短い夏休み ノスタルジーと酔っぱらい
初めての光景、初めての経験に戸惑い、取り皿と箸を持ったまま固まっていると、正人さんがさっと皿をとって色々と乗せて渡してくれた。味が混ざらないように、料理同士の間を開けてくれている。「はい、どうぞ。きっと口に合うよ。」にこりと笑って正人さんはどんぶりを手に、「いただきまーす。」と、かきこみはじめた。自分もいただきますを言って、えびを摘まんで口に入れる。少しピリッとして、甘辛い薄めの餡にネギと紹興酒の香りが。青菜炒めは、小松菜か、ニンニクとあっさりしたシャンタンが小松菜の苦味を旨味に変えている。「旨い…す。」「でしょーっ?行きつけなのよ。このえびが、ほんとに美味しいのっ!」と、みっちゃんは有頭えびの殻付き唐揚げを頭からバリバリ食べる。こわっ。
店内の他のお客さんも食事を終えて帰りだし、少し落ち着いた頃、奥から店主らしき男の人がきた。「みっちゃん、大丈夫?怪我したって聞いたよ。」50代位のごっつい身体で優しい顔のおっちゃん。
「あーん、心配してくれて。おかわりサービスしてぇ?」「それとこれとは別っ。」とピシャリと断られていた。「ぷいぷい」常連客で作られたLINEグループに連絡が来たらしい。「みっちゃんが怪我すんの、高校以来じゃないか?あの時分は怪我ばっかりしてたからなぁ。あの時も、ナイフ持った隣町の酒屋の息子が「やだっ、止めてよ。現役高校生の前で。恥ずかしいっ!」かかかっと軽快に笑う店主と真っ赤になる珍しいみっちゃんの態度に、正人さんが「何?みっちゃん、昔からやんちゃしてたの?」と、からかう。話が盛り上がっていると「お邪魔しますー。」「やだー、みっちゃん、ほんとに怪我してんじゃーん。」と、「ぷいぷい」のたくやさんとじんさんが少し化粧の残る顔でやってきた。「あんた達、店は?」「早めに閉めちゃったわよ。」「客があんたの心配ばかりで、会話にならないんだもの。」「おう、みっちゃん。」「大丈夫だった?」と、二人の後ろにぞろぞろと「ぷいぷい」の客がついてきていた。「おう、こりゃ忙しい。」と、店主は慌て厨房に引っ込む。あっと言うまに“みっちゃん慰労会”という宴会になってしまった。たくやさんは店主にことわって、店で作った“お通し”の、おくらと豚バラ炒めをタッパーごとテーブルに置いた。「やだぁ、ビールが進むぅ♡」「ちょっと、怪我してんでしょっ?!」「これ以上はダメー。没収ー。」「ぎゃー、命の水が!!」わいわい騒いで飲んで食って笑ってと怒涛の勢いのまれていると、「そろそろ帰ろっか。」と、正人さんが声をかけてくれる。時計を見ると夜10時30分を回っている。「みっちゃん、僕ら帰るからね。」「ちょっと、私がいないからって手、出しちゃダメよ!未成年なんだからね!!」「しっ…しないよっ!バカっ!」真っ赤になった正人さんにじんさんが、やだ、初で可愛い、食べちゃいたい♡と、ハートを送り出していたのは本人の預かり知らぬ話しだ。
店を出ると、さっきまで開いていた店もいくつか閉まり通りが静かになっている。「ちょっと、暑さがマシかなぁ。」歩きながら、当たり障りのない会話をする。「初めてあんな賑やかな食事しました。」「みっちゃんは賑やかなのが好きなんだ。慣れたら楽しいよ。」「えび、美味しかったっす。」「あはは、じゃあ今度はゆり子さんやたっくん、ここあさんも一緒に来ようね。」進んでいくと、道から少し離れた場所に鳥居が立っていて、正人さんがこの階段の先に地元じゃ有名な神社があると教えてくれた。「今度、ここで夏祭りがあるよ。知ってる?」「初耳っす。友達誘ってみます。」「いっぱい、夏の思い出、作ってね。今だけだよ。」「正人さんは、学生時代のご友人と会わないんすか?」「んー、やっぱり皆、恋人や家族優先になっちゃうからなぁ。」「皆さん、おモテになると。」「あはは、いいやつらばっかりだからね。いい男にはいい女が、自然とつくんだろうね。」正人さんは夏の高い夜空を見上げながら、なんとも優しい顔をする。「正人さんもいい人っすよ?自分、助けられてます。」「ほんと?やだなぁ照れちゃうよ。」ハハハと笑いながら歩く正人さんは、なんだか、色褪せた写真の中にいるみたいで、淋しかった。




