不思議の国の…?
ドードー鳥とか芋虫が出てきません。だいぶ自由です。
…本を読むのも、飽きたなぁ…。
退屈。その一言で表すことのできる私の生活に現れたのは、時計を持った白ウサギだった。
「そこの退屈そうなお嬢さん。私と一緒に来ませんか?」
そう言ったウサギは怪しさ満点だった。そもそもウサギは喋らないのが普通だしね。そんな物珍しさもあり、好奇心に負けた私は、前を走るウサギを追いかけるのを躊躇わなかった。
けれど、流石ウサギ。並走しながら話をしたいけれど、見失わないように追いかけるだけで精一杯。そんな中で、突然ウサギが消えた。そこまで行ってみると、足下には深い穴がある。
ウサギはこの穴に入っていった。そう思った私は、何の迷いもなくその穴に飛び込んだ。
その穴は思っていたより深く、重力がない感じがした。落ちるのはゆっくりだし、周りににはたくさんの時計や椅子などの家具が浮いてた。そんな不思議な空間に慣れた頃、いきなり、いつもの速さで地面に落ちた。
「何よここ…?」
目を開けると、そこはまさに『不思議の国』。
ピンクや紫などたくさんの色の葉を付けた木々。
羽がトーストの蝶やバイオリンの形の虫。
その中を動く白い影。
状況の整理が出来ていない頭で考えた。
はやく白ウサギを追いかけなくちゃ!
体がまだ痛むけど、見失っちゃダメだという気持ちの方が強い。
私は必死に走り出した。
「…やっぱり、ウサギって足速いんだなぁ…」
ウサギを見失ってしまった。いや、仕方ないじゃん。途中で変な双子とか大きい芋虫が話しかけてきたんだもん。自分で自分に言い訳をする私に、何かが声をかけた。
「ウサギをお探しかぁい?」
しかし、その声の主は見当たらない。周りを見回す私の目の前に青い猫が現れた。…え、どこから出てきたのこいつ。
「ウサギなら、マッドハッターの所に行くといいよぉ。きっとお茶会をしているよぉ。」
三日月の様な口をして笑いながら、ねっとりとした口調でそう言う猫に、私は尋ねた。
「あなた、誰?ウサギの居場所を教えてくれるのはありがたいんだけど、道を教えてくれない?」
「おやぁ、ごめんねぇ。僕はチェシャ猫だよぉ。マッドハッターは、この道をまっすぐ行けばいるよぉ。」
「あら、ありがとう。」
背を向けて歩き出そうとした私に、猫は言った。
「…がんばってねぇ。どんなことがあっても。」
そう言い残して猫は消えた。
チェシャ猫が消えてしまったんだから、マッドハッターとかいう人の所に行く他ない。私は改めて、前を向いて歩きだした。
しばらく進むと、帽子を被った男の人と茶色いウサギがお茶会をしていた。私が尋ねると、帽子の男が答えた。
「あなたが、マッドハッター?」
「あぁ、そうさ!!君はお茶は好きかい!?」
「お茶は好きだけど、いらないわ。私、今ウサギを探してるの。」
「ウサギならそこにいるじゃないか!」
マッドハッターが指したのは、目の前の茶色いウサギ。
…まさか、チェシャ猫が言っていたウサギも、このウサギ?
「…いいえ、違うわ。ごめんなさい、人違い…じゃなくて、ウサギ違いだったみたい。」
「そうか、じゃあチェスをしよう!きみが白でいいね!?」
なにが「じゃあ」なのか。ていうかそのチェス盤どこから出した。面倒だし、嘘ついとこ。
「私、チェス出来ないわ。」
「じゃあやめようか!」
…ダメだ。マッドハッターテンション高い。疲れる。ていうかウサギ探さなきゃ。
「ごめんなさい、私ウサギ探さなきゃだから…」
その場から去ろうと立ち上がった私の耳に届いた声。
「必ず、味方がいる、とは、限らない。しかし、全て、が、敵では、ない。屈するな。」
ずっと黙っていた、茶ウサギだった。どういう意味か考える私の視界の端に素早く動く白い影。白ウサギ!!
「ごめんなさい、失礼するわ。」
マッドハッターに早口でそう告げ、白ウサギを追いかける。今度こそ、見失わないように。
大きな扉の前で、ウサギは突然走るのをやめた。
「…おぉ、よくついて来られたね。流石だよ。この扉の先には、女王がいるんだ。失礼の無いようにね。君はこれから、女王と勝負するんだから。」
「え、ちょっと待ってよ。女王とか勝負とか、どういうこと?」
「僕は女王と勝負する人を探していたんだよ。女王は『外の国』から来た人と勝負して勝つことで、『不思議の国』から出られるんだ。君が今の時点で、この『不思議の国』から出る方法は、女王との勝負に勝つ以外無いんだよ。」
「…つまり?」
「君に拒否権はない。」
断言された。戸惑う私を無視して、ウサギは扉を開けた。
テニスコートくらいの大きさの部屋の壁に張り付くように立っている、大きな、頭と手足があるトランプたち。部屋の奥には、豪華な椅子に座って、赤いドレスを着た美女。きっと女王だろう。
違和感があった。私には、女王と呼ばれる知り合いはいないはず。それなのに、女王の顔に見覚えがある。それどころか、何故か、懐かしく感じる。
女王の方はというと、もともと大きな目をさらに見開いて、驚きを顔全体で表現しました、みたいな顔をしている。それが、私の違和感を強めた。
女王が口を開いた。女王の口から出た言葉は、その違和感を、疑問へと変えた。女王が言ったのは。
「…どうして、ここにいるの?…アリサ。」
女王は、私の名前を呼んだ。
女王は、三年前に行方不明になった私の姉、アリスだった。
主人公、アリスじゃなかった。アリサだった。