↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流離う世界に私は  作者: 眠井ネタイ
第二章『スティグマ』篇
PR
16/46

13.亡影を映す異邦人


私達はジェスに導かれるままに山を降り、住宅街らしき場所に出た。

広めの道に出ると住人らしき人達がいたが、全部がよく見る人間というわけでは無かった。

だがジェスに「異世界」と言われていた時点でこのくらいのことは予想していたので素直に現実を受け入れられた。

具体的には、ラグナちゃん同様に翼が生えた者やケモ耳や尻尾がある者など他の数々を挙げたらキリがないくらい多様性があった。


「じゃあ俺は先に王都に行って二人の部屋を取ってくるから、ラグナと一緒に観光でも楽しんでてくれ。まだ都市の範囲を拡大中ってとこだから色々と発展途上だから、あっちみたいな豪華な催し物なんて無いからあまり期待しすぎるなよ。

じゃあラグナ、任せた」

「はぁい」


ラグナちゃんが挙手で応えていた。

ジェスはそれだけ言い残して下り坂を駆け足で降りていっていた。

今いるここも道ではあるが、都市を見渡せるくらいには高い場所だった。そしてジェスが向かっていった下方に行く程に建造物が豪華になっている気がする。低い方がジェスの言う王都という場所なのだろう。

ジェスが抜けたことで今は四人になっ──あれ?


「アルネーブさんは?」

「さっき何処かに飛んで行ってたよぉ。神出鬼没な気分屋さんだからいつもこうなのぉ」

「いやそれよりもお母さんを担いだまま何処に行ったんですか?」


それは奏波が当然に気にするところだ。

さっきまであの人は肩に奏波のお母さんを担いでいたのに一緒に消えているのだ。


「最低限の事は絶対にこなす人だから安心してぇ。多分、王都の病院にでも運んだんじゃないかなぁ?とんでもない交渉上手だから即空きを作って任せると思うよぉ。その後は分からないけどねぇ」

「なら良いんですが……」

「心配しなくても、ちゃんとそこにも案内するよぉ。それじゃあ、ジェス様が戻ってくるまで観光巡りに案内するよぉ」


おー!、と案内係が一番張り切っているという謎があるが何も言わずに奏波と目を合わせてついていった。

まず一つ、街並みを観察しながら気づいた事なのだが──


「あぁ!ラグナさんだ!ねぇねぇ、この林檎飴美味しいから今度食べてみてよ!」

「いいねぇ今度食べに行くよぉ」

「ラグナちゃん。この前は面倒なことを手伝ってくれてありがとねぇ。これはその御礼だから受け取っておくれ」

「おぉ、ありがとうねぇ。いただいておくよぉ」

「ラグナ師団長!今度入って来た新人が生意気なので殺っちゃっていいっすかね!」

「そういうやめなよぉ。血の気が多いのは良いけどやり過ぎ注意ねぇ」


ラグナちゃん、人気者過ぎない?


「なんか、ここまでくるとアイドルですね」

「うん。ていうか師団長って何?」

「お姉さん達知らないのー?」


目の前の光景に呆然としていると近くにいた小さい人が満天の笑顔で話しかけてきた。

肌が緑色だからゴブリンというやつだろうか。背丈だけでは判断できないと思ったがそれらならば見た目通り子供だと判断していいだろう。


「ラグナちゃんはね、この国で凄く強い人何だよ!首位師団長って言うんだよ!それと、この国が出来る前からジェス様と知り合いの最古参の人何だとか!」


そういえばジェスが言っていた。

ラグナみたいな単独で世界を相手に出来るような奴を渡せないとか。

そこまで全幅の評価を受けているなら『首位』というのも納得かもしれない。


「みんなゴメンねぇ。お客様を待たせてるからもう行かなきゃなんだぁ。またねぇ」


ラグナちゃんが周囲の人による賛辞の嵐を通り越してこちらに戻って来て、観光巡りが再スタートした。

歩きながらさっきまでのラグナちゃんが慕われていたことの話題をした。


「凄い人気ものなんだねラグナちゃん」

「いやぁ、皆んなのお手伝いをするのも楽しいからやってるだけなんだけどねぇ。昔はそういうことはさせてもらえなかったからぁ、ホントに嬉しい限りだよぉ。はむ」


そう言いながらさっきいただいていた食べ物を口に入れていた。

おそらく、普通通りのことがしづらい環境があったのだろう。



「昔ってどのくらい前なの?」

「えーっとねぇ。どのくらい前からかは覚えてないけどぉ、つい二年前くらいにジェス様に会うまではそんな感じだったよぉ」

「二年前?でもあの子さっき、貴女を最古参の人って言ってましたよ」

「あ、そういえばそんなこと言ってた」


二年前で国の最古参というのは流石に──無いと思うがまさか。

一つの可能性が頭の中で導き出されたと同時にラグナちゃんが答えを発表した。


「それはそうだよぉ。だってこの国が出来たのも一年と少し前くらいなんだよぉ」


やはりそうだった。

更に振り返ってみればジェスが発展途上と言っていたのを思い出した。

私の勝手な想像かもしれないが国ってそうホイホイと作れるものでは無いはずだ。でもここは異世界なわけだからもしかしたら百歩譲ってそういう事もあるのかもしれない。


「まぁ当初は大変だったけどねぇ。南北の境界線の戦場に手当たり次第に突っかかって勧誘ってのを繰り返してここまで拡大していったからなぁ。それから私達に助けられて恩を返したいとか、守って欲しいとかでいっぱい人が集まってくるものだからまとめていくのが大変だったよぉ。あーむ」


今度は少し大きなサイズのパンを大口で放り込んで頬張っていた。ハムスターみたいで可愛い。


「んむっ。どこか行きたいところある?多分だけどあーしはジェス様よりもこの国のお店とかを知り尽くしてると思うから案内は任せてぇ」

「そう言われても、何から手をつけていいかも分からな」ぐうぅぅぅ


なんか前にもこんな事あったなぁ。


「あはは。先ずはご飯だねぇ」

「移動中何も食べてなかったとはいえ、結構豪快に鳴らしましたね」

「うるさいなぁもう!」

「あ、でも今のあーしって財布持って無いから一文無しだなぁ。どうひよぉ。あむあむ」


財布は無くとも食べ物はラグナちゃんの腕の中にまだあるのだが、それはあくまでも自分だけで食べ切るつもりらしい。


「あっちの世界のお金は使えないし、我慢するよ。またお腹鳴るかもだけど」

「……本当に今更なんですが、日本語で会話が成立するんですね。翻訳魔法とかあるんでしょうか」


本当に何で気に留めなかったんだろうかというくらい至極真っ当なことだった。

『いつも通り』過ぎて違和感が感じられなかったが、そもそもここは異世界なのである。対話が成立するほうがおかしいと考えるべきだろう。


「そんなの無いよぉ。この言語が基本的には共通語で、たまたまそっちの世界と同じ言語だったんだよ。あーしもびっくりしたけどねぇ」

「そんな都合の言いことありますかね?」

「無い。のが普通だと思うんだけど」

「きっと運がいいんだよぉ」


運が良い。それだけでは拭いきれない違和感があった。

『合わせられている』気がする。それも考えられないほど大きなスケールの何かに。


「んーとねぇ。そうだぁ、あの人なら奢ってくれるかも」


そう言うと私達を置いて少し遠くにあった売店の方に走って行った。

私達も置いていかれるのは良くないだろうと思い走るが、ラグナちゃんが速過ぎたせいで追いつける気がしない。

奏波が付いていけない私を見兼ねたのかペースを落として隣に並んだ。


「ラグナさんが速いのもありますけど、それにしても乃亜は走るのが遅いですね」

「うぐ」

「速い方の幼稚園児といい勝負しそうですよ」

「ぐは」


倒れ伏した。完膚なきまでに。

分かっていたがここまで言われたのは流石に初めてのことだった。

日本人はなんとなくそういうストレートな悪口は気を使って適当な言葉ではぐらかしてくれるイメージがあったがそうでは無いらしい。

枠に収まらないのは奏波だけというのもあるかもしれないけど。


「ほら、はやく行きますよ。なんなら抱っこでもしてあげましょうか?ま(・)た(・)」

「はうぅ」


「また」を分かりやすく強調された。

人の黒歴史になるものをこんなにも高頻度で掘り返すのはやめてもらいたい。


「フッ冗談ですよ。ラグナさんも何やら話し込んでるみたいですし、歩いて行きましょう」


どうやら私はジェスだけでなく奏波からも弄られる宿命にあるらしい。世知辛い。

それから歩いてラグナちゃんに追いついた。

状況を見ると、灰色の髪と瞳の大柄な男性と何やら話し込んでいた。


「ヤダヤダ!自分は今月結構キツイんだぞ!そこから更に搾り取ろうと言うのかこの鬼畜め!」

「だからぁ、ここだけ奢ってくださいよぉ。何ならアポクリフさんが色々と働かせている悪知恵も一つ協力しますからぁ」

「むむ。しかしだな……」


話を聞く限り、顔は見えないが後ろ姿だけでも大柄だと分かる灰色の髪をした人がアポクリフと言う人らし──


ズキっ


痛みとともに『何か』の感情が歪んだ気がした。


「………は?」

「乃亜。初対面の人に向かって躓いてこけてしまうことがありますか」

「今のって転んだのかなぁ。てっきり乃亜ちゃんが自分から転んだフリをしたように見えたけどぉ」


どうやら一瞬呆けている間に、こけてアポクリフという人に寄りかかってしまっていたらしい。この人にも「は?」と言われたので突然で驚かれてしまったことだろう。

慌てて自分で立ち上がって謝らねばと焦ってしまう。


「あ、あの、すみませんでした!」

「……どこにも、怪我は無いのか?」

「はい。悪いけどぶつかってしまったお陰で」

「それでアポクリフさーん。さっきの話を聞いて下さいよぉ」

「あ、ああ。構わないぞ。好きにしてくれ」

「やったぁ。交渉成立ぅ。これで乃亜ちゃんと奏波ちゃんも食べ放題だよぉ」


「も」ということはあれだけ差し入れを食べておいてまだ食べるつもりなのだろうか。


「あーしのオススメはこれだよぉ。柔らかくて甘いで美味しいんだぁ」


ラグナちゃんが指を刺してオススメをした食べ物には見覚えがあった。


「これ、フレンチトーストじゃないですか。こっちにもあるんですね」

「ジェス様が広めたんだよぉ。甘いのを作るのが好きらしいからぁ、皆んなにも作ってもらってアイデアを貰いたいんだってぇ」


……料理できるんだ。


「自分もこれは好きだぞ。特にジェスが作るものは天下一品だからな!」

「ハハ。流石に元祖には敵いませんよ」


このアポクリフという人と同じで屋台の店主もジェスの腕を尊敬しているようだ。

……そうか、しかも上手いんだ。

女子力でもコテンパンに負かされている気がする。

いや、別に勝負はしてなんだけどね。


「ジェスが色々と厳選しているのを見たことがあるが、何やら『砂糖』とかいう粉末を作っていたらしくてな。ジェスが知るものを完全に再現出来なかったらしいが、それでもこれが完成形だと思うほど甘いがな」

「最近の料理はジェス様が大体布教してるんだよぉ。特に調味料って言うやつは元々あったものじゃ満足出来ないとかで、改良品を徹夜で作っていたみたいでねぇ。疲労困憊にされてた時期で気合いで頑張ってたねぇ」


何が原因で疲労困憊になっていたかは想像も出来ないが、その中でも調味料だけでは気合いで作ったのだろう。


「それ。出来たぞお嬢さん達。それで、お駄賃はアポクリフ殿に貰えば良いのかな?」

「うむ。自分が出そう」


そう言って財布を取り出してお金を渡していた。

見たところ銅貨だった。やはり通貨は流石にこちらには持ち込めないらしい。

それはそうとして、


「いただきまーす」


一口目で分かるが味があちらの世界のものよりも濃かった。軽過ぎず重過ぎずの甘さで、噛まずとも舌に乗せるだけで溶けていった。


「これ本当に美味しー!」

「砂糖に関してはあちらで出回ってるものよりも数段質が良さそうですね。これを自作でというのなら本当に凄いです」

「そうなんだぁ。この居場所も然り、ジェス様がもたらすものって本当に有り難いんだねぇ」

「そこに関しては自分も同意だな。言い換えてしまえば破天荒だが、教えてくれるものは新鮮で面白い。この前も『漫画』という物を持ち込んできてくれたが本当に面白いしな!」


本当に何やってんの?

ていうかいつの話だろうか。

しかしそんな事は忘れて目の前のフレンチトーストに齧り付く。美味しい。

ふとラグナちゃんが食べる手を一旦止めて、何かを思い付いたように話を切り出した。


「それでアルネーブさーん。手伝える悪巧みなら約束通り協力するよぉ」

「ん?ああ、そういえばそう言う話だったな。それではちょっとジェスの執務室にあるであろう給与明細を書き換えてはくれぬか?出来れば桁を二つくらい。嗚呼、昔から身を粉にして働いているというのにジェスといつ鬼畜上司は」

「誰が鬼畜だって?」

「うげっ!?痛だただ!?」


私もいきなりで滅茶苦茶ビックリしたが、奏波が肩を揺らし続けてくれたことで正気を保てた。

ジェスは今もアポクリフさんの肩を離すまいと強く掴んでいる。服に皺が入る程に。

いや、何か鈍い音も同時に鳴っている気がする。もしかしたら骨にダメージが入っているのかもしれない。


「そもそものお前の給料を安くしてんのは、警備の総監にも関わらず実務をサボりまくってるからだろうが。それに何だ?この国が安定期に乗るのすら程遠い現状で金をむしり取ろうってか?うん?」

「い、いや気のせいだ気のせい。そんなことこれっぽっちも思ってな──」

「給与明細を弄ることはあーしも無理だと思うから他のにしてねぇ。アルネーブ様に怒られるのだけは勘弁だよぉ」

「おいーーー!!!」


ラグナちゃんの可愛いらしい天然さが仇となって証言された。だが給料が安い理由を聞いてみれば妥当な仕打ちかもしれない。


「さぁ、本部に出頭してもらおうか。警備総監殿。聞くところによると数週間は籠らないといけないくらいの書類の山が積み上がってるらしいからな。なぁに、やる事やってもらえればお前の立場上こちらも嫌でも給料を上げざるを得ないからな。安心して地獄見てこい」

「ヤダー面倒だ!あんな紙束で埋もれた部屋なんかに閉じ込められてたまるかー!」

「全部お前の負債の結果だ!今回は見張りをつけてやるからな!終わらないとおやつは無しだ!」


ガーン、と自分で効果音を付けて青ざめていた。

絵面が完全に宿題に一切手を付けていない子供を叱るお母さんだ。

周りを見るといつの間にか警備らしい厚手の服装をした人とジェスが協力して漁で使いそうな程に太い縄で人の入った簀巻きを作っていた。


「おら暴れんな!サッサと連れて行かれろ!」

「グワー!離せー!!あんな処はもう一生ごめんだーー!!」


かくして警備総監たる者が警備員に連行される珍事件を目撃した。

そして声が聞こえなくなるくらい遠くに運ばれたことでジェスがため息を溢していた。


「ったく。ちゃんと能力有るから余計に面倒くさいんだよな。並の奴じゃ追いかけても絶対に捕まえられないから、引っ張り出すのに手練れを用意しないといけないけどそっちはそっちで仕事があるから結局俺の仕事みたいになってるんだよな」

「それにしても戻って来るのが随分と早かったですねぇ。どの部屋を取ったんですかぁ?」

「宮殿が無駄に大きいせいで余りまくってるからな。物置きにするにしても部屋が多すぎるくらいだし、二部屋くらいは直ぐに空く」

「ちょっっと待った。もしかしなくても宮殿に住めって言ってる?」

「そりゃあここは要塞国家だぞ。なるべく中央の方が安全に決まってる」


そういう問題ではない。

どう考えても異世界からのぽっと出の私達が寝泊まりして良い場所じゃない。

何でこんな奴がこんなところに、とか陰から叩かれるのがオチだ。

ここは爽やかに笑って丁重にお断りさせてもらう。


「別の意味で怖いから、他の所の方がいいな」

「逆に言わせて貰えば、まだ住宅街の広さ的にこの国の全員が部屋で寝ることは難しいんだ。当然ホテルなんて満員なんだから野宿したくないんだったら大人しく住んどけ」

「逃げ場ないじゃん」

「それでもVIP待遇と思って有り難く受け止めましょうよ。楽ならそれで良いじゃないですか」

「そうそう。奏波みたいに重く受け取る必要無いんだから。日本とは少し変わった部屋と思うけどちゃんとしてるからラッキーと思って喜べよ」


正直かなり不安が募るがこの流れでは致し方なく承諾するしかなかった。


「それに、そこまで大きい宮殿でもないんだから。あ(・)れ(・)がある以上高く積めないしな」


あれというのは中央の王都の上空で滞空して佇んでいる何かだ。

この国に足を踏み入れてからずっと落ちないのかと気にはしていた。


「流石にあれは気になるだろうから教えておくよ。お前達が元から居た世界とここを合わせて全部で七つの世界があることは言ったよな?」

「私聞いてない」

「失神してましたからね」


成程、ジェスのせいで恐怖体験と恥辱体験を同時に味合わされたあの時にか。

道理で聞き覚えが無いわけだ。


「その七つの世界の全てを含めて、原初の界核(アークコア)と呼ばれるものが五つ存在しているらしい。とはいえ、俺もこれ以外のものは見たことはないけど」


原初の界核(アークコア)。また知らない単語が出てきた。


「今あそこに浮かんでるバカでかい石みたいなのが封天核(シフラス)と呼ばれるものでな。世界間の干渉を一切遮断している界断結界(セヴァランス)の恒久的な維持をになっている。という副次的効果があるらしい」

「副次的?本命じゃなくて?」

「本来の役割は、七つの世界と界断結界(セヴァランス)が織りなしている認識出来ない程に巨大な封印術式で、七つの世界とは別にありその中心にある特異な空間に封印を施すことが役目らしい」

「そんなに危なげな空間なんて、厳密には何処にあるんですか?今の説明だと、門を使っても辿り着くことが出来ない謎の場所になりますが」

「さぁな。俺も知らない。ただ、一番大事なことはアルに教えてもらったな。

万一にも、封天核(シフラス)が破壊されるようなことがあれば、全ての世界が滅ぶらしい」


だがそんなに重要なものを晒し物にしていていいのだろうか。という疑問が出てくる。


「そこまで重要な物を預かってるという事実が、この国が認められている何よりの証になってるんだ。破壊しようなんて馬鹿な奴がいたりもするが、流石にそこまで柔にできちゃいない。それに、封天核(シフラス)の守備は全面的にラグナに任せてある。並大抵のことじゃびくともしないから安心しろ。まぁ未遂でもこれに手を出そうとしたら即死刑にする誓約が世界全体で決まってるから、自殺願望者でもない限り手は出さない」


これではラグナちゃんの責任がとんでもなく重いのではないだろうか。もはや世界を守ることと同義だ。


「少し話が戻ってしまいますけど、世界が滅ぶって言ってましたが何が原因で?」

「世界を隔絶している界断結界(セヴァランス)の間に瘴気のような魔力だけで満ちている特殊な層があるみたいなんだが、これを浴びると精神が維持出来なくなり、肉体もそれに合わせて魔力に溶け込んでしまうらしい。それを浄化して純正な魔力にするのも封天核(シフラス)の役割に入るらしい。無くなると全員が当然その瘴気とも言い換えられるそれを浴びる。俺も体験した覚えは無いけど、アルは過去に実験したことがあるらしくてな。どんなに強力な魔法をそこに打ち込んでも取り込まれたらしい」


話自体は理解出来るのだが、認識した事すらないものを口で説明されても呑み込みがしづらい。

それに、どうしてもこれまでのジェスの発言に矛盾が生まれる。


「でも、界断結界(セヴァランス)に瘴気のような魔力の層。私は──この二つを掻い潜って世界を渡ったことになるんだよね?それもやっぱりこの変な権能(フォルトゥーナ)の影響なの?」


今までのジェスの説明では、この二つは『絶対的』とも言える程の効力を持つはずだ。

だがジェスは私が別の世界で産まれたと断言していた。


「それが分からないから連れて来たんだ。謎の力であれ、少なくとも俺が知る中で界断結界(セヴァランス)を正(・)攻(・)法(・)で突破出来たのは乃亜ただ一人だ。だから現状で唯一、長年の膠着を動かすことができる存在になってる」

「••••••なんか私に掛かっている期待ってものすごく大きいんだね。正直、完(まっと)うする以前に受け取ることすら出来ないかも」

「悪いけど、それでも頑張ってもらうよ。数多の内の一人の命くらいなら、躊躇なく使い潰す。世界ってのはそういうもんだ。だからせめてお前が真っ当な生活が出来るように匿いたいと俺は考えてるんだが、これでも宮殿在住に負い目を感じるか?」

「──そ、そこはもう気にしないことにしたんだってば!」


宮殿云々をカットすれば他の意味で危なくなりそうだったから助かった。


「この話尺が長いよぉ。あーしは早く食べ歩きしたいのにぃー」

「あれだけ食べておいてまだ食べるんですか?もう二食分は胃に入れてますよ」

「余裕余裕ぅー。ジェス様奢ってくれるってよぉ」

「言ってないけど、元より乃亜と奏波には常識的な範囲なら金どうこうの心配をさせるつもりは無かったし、ラグナなあってのノスタジルくらいある訳だしな。好きにしていいぞ」

「わぁーい!ラグナちゃん次何食べる?」

「王都にお貴族様専用のお店があるからそこで食べよう!お肉が美味しいの!」

「コイツら旅行しても観光地より飯を選びそうだな」

「すみませんけど食事以外にしてくれません?さっきのフレンチトーストでお腹膨れてるので。せっかく異世界に来たんだから世界観を楽しみたいのですが」


確かにそういう意見もあるが今はお腹が空いてるから後回しだ。それに陽を見るところ時間はまだ正午に差し掛かるくらいだろう。

時間はたっぷりある。


「奏波!別腹ってやつだよ。いけるいける」

「少食は体に良くないよぉ」

「私が普通なんですよ。絶対に貴女達二人が大食いなだけです」



初日にして想像以上に異世界に染まった気がした。

(編集日2026.4.17)今後の設定に矛盾する台詞があったため直しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。