第11話 『さらわれたハルカス! 急げハンナリィ帝国!』後編
ヒデヨシ一行がカーニィ・グランドで山脈を越え、ナーラ神国の都へ向かっている頃。
ハルカスをさらったハンナリィ帝国軍は巨大潜水艇でカンサイ大陸の東の海を移動していた。
第1師団長、オタ=ベタベヤスをはじめ、四人すべての師団長がそこには揃っていた。
「巫女を抑えておけば、オーサカの機神はいずれ動かなくなる。これでオーサカ国も、我がハンナリィ帝国の手に落ちたも同然だな」
「それでぇ? その巫女様はとやらは今どうなってんのかしらぁ?」
ベタベヤスとオリコが話をする中、仮面を被った人物、第3師団長のゲッソーがそれに答えた。
「洗脳ガ上手クイカナいンダって?」
「ぬふぅ……そ、そ、そうなのよな。巫女だけあって、何か違うんだな」
現状を説明するのは、ハンナリィ帝国、第2師団長、ブ=ブヅケ。彼は帝国の兵器全般の取り扱いや開発などを手掛ける役割を担っている。
でっぷりとした腹を揺らしながら、もそもそとしゃべる。
様々な黒機神のカスタムや、洗脳兵器の開発も、彼の功績によるものだ。
「でゅふぅ。でも、エネルギーを無理やり取り出す程度ならできるんだな」
「ふぅん。ま、その辺は専門のあんたに任せるわぁ」
「大機神は動かせるのか?」
「や、やれと言われればやるけど、おススメしないんだな。完全に洗脳してからの方がいいんだな」
「判断ハ、上ノオ偉いガタガスルモノダヨ」
その時、四人が集まっているブリーフィングルームに、一人の老人が姿を現す。黒い僧衣に身を包み、ひどくゆっくりと歩いてくる。
オリコが顔を歪め「あぁ、来た来た」と目を逸らす。
「揃っておるな。師団長ども。巫女の奪取、大儀であった。帝国議会はこの功績を認めよう」
「はっ。光栄にございます」
ベタベヤスがこうべを垂れる。
ハンナリィ帝国に、皇帝は存在しない。かつては存在した皇帝の血筋が絶え、その後の政治は皇帝の補佐役を代々努めてきたジィの一族が議会を興してこれを務めていた。
「帝国議会を代表し、この我、ホンノウ=ジィが命を下す。これより、ナーラ神国へと攻め入る」
「……ははっ」
「布陣ハ、ドノヨウニ?」
「大機神を用いる。ブヅケ。半日で仕上げよ。明朝の日の出と共にツキガッセの地に艇を止めて進軍する」
「ま、ま、待って欲しいんだな。三日、せ、せめて二日あれば完全な状態に――」
「ならぬ。帝国議会長キンカク=ジィ、ならびに副議会長ギンカク=ジィの命と心得よ」
「ぶふぅ……しょ、承知いたしました……」
ホンノウ=ジィは目を細めてぎろりとオリコを睨む。
「オリコよ。貴様は潜水艇にて待機せよ」
「はぁ!? どうしてぇ?」
「無駄に黒機神を浪費した罰だ」
舌打ちして、オリコは不服顔のまま「分かったわよぉ」と答えた。
「大機神は、ベタベヤス。貴様が乗れ」
「御意にございます」
それだけ言って、くるりと向きを変えてホンノウ=ジィは部屋を後にした。
扉が閉まり姿が見えなくなると同時に、オリコが毒づく。
「っはー、あんなのに頭下げるなんて、ベタベヤスは偉いわねえぇ! あぁ、偉い偉い!」
「……口を慎め。オリコ。形だけでもな」
「はん、私、正直だからぁ」
座っていた椅子に思い切り背中を預けて、誰とも視線を合わせないように天井を見る。
分かりやすくむくれていた。
「んでぇ、ブヅケ。大機神、大丈夫なのぉ?」
「だ、大丈夫な訳がないんだな。歩行と、一部の機能くらいしか使えないと思うんだな」
「ドウシテモ、功績ガ欲シイんダロウネ」
「振り回される現場の身にもなって欲しいわぁ、あのハゲ」
「ジィ議会は全員ハゲだ。やめておけ」
「んふー……とりあえず、徹夜確定なんだな」
「すまんな、ブヅケ。できる所まで頼む」
ハンナリィ帝国も、一枚岩ではない。
それぞれの思惑がある中で、それでも他国にとって脅威であることに変わりはない。
○ ○ ○
ヒデヨシの一行はナーラ神国の都へと入る。
ここに、輝きくんのパーツがあるのだ。
「さて、拙僧は一度失礼いたします。帰ってきたことを伝えねばなりませんので」
「ウチらはどないしたらええんや?」
「間もなく、神国の関所に当たる門が見えて参りますゆえ、そこでお待ちくだされ。拙僧が話をつけて参ります」
「オーサカ国の時みたいに、牢屋に入れられないといいけど」
【あら事故みたいなもんや。今回は大丈夫やろ】
関所として使われているという門は大きく、カーニィグランドがそのまま通れそうなほどだった。
カトゥーが飛び降り、門の前に立っている僧兵の元へと近づいていく。
「みんな、鹿なんだね」
「シカ? なんやそれ」
【ヒデヨシの世界におる生きモンなんやと。ナーラ神国のモンがそれに似とるらしい】
僧兵たちがかしこまって慌てる。
うち一人が大急ぎで門の向こうへと走っていった。
カトゥーが戻ってきて言う。
「このままお進みくだされ。この先に神国の中心、大本殿がございますゆえ、そこでお話をいたしましょう」
「分かったー! あれ、カトゥー、乗っていかないの?」
「ええ、少し準備がありますので。では、後ほど」
カーニィ・グランドをずしりずしりと進ませると、大きな建造物が見えてきた。
瓦屋根を左右に大きく広げた、大本殿。その高さ、20メートルあまり。カーニィ・グランドの高さが5メートルほどであることを考えると、それなりに大きなものだ。
カーニィ・グランドの合体を解除し、地面に降りる。
大本殿は戸が開け放たれており、そこから誰かが歩いてくるのが見えた。
「お、シカッサンドラやんけ」
「そっか、会ったことあるんだったっけ」
角のない鹿頭の姿。白い法衣を着てゆっくりと歩いてくる。
「皆さま、ようこそ、ナーラ神国へ。わたくし、シカッサンドラと申します」
「久しぶりやなあ! すまんけどちょい世話になるで!」
「まあ! 観嬢仙さま! お久しゅうございます」
ゆったりと、礼をするシカッサンドラ。
彼女の仕草は、カトゥーと違ってとても優雅だった。
「どうぞ、こちらへ。大僧正様と神祇官様がお待ちです」
「えっと、ムズカシイ呼び方してるってことは、偉い人かな?」
「ええ、ナーラ神国で一番偉い御方。そしてその補佐をしておられる方ですわ」
シカッサンドラがヒデヨシに向かって優しく微笑む。
彼女に連れられて、一行は大本殿へと足を踏み入れる。
開け放たれた扉をくぐり、ヒデヨシは思わず叫んだ。
「うわぁ! 大仏!!」
大本殿の正面中央に、圧倒のサイズで大仏が坐している。
「ダイ、ブツ? あれは、カルシャナ様。ナーラ神国の崇める神を象ったものでございます」
「うわぁ、ド派手におっきい……」
「ヒデヨシ、あれな、動くんやで」
「ほんと!?」
【ほんまやで。せやけどまあ、今は動かせるほどの力持ったもんもおらんかもなあ】
口を開けてぽかんとカルシャナ像を見上げるヒデヨシの元に、一人の老人が現れる。
「貴殿らが、オーサカ国から参られた方かな……」
「あ、はい! 俺、大阪ヒデヨシ!」
「こちらの方は、ナーラ神国、神祇官であらせられます、トウダイ=ジィ様です」
「こ、こんにちは」
ヒデヨシは戸惑う。この、トウダイ=ジィという人物は鹿頭ではなかったからだ。てっきり、全員がそうなのだとばかり思いこんでいた。
「ほほ、私はナーラの生まれではありませんでな」
「ちょっとびっくりしちゃった」
「それより、大僧正様とやらはどこにおるんや? 頼みたいことがあるんやけど」
観嬢仙が辺りを見回す。
カルシャナ像の奥から、白い法衣に身を包んだ人物がすたすたと歩いてくる。
「いやあ、お待たせいたした。拙僧、慌てて着替えて参りましたぞ」
「……カトゥー?」
「いかにも! ナーラ神国大僧正、カトゥー=カスガ。これに」
「……は?」
【はぁ?】
「ええええぇぇ!?」
いたずらが上手くいったとでも言いたげに、カトゥーがからからと笑う。
シカッサンドラが申し訳なさそうに息を吐いた。
「カトゥー様。またお身分を明かさずに外に出られたのですね?」
「はっは。許せ。シカッサンドラ。国を出れば、ただ一介の僧にて」
「はぁ……よいです。ラヅケーナ様に言いつけておきますので」
「待て、それは待て。それよりも、この者たちの話を聞こうではないか」
シカッサンドラを制して、カトゥーは話す。
事態がようやく飲み込めたヒデヨシ達。
「ふざけたやっちゃなあ、ほんま。別に改めて話せんでも、全部言うたやんけ。ここに来るまでに」
「ごもっともですな。時間が省けて良かったでございましょう?」
「なんや納得いかんなぁ」
手際よく、僧兵たちの修練場にあるとカトゥーが言っていた、輝きくんのパーツを持ってこさせ、輝きくんにそれをくっつけた。
これで、コアが二つに、パーツが3つ。合わせて五つの球体が輪になってぴょこぴょこと跳ねた。
【よっしゃ。ええ感じに馴染むわ】
「何か変わったの?」
【あくまでもコアやなくてパーツやからなあ。出力が上がるくらいやな】
「そっか。でも、パワーアップだね!」
そして、この時の一行はまだ知らなかった。
明朝、ハンナリィ帝国が東より攻めてくることを。
シカッサンドラの預言通り、ナーラ神国に、大きな危機が訪れることを。
次話予告!
ナーラ神国に、ハンナリィ帝国の魔の手が迫る!
カーニィ・グランドよりも遥かに大きな機神、帝国の大機神にヒデヨシは歯が立たない!
この危機を乗り越えるには、ナーラ神国のカルシャナ像を動かすしかない!
「カトゥーが、ナーラで一番偉いなんて思わなかったよ……」
【ほんまやで。全然偉そうに見えへんやんけ】
「でも、輝きくんの声が聴こえるってことは、すごい才能があるってことだよね?」
【それは、まあ、せやな。掴みどころのないやっちゃで、ほんまに】
第12話
『ナーラ神国の危機! 動け伝説の像!!』
次回もド派手にオーサカだぜ!!




