たたかう話 不思議な日って在るもので…
いつも通り早朝バイトをこなし、朝食の支度。今日は、自分の洗濯物をコインランドリーで洗う。その間に、店内の掃除、店番しながらの宿題。終わった洗濯物を持って自室へ。片付けながら、英語のリスニング。少し早めにアパートを出て、「ぷいぷい」に着く前に今日の住人用の献立を考えながら買い物をし、買い物袋を提げたまま「ぷいぷい」へ。買った物は店の冷蔵庫に保管し、二階に上がらぬまま掃除等の開店準備をこなす。と、ドアの向こうに人の気配がする。鍵は閉まっている。向こうにいる人物から、店内に人がいるのが解りやすい。室外機が動き、水音、掃除機、換気扇から漏れる匂い。緊張で喉が渇く。幽霊がふらりと現れて「大丈夫や。」と、言った。ややあって、外が騒がしくなる。直ぐにドアを開けると、地面に女の子が転がされていた。うつ伏せの彼女の上には、たくましい美男子が二人、腕と足を押さえつけていた。「離して!痛いっ!何でっ?!」ギャーギャー喚く彼女に向かって、「あんた、何の恨みがあるわけ?!」「あたし達の店にちょっかいかけるなんて、命知らずね。」と、オネエ様方が話すと、「え?…おか…ま…?」
とたんに静かになった。
みっちゃんと派出所のお巡りさん(若い方)が駆けつけ、取り押さえた女の子に話を聞く事になった。ホントは、派出所で聞く方がいいんだけど、まだ学生の身分を配慮し、逃げないなら店内で話しを聞く。と、提案すると素直にうなずいた。
「知らなかったんです。…おかまだなんて…。」彼女は、同じ市内の商業高校に通う高校二年の先輩だった。一年前、高校に通い出してから、今まで通らなかった道を歩く様になって、見つけてしまったのだ。王子様を。いや、王子様達と言った方がいい。背が高くスタイルも良いし顔も良い。彼女は、この幸先の良い出会いに浮かれ夢を抱いた。いつか、お知り合いになりたいと。しかし、一向に得体が知れない。道で見かけても、タイミング悪く後をつけなかったり、どこかのカットモデルかと調べても出てこない。カフェ店員かもと、カフェ巡りをしても出会わない。そんなこんなで一年が過ぎ、この春、やっとこの路地に消えていくのを突き止めた。そうして、隠れて出待ちしていた時だった。近くの高校の制服を着た女子校生が入っていく。意味なく怒りが沸いた。自分がやっと見つけた宝が、実は既に手垢のついた物だった。というような、言い様のない腹立たしさ。家に帰っても、日にちが経っても、この怒りは覚めやらず。夏休みのある日、気分転換に出掛けたつもりがこの場所に足が向いており、中から人の気配がする。そこから、記憶が途切れ途切れに。気付くと両足を擦りむいて、手のひらにも傷が。それからは、極力この場所に近寄らない様にしていたのだという。
「美しいって罪ね…。」「やだ、誰か医者呼んできて。」「医者も匙投げるわよ。末期だもん。」「あんた達、いい根性じゃない。」バカ話をする三人は無視し、みっちゃんの後輩のお巡りさん(以下後輩さん。)が、彼女に話す。「君は相手を怖がらせたい。傷つけたいと思ってなかったとしても、実際、身の危険を感じた人がいるんだからね。憧れの人であっても、後をつけたり、周辺を調べまわったらストーカーだよ。」彼女は口を引き締めてポロポロ泣いた。
相談があった上での事なので厳重注意。一応、親には説明せねばならんと、後輩さんは彼女を家へと送り届ける運びとなった。「あー、良かった。変な手合いじゃなくて。」たくやさんは、野菜を切りながら安堵の表情だ。じんさんは冷蔵庫に瓶ビールをいれながら「仕事柄、酔っぱらいの相手はできるけど、女子高生はちょっとね。」と、肩をすくめる。おや、自分、現役女子高生っすよ?「幸君、一緒に帰りましよ。晩御飯作らなきゃ。」
買い物袋を提げたみっちゃんの隣を自転車を押して歩く。「とりあえず一件落着ね。」と、明るい声。「はぁ…。」「何よ。なんか問題?」見下ろすみっちゃんの目を見て、「店内に入っていった女子高生が誰か気にならなかったんすかね?」「そういやそうね。」「彼女、自分がその女子高生だと気づいてなかったっす。」そう、今日は、アパートを出る時から“幸”だった。いつどこで出会うか解らないから。じんさんと、たくやさんはスーパーを出て「ぷいぷい」に入るまで、離れて警護していたのだ。そして、店内から外に人の気配を感じた時に、たくやさんにワンコールいれたのが合図。無事、捕獲となったのだが。「あの細い腕で、ドアを叩いたら内出血するっすよ。痛めます。」隣のママに聞こえた位だ。力が強くないと。それに、「いくらなんでも、あの小柄さなら、自分、必死に逃げなくても勝てます。」ナイフやカッターを、持っていない。と、仮定すると自分は力で勝つだろう。なにせ、バイトで培った筋肉が四肢についているからこそ“男装”が様になっているから。
それに比べて、だいぶ華奢な彼女をなぜ“男性”だと思ったのか。
「今日は、何の用事があって来たんすかね。」来ないように気をつけていたと、言っていたのに。




