、未成年だけど高校は卒業してっから。」なんだ、その設定。初耳だぜ。「え、谷さん、言ってないんすか?自分の事。」「「え?」」「あー、バイトの後輩のフリーターって説明してる。おしゃれに詳しいって。」ははぁ、男装女にダメ出し食らうのが余程嫌なんだろう。その場に正座し、彼らの方を向くと「改めて本日、谷さんに頼まれました、杉本っす。皆さんが合コンを楽しまれる様、協力させて頂きます。」と、一息にいって頭を下げた。「お、おう。」「何か解んないけど、よろしく。」「こちらこそ、よ、よろしく。」三人も訳も解らずといった雰囲気だ。が、時間は迫っている。「さて、まずは皆さん、顔を洗って毛を剃りましょう。」「「「「はぁ?」」」」




