短い夏休み 幽霊の正体みたり枯れ尾花
部屋に正人さんを連れて戻る。一応、ノックをした。「入ります。」「え、自分の部屋だよ?」正人さんが不思議そうに聞いてきたが。ドアを開けると、シャワーを浴びてクーラーで涼んでいるみっちゃんが。パン一のみっちゃんが逞しい背中を向けて立っていた。「あら、おかえり~。」もちろん、パンツはサテンにピンクレースがヒラヒラ。「うげっ。ちょっと、みっちゃん。いくらなんでもそりゃないよ。」「うげってなによ。うげって。」二人は放っといて、買った物を冷蔵庫へ。その後、先ほど冷やした濡れタオルを出すと程よく凍って気持ちいい。そのタオルを正人さん、みっちゃんに投げ渡す。みっちゃんはタオルが素肌に触れて、「いやんっ冷たいっ!」とくねくねしていたが、気持ち悪い事この上ない。「あの女の生き霊みたら、幻滅するやろなぁ。」と、幽霊がぼそっと呟く。まだ、幻滅してないのか?
先日、「ぷいぷい」で女子高生を取り押さえた時に彼女に憑いていたのは複数の女の生き霊なのだそう。あの時、三人がオネエである事に女子高生共々ショックを受けてたらしいけど。「三人にそれぞれ憑いてんねん。生き霊やから人間性にも富んで、ざっくばらんやで。」肩をすくめながら言うその感じから、危険性はないのだろう。人が生きていれば恨みもするし、妬みもする。けれどそれら全てが生き霊になり、人に取り憑いて悪さをするかといったら違う。時に、守り助ける事もあるのだと幽霊はいった。「虫の知らせってやつとか、空耳で聞こえた言葉で間一髪助かったとかテレビで観た事ないか?その全てではないけどたまにある事や。こないだの一件は膨れ上がった女の生き霊達にあの男の怨念が重なって、それらと同じベクトルを持った人間の、精神が未熟な女子高生が簡単に取り憑かれて、(都合の)ええように使われたんやろな。」傍らで浮く幽霊の説明を聴きながら、自分は目の前で繰り広げられている、ピンクパンツのムキムキオネエとリクルート姿の爽やか青年のプロレスを虚無の目で眺めていた。「背中、拭いてあげるわよぅ♡」「やめてっ!自分で拭くからっ!なんか当たってるっ?!」
人の部屋でなにしやがってんだ。
簡単に経緯を説明し傷の確認をした後、正人さんは着替えに戻り、その後
三人で外食する流れになった。みっちゃん、食後は「ぷいぷい」に寄ってドアが直るまで、そこに泊まると言う。「仕方ないわ。たとえ、心は乙女でも生まれた身体はヘラクレスだもの。」…なんちゅー言い回し…。
タンクトップにジーンズ、旅行カバンとキャリーバッグを引き包帯を巻いた姿は、さながら格闘技で一戦交えた後の凱旋。道行く若いカップルがビビって道の端に逃げている。正人さんと一緒に、みっちゃんから少し離れて歩いた。関係者ではありませんってな顔で。夜も更け、商店街の飲食店も開いているのは飲み屋ばかり。「ここにしましょ。」と、みっちゃんは自分達の了承も得ずに店の中へ。「…創作中華?」店舗前に置かれた看板には、名前が解らない料理の写真が。「前に同僚と来たことあるよ。美味しかったと思う。」正人さんが言うなら大丈夫だろう。高校生が一人で食べに来るには敷居が高い店構えだ。
「うわ、うまそうやなぁ。」おい、幽霊もついてきてたのか。「だって、外食するん楽しいやん。こないだお友達と遊びに行った時は、一応遠慮したんやで?」こいつ、下手したら四六時中つきまとうのか。「はよ、店内入って注文しょーや。」お前、食えねぇだろ。
奥の座敷に陣取ったみっちゃんに手招きされ、席に着く。カウンターと二ヶ所のテーブル席も埋まっている。夏休みとは言え、平日のこの時間にこの入りなら人気店なんだろう。「ここは、えびが美味しいのっ。」みっちゃんは早速店員を呼び、次々に注文していく。「僕、米が食べたいんだけど。」「なら、これねっ!」正人さんにメニューも見せずに決めた。店員が厨房に戻る。えぇっ。自分、何も頼んでないぞ。「大丈夫、みんなで食べるのよ。あたしの奢り♪」先に運ばれてきたのはみっちゃんのビール。
グビっと一気にジョッキを飲み干す。「っかぁーっ!!生き返るーっ!」げふぅと、大きなゲップを一つ。「もー。みっちゃん下品だよ。」正人さんが眉を寄せて注意しながら、次々運ばれる料理をテーブルの奥へと並べる。所狭しと並んだ料理。有頭えびの殻ごと揚げ、むきエビの中華炒め、キクラゲと卵に松の実が入った炒りつけ。他にどんぶりのような料理や、餃子の親戚みたいなやつ。「好きなの取って。足らなかったら頼んでね。」空のジョッキを店員に渡しながら“もう一杯”とハンドサインを送る。
…大人の世界ってすげぇ…。




