第10話 『シォノミ=サキ遺跡の謎! 機神・大合体!!』後編
三節昆の先に鉄球をつけた首なしの黒機神。
帝国の黒機神は見るたびにどこかしらパーツが違っていて、その場状況に応じた装備に変えているようだった。
いかにも重たそうなその鉄球は、ナァンバーンの機神、影式の爪を難なく防ぐ。
「えらく硬いな……! ならば腕の付け根を狙うまでだ!」
「そぉんな単純な戦法が通ると思ったぁ?」
黒機神の肩から、砲門が現れ、実弾が次々と放たれる。
「うぉッ! 近づけん!!」
「くふふ……洗脳とか、そういうまどろっこしいのはいらないのよぉ。火力ですりつぶしてあげる」
速度を上げて回避に徹する影式。
逸れたミサイルは地面やシォノミ=サキ遺跡へと次々に着弾していく。
「あれは厄介やなあ。ハルカス、向こうに移動や。遺跡の入口とカーニィを守るで」
「う、うん!」
攻撃の手段を持たないハルカスの二脚機神が、がしがしと遺跡の前に立つ。
「飛んでくる弾はウチが全部はたき落としたらぁ!」
観嬢仙は再び、身一つで機神の外に飛び出し、衣装を風になびかせて飛んでくるミサイルや近くの浮遊機械を手刀で斬り落としていく。
一向に減る様子を見せない帝国の軍勢に辟易しながらも、防戦の手を緩めるわけにはいかないと口元を引き締めた。
「くそ、キリがない! こうなったら俺様必殺のドリルで……」
高く飛びあがり、爪を収納する。背面から展開したドリルを機体上部に設置して、影式は周囲の大気を巻き込んで回転を始めた。
ヒデヨシと戦った時よりも、遥かに回転の速度が上がっており、さながら小さな竜巻のようだった。
「影式奥義! 勇者暗黒……ええと、なんだったか忘れたが旋風陣!!!」
どう、とバーニアが爆ぜる。
衝撃波を伴いながら黒機神に向かっていく一筋の旋風。
「速……ッ」
オリコは鉄球の陰に身を潜ませるように黒機神をしゃがみこませる。
正面からナァンバーンの一撃を迎え撃つ構えだ。
ドリルの先端が鉄球と衝突し、激しく火花が散る。
次の瞬間、力線が逸れて影式が火花と共にオリコの後方へと流れていく。
「貫けない……だと!?」
「ふうん、速いだけじゃない。なら、これでどうかしらぁ?」
黒機神の肩だけでなく、背面からも砲門が展開されて全方向に追尾式のミサイルが撃ち出された。
「避けきれるかしらぁ?」
「当たるものかぁぁぁ!!」
空中の広さをフルに活用して回避行動を取る。
「あはははは!! ほらほらぁ! まだまだ撃つわよぉ!!」
影式に狙いを定め、弾の雨を放ち続けるオリコ。
遺跡やハルカスから意識が切れたその隙を、観嬢仙は見逃さなかった。
とん、と地面を蹴り滑るように黒機神まで近づく。
「ウチのこと忘れてるんちゃう?」
素早く手を翻し、手刀で鉄球を切り落とす。
オリコの顔が歪んだ。
「はぁ!? 何してくれてんのぉ!?」
「油断大敵っちゅうやつやな。もうちょい周り見た方がええで、自分」
「く……」
だん、と黒機神の操縦席の上から踏みつけるようなポーズでオリコを見下ろす。
「く……くく、くふふふ……!!」
悔しさに歪んでいたその顔は、愉悦のそれへと変わっていく。
「やぁっと、こっちに来てくれた」
口の端をきりきりと上げ、邪悪に笑う。
切り落とした黒機神の腕から、細い紐状のエネルギーロープが幾本も飛び出し、観嬢仙を縛り上げた。
「観嬢仙さまっ!」
ハルカスが叫ぶ。
「もうちょっと、先の展開を見た方がいいんじゃないかしらぁ?」
「こ……の、ボケぇ……!」
岸壁にあるシォノミ=サキ遺跡のその崖下から、新たな黒機神が跳びあがってハルカスの前にずどんと着地した。
ぬぅっと黒い首が黒機神の胴から生える。
「あ、うぁ……」
「ハルカス!! 逃げぇ!」
逃げようとするハルカスの機神の行く手を塞ぐように、首の生えた黒機神は長い両手を広げる。
何も装飾のないその頭が小刻みに震えはじめ、不快なノイズを放ちだす。
それは、天蓬山で見た、洗脳のための音波兵器だった。
「うああああぁぁぁっ!!」
脳内を蟲が蠢くような不快感。
ハルカスは頭を抱えて身を守るように体を丸めたが、ノイズは容赦なく彼女を襲う。
観嬢仙はオリコに縛られて身動きが取れない。
別の黒機神の出現に、ナァンバーンが空中から滑空しようとするが、まだ彼を狙うミサイルが押し寄せている。
「あ、あたまが……痛いぃぃ!!」
ハルカスが苦悶の声を上げる中、ノイズを発する黒機神から高笑いが聴こえてくる。
「ハハハハ!! ここまで上手くいくとはな……! 巫女よ! 我らが帝国に降るがいい!!」
その声、ハンナリィ帝国第1師団長、オタ=ベタベヤス。
残忍な笑みを機神の中で浮かべながらも、攻めの手を緩めることはない。
オリコも、観嬢仙の締め付けをさらに強める。
「ぐ……ぅ……ッ!」
「あの新入りの策、って所だけが気に喰わないけどぉ」
ついに、ハルカスの意識が途切れる。
それに伴って、二脚型の機神もがしりとその場に崩れた。
ベタベヤスが三節昆アームを伸ばして操縦席を守るハッチをこじ開けてハルカスを抱き上げる。
「巫女は手に入れた。オリコ、先に戻るぞ」
「はいはぁい。あたしも、もうちょっとコイツらいじめたら撤退するわぁ」
そう言って縛り上げた観嬢仙を振り上げ、地面に叩き付ける。
「あぁぁぁっ!」
「くふふ……いい声ぇ……」
「お前ほんま……ぎったぎたにしたるからな……」
「その負け惜しみ、最ッ高だわ」
操縦席のハッチを開け、ハルカスを投げ入れてベタベヤスは機神を崖へ向かわせる。
その時、ようやく空中ですべてのミサイルを撃墜して場に降りてきたナァンバーン。
「勇者俺様の前で、巫女姫サマを取られるわけにはいかねえなあ!」
「ほう、貴様か。また腕を捥がれたいか?」
「前回とは違うぜぇ!」
「ぜひとも手合わせ願いたいが……私の役目は終わったのでな」
崖下、海中からさらに別の機神が飛び出す。
流線型のフォルムに、白銀のボディ。頭部のないその機神は、ウメダ遺跡でヒデヨシが戦ったものだった。
着地と同時に、白銀の機神は右腕を前に出しエネルギー弾を乱射する。
「うぉッ、新手か!? ずいぶん大盤振る舞いだな!」
「さらばだ、勇者よ。もう会うこともあるまい」
崖から飛び降りるベタベヤスの黒機神。
海面には巨大な潜水艇が姿を見せていた。
帝国は、海からシォノミ=サキ遺跡に近づいていたのだった。
「待てよ、くそッ!!」
白銀の機神が、遺跡入口にあるカーニィに照準を合わせて右腕を上げる。
「あれを壊そうってのか! そうはさせねえ!!」
ブーストを吹かし、宙を滑る。容赦なく打ち出されたエネルギー弾を、影式を盾にして受けるが、少なくないダメージに、ごとり、と機神が地面に落ちる。
その時、ようやくヒデヨシとカトゥーが遺跡の入口に戻ってきた。
息を切らして遺跡から飛び出し、周囲の状況を確認する。
ヒデヨシの眼前には、三体の機神が力なく沈黙している。
○ ○ ○
カーニィの横に、操縦者のいない二脚型の機神。ごろりと転がった影式。
その先に、ウメダ遺跡で戦闘した、白銀の機神。さらにその向こうに黒機神、縛り上げられている観嬢仙。
「ど、どうなってるの……!?」
「最悪の事態の様ですな、これは……!」
【ヒデヨシ! とりあえずカーニィに乗れ!】
影式からナァンバーンが出てきて叫ぶ。
「巫女姫さまが攫われた! 奴らは海だ!!」
「ハルカスが!?」
カーニィを起動すると同時に、白銀の機神が再びエネルギー弾を斉射する。
アームを広げてシールドを形成しそれを防ぎ、なおも状況の把握を進めていく。
「あの機神! ウメダでねーちゃんを乗せてたヤツ!!
「あちらの黒い機神は拙僧にお任せを」
カトゥーは黒機神に向かって走り出す。
「ナーラ神国の僧兵なんて、タイプじゃないわぁ」
観嬢仙の拘束を解き、エネルギーロープをカトゥーに向けて伸ばす。
袖から円筒型の法具を取り出して両端から光刃を発生させ、薙刀のように振り回してすべてのエネルギーロープを斬り伏せる。
「ほぉら、乱暴な人は嫌いよぉ」
「拙僧、悪人以外にはなかなか良い男と評判なのですがな」
「相性最悪みたいだから、私も帰ることにするわぁ」
黒機神のハッチを開け、飛び降りる。
去り際に、「それじゃあね、弱いおねえさん」と観嬢仙に吐き捨てて走る。
「逃がすとお思いですか?」
「しつこい男は嫌ぁい。それに、お仲間を助けてあげたらどうかしら?」
黒機神がぎしり、ぎしりと不自然な音を立てている。
機体内でエネルギーが暴走し、今にも爆発しそうになっていた。
「……ッ! なんと趣味の悪い…・・・!」
黒機神の傍で力なく倒れる観嬢仙の元に駆け寄り、全法力で防護膜を張る。
自爆した黒機神の衝撃はヒデヨシの方にまで届いてきた。
「観嬢仙! カトゥー!!」
オリコは崖から飛び降り、迎えに来ていた浮遊機械に着地して巨大潜水艇へと撤退していった。
場に残ったのは、白銀の機神のみ。
ヒデヨシは怒りのままに吼えた。
「許せないッッ!!」
高速で白銀の機神に飛び寄り、アームを振りかぶる。
しかし相手機神は最小限の動きでそれをかわし、二脚機神と影式へと歩みを進める。
「くそッ!」
【弱っとるもん狙うとか卑怯な戦法やのう!!】
急旋回して再び沈黙する機体の前に戻り、アームを広げてガードする。
【防戦一方や……! こらあかん!】
「く……そぉ! くらえッ!」
カーニィの胴が開き、散弾銃のように泡が放たれる。
白銀の機体はそれを跳びあがって回避し、空中からエネルギー弾を次々と降らせる。
またもジャイロシールドを展開しそれを防ぐ。
カトゥーが観嬢仙を抱えて戻り、影式からナァンバーンが這い出てきた。
「みんな、遺跡の中に逃げて!」
「かたじけない……!」
「く……すまねえ」
動かぬ機神、二体を守りながらでは、満足に動けない。
カトゥーの袖から、青い輝きくんが跳ねてきてカーニィに乗り込んだ。
【……なんとかしたろ……】
【なんとかてお前……あぁ! そうか! ヒデヨシ! いけるで!】
「どうすればいいの!?」
【合体や!!!】
「合体!?」
青い輝きくんが、団子状になっている赤い輝きくんに連結する。
瞬間、まばゆい光が溢れだした。
光の後にそこにあったのは、完全に連結した赤い輝きくん。
「あ、青い輝きくんはどうしたの?」
【ワイと融合した!】
ぐるりと輪になった状態で、対角線上に青い目がそれぞれぎょろりとついている四つの球体。
【からの……!!】
再び、ばつんと弾けて、四つの球体は二つずつに分離する。
コアの一つはカーニィに。もう一つのコアは、ハルカスの乗っていた二脚の機神へと。
「え、ハルカスの機神が動きだした!?」
【こっちにくっつけるで!!】
カーニィが飛びあがり、足を後ろに折上げる。
そこへ二脚機神が走ってきて二つの機神の間にエネルギー線が走った。
【コアの数の分だけ、同時に機神を動かせるんや! これで蹴散らしたれ!!】
二脚の機神の上に、カーニィが乗る。
機神は赤く輝き、その赤は二脚機神にまで伝播した。
「お、おっきくなった!!」
【カーニィ・グランドとでも言うとこか!! いけ、ヒデヨシ!!】
「分かったぁ!」
コアが二つになったことで、エネルギーも爆発的に上がっていた。
地を蹴り、相手の頭上からVの字型のアームを振り下ろす。両アームで受けた白銀の機神の足がずん、と地面にめり込んだ。
左のアームを下から殴りあげ、相手機体を浮かす。そこへもう一撃、右アームでの叩き落しを見舞う。
地響きとともに白銀の機体が地に倒れる。
倒れながらも半身を起こして両腕からエネルギー弾を乱射する。カーニィは両アームを合わせてジャイロを回転させてエネルギーシールドを展開してそれを防ぐ。
防ぎ損ねたいくつかのエネルギー弾は後ろに控えていた影式に命中した。
「あぁ、しまった!!」
装甲が歪み、影式のドリルが機体から外れて転がる。
【せっかくや、あれ使わせてもらおか!】
「あとで返すからね兄ちゃん!」
後方へと飛びのき、壊れた影式の横に立つ。
ジャイロシールドを左アームに固定し、先端部の無くなった右アームをドリルと接続する。
「これで決める!!」
【エネルギーに余力はある! いけるで!】
ジャイロアームを回転させ、空気の渦を作る。
カーニィ・グランドに引き寄せられる大気の流れに抵抗するように白銀機神は地を踏みしめそれに耐えた。その代償として、その場から動けない白銀の機神。
ドリルは高速で回転を始め、ヒデヨシはまっすぐに白銀機神を見据えた。
「ひっさぁぁぁぁつ!!」
回転が最高潮を迎える。
「ド派手ッッ! ドリルキャノーーーン!!」
射出されたドリルは大気の渦を裂き白銀機神を貫いた。
その直前、操縦席付近から脱出ポッドが海の方へ飛び去って行く。
貫かれた機神は、先の黒機神よりも激しく爆発した。
「どうだ!!」
【ヒデヨシ! まだや! 帝国の奴ら、海に逃げたんやろ!?】
崖の方に近寄るが、眼下に巨大潜水艇の姿はない。
【シォノミ=サキ遺跡に上れ!】
ジャイロで跳びあがり、ブースターで加速する。
遺跡塔の頂上は大きな空間がぽっかりと空いていた。
「どうするの!?」
【この遺跡も、昔は兵器やったんや! ぶちかますで! 数打ったら当たるやろ!!】
カーニィ・グランドが紅く光り、その光がシォノミ=サキ遺跡に伝わっていく。
空間にエネルギーが充填され、上空へと放たれた。
遥か天高く上ったそれは宙で幾筋にも分かれ、次々と海面を撃っていく。
水柱がいくつもあがったが、やがて海面が穏やかになっても、それ以上何の変化も起こらなかった。
新たな力を手に入れたが、その代償は大きかった。
ハルカスは、ハンナリィ帝国に攫われた。
「ハルカス……」
【とりあえず、みんなの無事を確認しよか。取り返しにいくんはその後や】
「うん……絶対に助けにいくからね、ハルカス!!」
地面には、ハルカスのつけていたネックレスが落ちており、ヒデヨシはそれを拾って強く拳を固めるのだった。
次話予告!
合体機神、カーニィ・グランドの力を手にしたヒデヨシ!
ハルカス救出のため、ハンナリィ帝国に最短のルートで向かう一行はナーラ神国を訪れる。
道中、封印されたコアを取りに立ち寄った遺跡群、アスカの地上絵で驚愕の事実が明らかになる!
「ハルカス……」
【急いで助けにいかなあかんな】
「オーサカ国の機神も、動かなくなっちゃうもんね」
【せや。割ととんでもない事態やで】
「よし、急ごう! 輝きくん!」
第11話
『さらわれたハルカス! 急げハンナリィ帝国!』前編
次回もド派手にオーサカだぜ!!




