宿敵との再会
ルカの意識は完全に、濃い暗闇の中へと呑み込まれていった。鳴り響く救急車のサイレンと、ラファのパニックに満ちた叫び声が徐々に遠ざかり、驚くほど冷たく、虚無で、静まり返った沈黙へと沈んでいく。ルカが目を開けた瞬間、背中を焼くような激痛は唐突に消え去っていた。
しかし、胸がひどく苦しい。気がつくと彼は、濃い灰色の霧に包まれた、境界のない果てしない空間に突っ立っていた。周囲の空気には血生臭い匂いが漂い、そこへルカの潜在意識にまで侵入してきたアマラの毒の残り香が混ざり合っている。だが、ルカの視線はその虚無の空間の中央で、木製の椅子にゆったりと腰掛けている一人の少年に釘付けになった。
少年はかつての人生で着ていた学生服を身にまとい、傲慢な態度で足を組んでいる。その少年は、ルカが骨の髄まで憎んでいる顔をしていた。本物のバスカラ。「クルエル」の無謀な行動がシステムの世界をハッキングし、彼ら全員の魂を現在の第三の人生へと突き落とす前――第二の人生において、その肉体の持ち主だった残忍な男。その顔を目にした瞬間、ルカの身体の中で血が激しく沸騰した。
かつて本物のバスカラが、ラファ――当時はまだ「クルエル」と呼ばれていた彼を、どれほど残酷に、人間扱いせず、殴り、髪を掴み、虐げてきたか。その忌まわしい記憶のすべてが脳裏に猛烈な勢いで蘇る。ルカはもう、自分を抑えつけることができなかった。
復讐心と怒りが、荒々しく爆発した。つべこべ言わず、ルカは猛然と突き進んだ。彼の足取りが灰色の霧を激しく踏み荒らし、霧散させていく。ルカはバスカラの胸ぐらを荒々しく掴み、椅子から引きずり出すと……
ドカッ! バキッ!
拳が赤く染まるのも構わず、ルカはバスカラの顔面に容赦なく何度も拳を叩き込んだ。
「このクズが! なんで俺の夢にまた現れやがった、悪魔め! 二度目の人生でもう死んだんだよ、今さら俺を脅しに来んじゃねえ!」ルカは激昂し、荒い息を吐きながら、過去の「クルエル」が流した涙と苦しみのすべてを晴らすかのように、すべての感情をぶちまけた。
奇妙なことに、バスカラは一切殴り返してこなかった。ルカの一撃で首が横に弾け飛ばされ、口の端が裂け、顎を伝って鮮血が流れ落ちているというのに、その少年はただ顔をゆっくりと背け、そして狂気に満ちた歪な笑みを浮かべたのだ。
そのうつろな瞳が、氷のように冷徹な憎悪を湛えてルカの目元を真っ直ぐに見つめ返す。バスカラは低く含み笑いをもらした。その笑い声は、虚無の空間に不自然に響き渡る。彼は手の甲で唇の血を拭うと、胸ぐらを掴んでいたルカの手を、一振りの荒々しい動作で振り払った。
「そこまでパニックになるとはな……ゼンラ?」バスカラが言った。その声は蛇の鳴き声のように鋭く這い寄り、本名を呼ばれたルカの心臓に突き刺さった。
バスカラは一歩踏み出し、不気味な歪んだ笑みを浮かべながら二人の距離を縮めてきた。
「いい気なもんだな、お前は……。人の身体を好き勝手に使いやがって。まるで聖者気取りか? いい親切ぶったヒーロー様だな」言葉を区切ると、バスカラは硬直するルカの周囲をゆっくりと回り始めた。
「それに……あのクルエルとかいうゴミ屑を、一人前に扱ってやったそうじゃないか。それどころか、この三度目の人生じゃあ、あいつは健康な新しい身体と『ラファ』なんて新しい名前まで手に入れちまって。お前らの人生、随分とイージーモードだな?」
ドクン。
過去から現れたこの非道な男に、弟を「ゴミ屑」と侮辱されたルカは、拳が震えるほど強く握りしめ、奥歯を噛み締めた。
「口を慎め、このクズが! あいつは俺の弟だ、今はラファっていう名前なんだよ! お前みたいな人間の皮をかぶったゴミより、あいつの方が遥かに価値があるんだ!」ルカは激昂して怒鳴り散らした。しかし、バスカラは高くあざ笑うような声を上げた。
ルカの心の奥底にあるトラウマをわざと抉り出すような、致命的な嘲笑だ。
「弟だと? 笑わせんじゃねえよ、ゼンラ!」バスカラは突如ルカの目の前で足を止めると、ルカの顎を力任せに掴み、無理やりその目を凝視させた。
「あんな奴、俺の目から見りゃただのゴミだ! 忘れたのか、かつてのあいつがどれほど脆かったかを。前世で俺が鞭を振るうたびに、あいつがガタガタ震えて、血の涙を流しながら、俺の足にしがみついて許しを乞うていた姿を……忘れたとは言わせねえぞ、あぁ!?」バスカラは顔を近づけ、ルカの耳元で威嚇するように低く囁いた。
ルカの精神回路を内側から蝕み始めている、アマラの不気味な毒の残り香を利用しながら。
「この新しい世界での残りの時間を、せいぜい楽しむんだな、ゼンラ……。何せ、あのアマラの毒は本物の猛毒だからな。もしお前が、あの官舎の庭でこの毒にやられてくたばりゃあ……俺の魂の勝ちだ。俺がクルエルを痛めつけてやったあの残虐な記憶は、ラファの脳内に永遠にロックされる。俺はお前が大事にしているその弟の精神を、脳の底から未来永劫呪い続け、蝕んでやる……あいつが発狂して、跡形もなく崩壊するまでな。さあ、せいぜい毒に抗って足掻くんだな、落ちこぼれの主人公様」ルカは、目の前にいる腐りきった男の口から吐き出される言葉など、一言たりとも耳に貸すつもりはなかった。
彼の怒りはとっくに限界を超えていた。荒い息を吐きながら、ルカは再び猛然と突っ込んだ。
ドカッ! バキッ! ズドォン!
ルカは容赦なくバスカラを殴りつけ続けた。剥き出しの拳がバスカラの顎、腹、顔面に何度も叩き込まれ、過去の幻影であるその肉体は、灰色の霧の床へと激しく崩れ落ちた。
ルカは激昂し、二度目の人生から溜め込んできたあらゆる罵詈雑言をぶちまけた。バスカラに息をつく隙さえ与えない。しかし、バスカラは何度でも笑い声を上げた。
その狂気じみた笑い声が虚無の空間に響き渡る。痛みなど一切感じていないかのような、その幻影の身体は吐き気がするほど不気味だった。バスカラは、蠢く不気味な黒い影を全身に纏いながら、床からゆっくりと立ち上がった。彼は顎の血を拭うと、ルカの思考をピタリとフリーズさせるような言葉を口にした。ルカの精神を揺さぶるために計算し尽くされた、狡猾な揺さぶりだ。
「いくら俺を殴ろうが、現実は変わらねえんだよ、ゼンラ」バスカラは目を細め、底意地の悪い笑みを浮かべて囁いた。
「お前は本気であのクルエルの救世主になったつもりか? あいつが何の下心もなく、心からお前を慕っているとでも思っているのか?」ルカは眉をひそめた。振り上げられた拳が、立ち込める霧の中でピタリと止まる。バスカラは一歩踏み出し、血に染まった顔をルカの目の前へと近づけた。
「あいつは悪魔だ、ゼンラ。本性は『クルエル』――つまり残虐で、冷酷で、人の心なんて持っちゃいねえ。現実の世界であいつを見たろ? 防衛本能が暴走した瞬間、誰彼構わず襲いかかって痛めつけていた。あいつは化け物なんだよ、ゼンラ。そんな化け物はな……小さな引き金一つで、お前が手に入れたこの三度目の新しい人生のすべてをぶち壊す。あいつがお前の秘密を知った時、今度は手のひらを返してお前を殺しに来ないと……本当に言い切れるか?」
その言葉は、ルカの精神の最も深い境界へと容赦なく突き刺さった。思考が急速に回転し、先ほど官舎の居間で目にしたラファの、ハスナやグザヴィエのことなど眼中にないかのように部屋を破壊し尽くさんとした「小悪魔モード」の恐るべき残虐性が脳裏に強制的にフラッシュバックする。ルカは呆然とし、精神回路を罠にハメられたかのように思考の迷宮へと没入してしまった。だが、ルカが考え込み、完全に隙を見せたその瞬間。
バスカラは電光石火の速さで動き、ルカの首を力任せに締め上げた。
「ゴホッ……!」ルカは息を詰まらせ、両目を大きく見開いて硬直した。バスカラの両腕がルカの喉を強く圧迫し、悪魔的な怪力でその身体を持ち上げる。ルカの両足は、もはや霧の床から完全に浮き上がっていた。
「考えるのが遅えんだよ、素人主人公が!」本物のバスカラが激怒の声を上げる。その顔は突如、人間の形を失ったおぞましい漆黒の異形へと変貌していった。
ヒュオオオッ!
首を絞められると同時に、現実世界のアマラの毒の残り香がルカの潜在意識へと侵入し、黒い煙の鎖となってルカの胸と肺を容赦なく締め付けた。夢の中の酸素濃度が、一気にゼロへと急降下していく。
ルカは、胸を爆撃されたかのような衝撃と、喉が焼けただれるような感覚に襲われ、意識が急速に遠のいていくのを感じた。境界の向こう側、あの官舎の庭では、今頃彼の肉体がラファの悲痛な叫び声の中で、死の淵を彷徨いながら必死に抗っているはずだった。
バスカラは異形の黒い顔を近づけ、苦悶するルカの耳元で満足げに囁いた。
「ここでくたばれ、ゼンラ……。お前の現実の身体を空っぽにして、俺がまた這い上がり、あのクルエルを地獄へ連れ戻してやるさ! ハハハハハ!」




