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娘の政略結婚

 まなじりをキリリと上げ、娘は私の顔を見た。その顔は今まで見慣れてきた彼女の愛らしい表情とは違っていた。運命を受け入れ、その先に待つであろう荒波の中にも負けぬという、固い意志を持った女のものだった。


「私も一国の王女と生まれたからには、物心が着いた時より覚悟だけはしておりました。いよいよ、その時が来たという事ですわ。お父様……いえ、国王陛下。ご安心くださいませ、このコンスタンシアがサンブリア国王の元に嫁ぎます」


 言い切ったわ、我が娘。

 亡くなった王妃に似て、おとなしそうな顔をしているが、その実めっちゃ気が強い。風にも耐えられぬような楚々とした姿は仮初で、幼い頃から王宮の庭を走り回り、病気ひとつしたことも無い元気者。さらに私が一言言えば、三言は返ってくるという口達者ぶり。

 親の欲目を割り引いても見目麗しく、頭の回転も私より数倍良いものだから、この戦争が終わったら出来の悪い現国王(わたし)はさっさと娘に王位を譲って隠居するつもりだった。


 そう、勝利していれば。


「でも、負けてしまいましたものね。所詮、最初から無理があったのですわ。相手は『残酷王』と異名を取った、我が国の5倍は領土を持ったサンブリア国の王なのですもの。動員できる兵の数も、物量も桁が違いましたもの。初戦の奇襲攻撃が成功したからといって、そのあとが続かない我が国とは大違い」

「それ、先に言ってくれたらよかったのに」

「あら、申しましたわよ」


 しれっと、娘コンスタンシアが言う。訊く耳を持たなかった私が悪い、ということらしい。っていうか、貴族院があちらの挑発に乗って、「サンブリア国なにするものぞ」の勢いで、戦争するって聞かなかったんだよね。王の意見、抑え込まれたんだ。

 戦争反対派だった宰相なんて、暗殺されたんだよ。あのまま反対を口にしていたら、次に暗殺されていたの私だったね。たぶん。

 はあ。政治音痴の気弱なポンコツ国王は、もっと早くに王座を娘に譲っておくべきだったのだろう。後悔、先に立たず。


「お父様、いいえ国王陛下。過去を悔いても、もうどうにもなりませんわ。もう負けを認めて、講和条約まで結んでしまったのですもの。将来(さき)を考えましょう!」


 娘は逞しかった。そして、したたかでもあった。

 誰に似たんだよ、王妃か。そうか、そうだよな。


 で、その講和条約の項目に、娘とサンブリア国王の婚姻があった。和平のための結婚といえば聞こえがいいけれど、要は娘を人質に出せと言うことだ。

 もちろん、反対! 反対だよ、父親として、そんな結婚認められるものかっ!


「敗戦国としては、拒否権はありませんね」


 非情な声で、この場に同席していた宰相がぼそっと言った。あ、この男。暗殺されちゃった先の宰相ポートモント公爵の息子で、戦争終結後、父の跡を継いで宰相の地位に就いた。戦争推進派の貴族院の暴走貴族の面々は、敗戦と同時にサンブリア国の軍警察に逮捕され、責任取らされてみんな断頭台行きになってしまったしなぁ。

 就任早々、負け戦の後始末をすることになってしまった悲運の男でもある。でもこの男がいなかったら、我が国は滅亡の憂き目にあっていたと思うよ。

 がんばれ、ポートモント公爵。応援しているよ。


 そんな私の心情を知ってか知らぬか。まあ、この際どっちでもいいのだが。

 若干23歳の年若い宰相と17歳の気の強い王女は、頼りにならない国王(私だよ)の代わりに、戦争で疲弊しまくった我が国をなんとか立て直すべく奔走してくれていたのだ。なんとか講和条約まで漕ぎつけたまではよかったのだが、その見返りというか友好の証にとか言って政略結婚の話が出た。


 それがわが娘、この国の王女コンスタンシアと戦勝国でもあるレキシア王との結婚だ。



 父親として。

 かわいいひとり娘を、おっそろしい残酷王に嫁がせることなんて、なにがあっても首を縦に振れるもんじゃ無いって! 会ったことないから、風貌は噂でしか知らないんだけどさ。

 でもさ。私は同時にこのジャクルの国王で、なにがあってもこの国を守らなきゃならないのよね。


 政治(まつりごと)下手でデキの悪い国王だが、幼い頃から一応帝王学ってのを叩きこまれているから、その辺の自覚だけはある。問題は、それに実行力が付いてこないことだと、亡き王妃(つま)からもさんざん言われた。だからこそあなたが嫁に来たんじゃないの。頼りない王太子(当時の私)の尻を叩きつつ、政治を切り盛りできる実行力と精神力と体力と美貌を兼ね備えたあなたが、王妃に選ばれたんじゃないの~!!


 なのに先に逝っちゃうなんて、反則じゃん。

 いくらそっくりの娘を残してくれたからといって、コンスタンシアは王女だから、政治的パワーバランスの調整の仕方によっては他国へ嫁に行っちゃうんだよ~。そこまで考えてくれなかったのぉぉぉ。


 ――と云う父親の嘆きを冷たい目で眺めるふたり。


 出来れば、コンスタンシアはこの若い公爵デシデリオ・ベンセスラス・ポートモントと結婚させてあげたかったんだ。年頃もちょうど釣り合うし、娘がこの有能な若い公爵に好意を抱いていたことは知っていた。デシデリオだって、娘を愛していたはずだ。たぶん、現在も気持ちは変わっていないだろう。

 戦争が終わったら……なんて悠長なことを言わず、反対派の意見なんか押し切って、結婚させておけばよかった。そしたら、いつまでも身近に置いておけたのに。頼りない国王(わたし)の支えになってもらえたのに。

 後悔先に立たず、昔の人はいいこと言っているよ。ぴえん。


「陛下。いつまで嘆いていても、事態は好転いたしませんわ。こうなったら私がサンブリア国王レキシアを篭絡し、かの国の宮廷を牛耳ってまいります。

 女の私は武器を取り戦場には立てませんが、女には女なりの戦のやり方がございます。ご安心くださいませ」


 ――え!? まったく、安心できないんだけど。


「デシィ、あなたも協力してね」

「もちろんですよ、コニー」


 手を取り、見つめあい、うなずくふたり。美男美女のカップルだから、光景だけ見ていると吟遊詩人の物語歌(バラッド)のワンシーンみたいだけど、よく考えるとかなり物騒なことを言っているぞ。


 これ、危なくないか?

 娘は、これから隣国の王妃となる身。方や男の方は、我が国の宰相でこの国の政務を担う身分で。


 おいっ。サラッと協力仰いだけど、宰相公爵になにを協力させるつもりなんだ、わが娘よ。


「われらは祖国ジャクルのためならば、骨身を惜しみません」


 声を合わせて宣言してくれる、ふたり。でもさ、私としては狡猾さの混じった娘と公爵の輝くような笑顔を見て、本当に背筋に悪寒が走ったよ。





 ――そして。

 それから2年も経たないうちに、セラフィナが花嫁としてジャクルへ嫁いで来た。




お読みいただきありがとうございました。


「政略結婚で娶ったのは8歳の花嫁でした(仮)」は、現在ここまででストップしています。ここからどう舵を取ろうか、悩んでいるのです。

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