1.邂逅
この作品には一部刺激の強い表現が含まれています。
ご了承ください。
随所に爆発や銃撃の跡が残る廃墟のような高層ビル街の中、大通りを東に向かってゆっくりと進む戦車1台と装甲車2台。その後ろには40人程の武装した兵士が整然と続いている。
このまま進めば20分後には同志たち、反政府ゲリラ組織〝東京解放戦線〟との交戦に入るだろう。
森 陽平は部下2人を引き連れ〝政府軍 東京第四方面軍〟の進軍を偵察する任務に就いていた。
息を殺して敵軍の動向を注視しつつ恋人でもある長谷部 麻里からの質問に律儀に答える。
「敵さんの様子どう?」
「今のところ気づかれてはいないと思う」
「先制攻撃でどれくらい削れるかな?」
「わからない。橋本さんは車両2台は落としたいって言ってた、やるなら全車一気にだけど…戦車もいるし3台もいけるのかな?」
「防御魔法は?」
「使ってる様子はないね」
「このままならこっちの攻撃魔法と爆弾でいけるんじゃない?」
「…どうだろう?…とりあえずここで考えてても仕方ないね。戻って報告だ…二人とも見つからないように注意しろよ」
「「了解!」」
得た情報を組織のリーダー橋本 航に報告すべく、ビルの屋上から潜伏場所へ慎重に急いで向かう。
「昔みたいにスマホで連絡できれば楽なんすけどね~」
走りながらも愚痴っているのは幼馴染で同じ偵察部隊の土屋 潤だ。
「盗聴とかあるからダメなんじゃない?」
「まぁ。それ以前にスマホが生きてたらこんな状況になってないと思うよ」
「「それな~ッ!?」」
ハモッてる恋人と幼馴染に心の中で突っ込む…
『おまえら声でかいよ…………』
現在日本国内では〝大穴〟の影響で電波を使用した通信はほとんど機能しないらしい。
「ほとんど」というのは大穴の影響がどこまでか正確には把握できていないからだ。
東京都を中心に半径500km位と言われているが、これは組織で集めた断片的な情報から推測したに過ぎない。
誰も確認しようがないのだ。
〝大戦〟の最中、皇居上空に突然発生した直径1kmにも及ぶ真球状の不気味な黒い穴。
それ以後様々な影響が出ているが、中でも特筆すべきは【発病】と【魔法】だろう。
どういう理屈か全くわかっていないが、大穴の発生から1か月後ぐらいになって風邪に似た症状を訴える者が続出し、2年半経った今でも症状は改善していない。
更に1か月後になると、発病していない者の中から奇妙な能力を使う者が現れ出し、これを‶魔法〟と呼ぶようになった。
東京解放戦線(以下〝東戦〟)には現在35人のメンバーがいるが、その内7人が〝魔法持ち〟だ。陽平もその一人。
「2個小隊規模か…予想より少し多いが、予定は変えないでいこう。爆破予定地点に入ったらしかける。各員配置につけッ!!」
「「「「「了解ッ!!」」」」」
リーダーの橋本の号令で偵察部隊の3人以外のメンバーがそれぞれの待機地点に散っていく。
「橋本さん。僕たちも攻撃に加わりますか?」
「もちろん加わってもらう。地下街の鹵獲部隊に合流してくれ、細かい内容は合流後に説明があると思うが、罠にかかった敵軍の車両を確保する役だ」
「横田さんの部隊ですね」
「直接戦闘が予想される、とりわけ危険な役割だ。すまんがよろしく頼む」
「「「了解ッ!!」」」
***
―鹵獲予定地点―
「よっしゃ!お前ら、そろってるか!?」
「イエッサー!」
「いや、まだですからっ!これからここで合流の手筈でしょうが!横田さんも前川さんも分かってやってるでしょ!」
いつも通りの横田 匠のボケと前川 淳史の合いの手。
周りはすでに慣れてしまいスルー案件となる中、唯一突っ込んでくれるのは元部下で現部下の大山 涼介…苦労人である。
「「………」」
冷めた目で『気の毒に…』と思いながらも距離をとるのは、涼介と同じ立場のはずの高橋 克子とその妹分の周防 亜美。
この5人は大戦前も同じ会社の上司、部下、同僚の関係で〝東戦〟に参加するに当たり、横田が声をかけ前川が招集したという経緯があった。
とてもそうは見えないがチームワークは抜群に良い。………とてもそうは見えないが。
その後少しして陽平たち3人が合流する。
「申し訳ありません!遅くなりました」
「よっしゃ!今度こそそろったな!」
「…今度こそ?」
「気にしなくていいわよ」
陽平の疑問に苦笑いで答える克子。
彼女はツンケンした見た目に反して、とても面倒見がよく気安い口調で男女問わず年下から人気がある。
ただし年齢の話はタブーだ。…絶対にだ。
「聞いてると思うが、確認を兼ねて作戦を説明するぞ。先ず爆破部隊が戦車を目の前の地下通路に落っことす。したら俺たちが戦車内と周囲の敵やっつける。橋本たちが戦車に乗り込む。その後は戦車に乗って奥のスロープを上がってトンズラ。以上、質問あるか?」
「横田さんが運転するんすか?じゃ俺砲座乗りますよ!」
「バカ言え!俺が砲座だ!お前は無限軌道上に待機!」
「そこっ!?俺に死ねと?」
「漢を見せろっ!!」
「んな無茶なっ!」
バカな掛け合いを無視して他のメンバーは淡々と配置につく。
***
………作戦開始3分前。
静まり返った旧市街地の巨大な交差点、進軍する政府軍のエンジンと軍靴の音が高層ビルの谷間に響いている。
その様子を直上から見下ろしている者がいた。
広域探査魔法【サテライト】
自分を中心に10~1000mの範囲を上空から見降ろす視点を得る高等魔法だ。
範囲やズームは術者の技量次第だか、そもそもこのような高等魔法を使える者はほとんどいない。
交戦予定地点から200m程離れた高層マンションの屋上で、件の術者とその連れが気だるそうに会話を交わしている。
「慎。どう?」
「面白いことになりそうだけど、助けないとだな…」
「ゲリラを?…メンドいな。なんで?」
「知り合いがいる、うまく行くようなら見ててもよかったんだけどな~」
「無理ってことね。敗因は?」
「待ち伏せ気づかれてる。ゲリラ側はそれに気づいてない」
「あらら…。魔法持ちは?」
「何人かは有望そう♪」
「スカウト?」
「ん~。状況次第」
「他の3人も呼ぶ?」
「下で合流しよう。4人なら速攻終わるだろ」
「りょ~かい」
何気ない日常のように会話をしながら屋上の縁に近づくと、何の気負いも恐怖も感じられない足取りで、30階建てのマンションから飛び降りた。
***
………ドズンッッッ!!
「!?橋本さんッ、今の爆発音は?…やけに小さかったですが、道路の破壊は出来たんでしょうか?」
「いやっ無理だ!爆破部隊が失敗したのか?」
「何かあったんでしょうか?確認しますか?」
軍の車両を鹵獲した後すぐに乗り込むため待機していた橋本率いる部隊は、地下街に繋がるビル内の通路でその音を聞いた。
「圭子は美月君を連れて横田達と合流しろ。品川は俺と地上の確認だ。急げッ!」
「「「了解ッ!」」」
橋本は焦る気持ちを抑えつつ階段を駆け上がりながら、先行する品川 大輔に指示を出す。
「品川、焦って飛び出すなよ。出会い頭にぶっ放されたくないだろ?」
「わかってますけど、地上の工作部隊は魔法持ちがいない!戦闘になってたら…」
爆破予定地点を確認するには、今いる階段室を出てビルの横から外へ出る必要がある。
そこで軍に鉢合わせれば戦闘は必至。
地上部隊は隠れながら道路を爆破し戦闘車両を排除、その後ビルを盾にしての銃撃戦を想定していたので貴重な魔法持ちは最前線、つまり地下街担当の部隊に全て回していた。
爆破に失敗し、戦闘車両が残ったまま地上での戦闘になると極めて不利になる。
内開きのドアを警戒しながらそっと僅かに開けると、すきまから見える光景に2人は絶句した。
戦車から放たれたと思しき砲弾の跡、装甲車からの機関銃の弾痕、そして物言わぬ同志たちがあちこちに転がっている。
生存者を確認し救出したいが、今出れば2人分の遺体が増えるだけだろう。
何よりも、一刻も早くこの状況を地下で待機する仲間たちに知らせねばならない。
…そのままそっとドアを閉める。
「…横田達と合流しよう」
「…クッ、…はい」
***
「横田さんッ!勝手に動かないでください!リーダーを待ちましょう」
「でもよ~菅ちゃん、上で予定外のことが起こったのは間違いねぇ。橋本たちと合流しなきゃどーにもならんだろ?」
「ですからっ!間もなくリーダーたちが状況を確認して戻ってきます、それまではここで待機と…」
「待って下さいっ!!」
「ッ!、陽平くん?」
「ここに居るのは危険です!一刻も早く橋本さんたちと合流すべきです!」
「………そうですね、わかりました。急ぎましょう!」
陽平の言う通りこの場所は危険だ。
橋本の指示に従い鹵獲部隊に合流した菅 圭子と葵 美月だが、二人が到着した時点で横田たちは移動することを決めていた。この鹵獲地点は落ちてきた車両が逃げられないように、外部への通路を限定するように準備してある。
爆破作戦が失敗してしまえばただの袋小路。
ここに政府軍が大挙して攻め入ってくれば正面から撃ち合うことになってしまい、相応の被害を覚悟しなければならない。
横田と陽平の判断は正解なのだが…
「横田っ!爆破は失敗だ、引くぞッ!!」
「橋本ッ!もう来たのか!?とにかくここから出るぞッ!!」
その場に橋本と品川が駆け付け、退却を促したが少し遅かった。
「むざむざ逃がす訳がないでしょう?」
「「誰だッ!!」」
20mほど先の通路から現れたのは政府軍の兵士20人。
全員アサルトライフルを装備し、軍内での魔法持ちの印でもある赤黒ストライプの腕章を付けている。
そしてこの部隊の指揮官であり、上位の魔法兵としても知られる池田大尉が一歩前に出て言葉を続ける。
「ちなみに地上の出入り口は、すべて私の部下が封鎖していますので、悪しからず」
「クソッ!……不意を突いたはずなのに、みんなスマンッ!」
「お前だけのせいじゃねーよ…『こりゃあ情報が漏れてたって考えた方が自然か…』」
「まあまあ…、落ち着いて、もう一度私とお話をしませんか?橋本君」
「今更何の話だ、池田。この裏切者め!」
池田は橋本・菅が勤めていた会社の元上司でもあり〝東戦〟設立時にも参加していた旧知の仲だ。
しかし旗色が悪いと見るや政府軍に投降し、そのまま軍属になった。
今もこうして元同志に銃口を突き付けている。…まさしく裏切者である。
「話は簡単です。投降し私の部下になりなさい。そこそこの待遇は約束しますよ、特に君たちのような魔法持ちならなおさらね…」
「ふざけるなっ!」
「落ち着いてよく考えてください、いくら何でもこの状況を覆すことは不可能でしょう?全滅もあり得ますよ。感情任せにそんな道を選ぶのはリーダーとして正しいのですか?」
「…クッ。…」
【魔法】というのは万能でも無敵でもない、限界もあるし安定もしない。
個人差も大きく、そもそもまだ解明されていない部分が大きい。
それでも、人間に向かって攻撃すれば致命傷を与えるのに不足はないし、防御すれば銃弾程度防ぐのは簡単だ。
戦闘に際しては、使える側が使えない側に敗北することはまずありえない。
よって集団戦の場合、何人の魔法持ちがいるかで有利不利が変わってくる。
実はこの場の戦力を比較した限りで言えば、池田の先の発言は少々大げさなのだが…
橋本はすでに爆破作戦に失敗し多大な犠牲を出している。結果として有効な脅し文句になった。
迷っている様子の橋本を見て、陽平が小声で話し掛ける。
「…………ダメですよ。橋本さん」
「陽平?」
「ここで投降したら今までの努力も犠牲も無駄になります。まして、かつてのような平和な日本など、夢見る資格はない」
「しかし…」
「僕が〝観た〟限り、魔法持ちの数は全くの互角です…」
「そこまでわかるのか…」
同じ魔法持ちであれば、ある程度魔法の発動を感知することは出来るが、これも個人差が大きく、通常は〝なんとなく感じる〟程度だ。
しかし陽平は試行錯誤と訓練により、観察することに特化していた。
目に意識を集中することで魔法発動のタイミング、どの程度の規模か、ほぼ正確に把握できる。
集団の中にあっても、どの人物が魔法を使っているか見分けることは陽平にとっては簡単なことだった。
今は双方銃口を向けあっている状態だ、防御魔法は魔法持ち全員が発動している。
敵の魔法持ちは池田を含めて7人、つまり14人の腕章がブラフである。
こちらは陽平・橋本・菅・品川・長谷部・大山・美月の7人。
魔法持ちの数が互角ならどう転ぶかわからない。
あとはどのような魔法で、どれ程の威力なのかという問題だが…。
ここでも橋本は迷うことになる、池田は彼が知る限り最も魔法に長けた人物だ『俺では相手にもならない。対抗できるとしたら…』脳裏に浮かぶのは東戦の中で最も魔法能力の高い女性〝葵 美月〟
最年少でつい最近加入したばかりだが、その魔法威力は驚きの一言だった。
それゆえ美月には事前に、池田のことに関して伝えていた「もしかしたら相手をしてもらうかも」と…。
しかし彼女はこれが初めての実戦だ、最も厄介な相手を任せるのは気が引ける。
踏ん切りがつかず横目で美月を見ると、当の本人は池田をじっと見つめていた、いつも通りの全く感情のこもらない冷めた目で…。
『あいつが池田。勝てるとは思わないけど…、ここで死ぬならそれまでのことというだけだし…』
そんな考えなどお構いなしに池田が問いかける。
「こう見えても忙しい身でね、早めに決断してください。最も選択肢があるとは思えませんが…?」
「…………。」
「やりましょう橋本さん、美月ならきっと…」
『…陽平も同じ考えか。……よしッ!』
「圭子、品川、長谷部【防御魔法】をッ、美月君は指示があるまで後方待機ッ、他は攻撃開始だッ!!」
橋本の号令と同時に激しい銃撃・魔法攻撃が始まる。
【防御魔法】とは通常、術者自身の全身を覆う〝鎧〟のようなものであり、かけ続けられる限り物理・魔法のダメージを遮断、もしくは軽減する。
だが、ここで橋本が指示した防御魔法とは味方全体を守るための〝障壁〟を展開する魔法を指しており、この場にいる味方12人を保護することを命じていた。
どちらの魔法も防御力と持続時間は、自身の能力はもちろん防いでいる攻撃の威力や数しだいで増減する。
これに加えて障壁を展開している場合は味方が攻撃するための隙間や穴が必要であり、こういった細かい操作は適正と訓練が必要になる。
当然命じられた3人は防御魔法が得意なメンバーだった。
ガガガガガッ!!
ドンッ!!ボンッッッ!!!
ドドドドドドドドドドドドッッッ!!!
耳と目を塞ぎたくなるような轟音と閃光が飛び交う中、両陣営の防御魔法術者は、頭の中で疑問を膨らませていた。
〝障壁〟に全くダメージが無い?
やがてその疑問は周りにも伝播していく……。
「……何が起こっているのだ??」
両軍が不信に思い攻撃をためらい始める中、橋本のつぶやきに後方から静観していた美月が答える。
「10mほど先、敵とちょうど真ん中あたりに障壁があります。…とても強力な」
「バカなッ!?……両方の攻撃を完璧に防いでいたというのか?あり得んだろう?」
「……いやいや。やりようはいろいろあるよ~♪」
後方に待機していた美月のさらに後ろから場にそぐわない呑気な声が響く。…後ろは袋小路のはず。
一斉に振り向き1人の人物を目にする、と同時に橋本が誰何する。
「何者だッ!!」
「久しぶりだな♪」
「君は!シン?…香澄 慎かッ!?」
「…知り合いか?陽平」
「はい。…学生の時に。…卒業以来なので約7年ぶりですが」
その男、香澄 慎を一言で言うなら〝うさんくさい〟だ。
誰もいなかったはずの場所に忽然と現れ、実にリラックスした様子でコンクリートの残骸に腰かけている。
服装も奇妙だ、六分丈のカーゴパンツに武骨なコンバットブーツ、何故か大きく柴犬がプリントされたTシャツの上から、袖を絞った丈の長い法被のようなものを羽織っている。
極めつけが左手に持っている物……日本刀。
『銃弾や魔法が飛び交う戦場に、よりにもよってカタナ?……本気でなめているのか?ただ格好をつけたいだけなのか?…冗談で持ち歩いている可能性もある』
陽平は学生時代の慎を想起しながら益々困惑する。
陽平だけでなく誰もが状況についていけない中、橋本が慎に向かって質問する。
「陽平の友人らしいが…、いったい何の用でここに?それにあの障壁は君の仕業か?」
「…友達なら手助けして当然だろ?障壁は俺じゃないよ、俺の指示だけどね♪」
「つまり味方だと?」
「とりあえずはね。それと向こうの大尉さんにちょっと聞きたいことがあってね♪」
「慎。上は終わったぞ」
「「「「「ッ!!!?」」」」」
突然の声に再度振り返る東戦一同。
たった今鉄扉をくぐりこの場に現れた男。
慎に負けず劣らずラフな格好で手に持っているのは…、なんと槍である。
続けてその後ろからさらにもう一人。
ラフな服装は変わらないが、こちらは大型のコンバットナイフを腰にぶら下げている。
「生き残りも治療済みだよ。全部で11人」
「友、比呂、お疲れ。……さてっと。…………美月、後で話そう」
慎は二人に軽く労いの言葉をかけると、なぜか美月に対しても気安く声をかけた。
当の美月は先ほどから目を見開いたまま、慎の顔だけを見つめている。
そして東戦メンバーの間を抜け、政府軍…、池田と対峙する。
「昴、順也、もういいよ」
慎が言った瞬間、隙間なく通路を塞いでいた魔法障壁が消えたことを陽平は感じた、と同時に通路の両端に術者がいたことも分かった。
…………今更だった。
〝観る〟ことに関しては少なくない自負を持っていた陽平は、ポーカーフェイスを装っていたが内心では『彼らの魔法技術は僕らをはるかに上回っている』と理解しショックを受けていた。
「初めまして大尉殿。質問に答えてね♪…ちなみに地上の兵は殲滅しましたので、悪しからず」
「……なめたガキですね。そんなハッタリが通用するわけがないでしょう」
「ハッタリじゃないけど。…まぁいいや、聞きたいのは大尉殿に魔法を指導したヤツのことなんだけど」
「マイペースな…答えるわけないでしょう。それよりもサッサとご退場願いましょうかっ!?」
慎に向けて突き出した手のひらの前に、直径50cm程の火球が発生する。
「しねっ!!」
池田の声と同時に火球が猛烈な勢いで慎に向かって飛ぶ!
ゴウッ!!?
慎と池田のちょうど真ん中で火球と火球がぶつかり合った!?
いつの間にか慎の前には美月が立ち、池田に対し同じ炎の魔法を行使していた。
2人が放った火球は全く互角の力で押し合い、両者ともさらに力を込め相手側へ押し返そうとしている。
しかし徐々に美月が押され始め火球が近づく……!!
「クッ、だめッ!慎ッ…逃げてッ!!」
必死で食い止めようとしながら振り向いた先で…
「……スパ~~、………んっ?」
…………タバコをすっていた……とてもうまそうに…
そして、まるで興味がなさそうに〝パチッ〟と指を鳴らすと
2人分の魔法で作られた特大の火球は、あっさりと消滅した。
陽平は理解できなかった、さっきとは違いしっかり目に集中していたにもかかわらず。
『少しだけ大気が揺らいだような?でもそれだけだ、その意味も理屈も全く見当がつかない』
「バカなッ!…貴様何をしたッ!!?」
2人分の火球を押し返し勝ったつもりでいた池田が、困惑極まり面白い顔で声を荒げる。
「…………ぷっ、…【キャンセル】しただけだよ」
「…ハァッ!!?…………なんだそれ???」
更に顔が大変なことになるが、政府軍・東戦ともに同じ疑問符を浮かべていた。
そして東戦メンバーは、口を押え耐えていた…必死で。
「……ククッ…おもしろいけど、質問してんのはこっちなんだけど?…………大尉殿だけ残しで、あとはいらない」
……その言葉は、仲間への指示だったと後から気づいた。
…………たぶん…10秒足らずだったと思う。
池田を除いた20人の兵士がなす術もなく、全員地に伏していた。
慎の仲間4人が各々の〝近接武器〟できっちり5人ずつ……。
たぶん倒された兵士たち自身、何が起こったか解らなかったんじゃないだろうか?
彼らに聞くことは、もうできないが…………。
「……………何が?…………貴様らはまさかっ!…ロストプレイスッ!!?」
「これで少しは話しやすくなっただろ?…友、比呂、たのんだよ♪」
顔面蒼白になって叫ぶ池田の言葉を無視し、相変わらずうまそうにタバコを吸いながら仲間にたのむと、二人が何かの魔法で池田を拘束し、通路脇の…元はテナントスペースだった所へ連れて行った。
それを見届けた慎は振り返り声をかける。
「こっちはこっちで話したいんだけど、どっか落ち着ける場所ある?」
「…………あ、……ああ、案内しよう。…その前に地上の様子を確認したいのだが、いいか?」
「もちろんいいよ。生き残ったお仲間さんたちも回収しなきゃだしね♪」
彼らの圧倒的武力を目の当たりにした東戦メンバーは、皆同様に憧憬と恐怖が入り混じった複雑な思いを抱えていた。