最終話 幸せなこれからを
「冗談なら面白くないですよ?」
「冗談じゃない。ずっと思っていたことだ」
震える声で彼女が俺の服の裾を掴んできた。
凄く申し訳ない事をした気分になるけど、ずっと考えてたんだ。
俺が刺されたときに乃々がどうやって恩を返せばいいのかと言った時から。
ずっと。
「私が本気で恩返しのためだけに今まで陸斗くんと関わっていたと本気で思ってたんですか?」
「わからない。でも、それくらいしか君が俺に構う理由が見つからなかったのも事実だ」
乃々は誰もが認める学園のアイドルで俺とはどう頑張っても釣り合いが取れない。
恩返しを抜きにしたら彼女が俺に魅力を感じる部分なんて皆無だと思うのだ。
だから、こんな関係は終わらせるべきだ。
恩と言う鎖で彼女を縛り続けるのはもう終わり。
「……あなたは本当にバカです」
その瞬間、乃々にビンタをされて反応が遅れた俺はそのまま地面に尻もちをつく。
隙を見逃さずに彼女は俺に馬乗りになってくる。
「そんなに鈍感で私の気持ちに気が付いてくれないのなら言葉なんかじゃなくて行動で示してあげます」
「乃々そんなに苦しそうな顔をしないでくれ。一つだけ確認させてくれ」
「なんですか」
「君が俺とずっと一緒に居てくれるのは過去の恩返し以外に理由があるのか?」
ここが一番知りたい。
もしここで一緒に居たのは恩返し以外の理由がないとか言われたら、家に帰ってからワンワン泣く気がする。
「あるに、決まってるでしょう! キッカケは確かにあの出来事ですけど、高校に入ってあなたと接するたびにどんどん好きになりましたよ!」
「……なら良かったよ」
俺は馬乗りになっている乃々を押しのけて、逆に押し倒す。
怪我をさせないように細心の注意を払う。
「ひゃ!?」
「悪い、昔に乃々に押し倒されたことを思い出してな。俺もやってみようかと」
「な、何を言ってるのですか!? 話の流れが掴めません」
困惑したように目の前の美少女は眉をひそめる。
そりゃあ、話の流れ的には無理に一緒にいるならもうやめていいみたいな拒絶的な流れだったからな。
「俺は乃々が恩返しだけで付き合ってくれてるならその関係を終わらせようと思っていた。そんな関係を続けていても双方得をしないからな」
「それ、はそうかもしれないけど」
「でも、そうじゃないんなら話は別だ。こんな姿勢でなんだけど、天城乃々さん俺と結婚を前提に付き合ってくれないか?」
「……ふぇ?」
俺は少し前からずっと言おうと思っていた言葉をこの日初めて紡いだ。
もし、拒絶されたらどうしよう。
乃々が恩返しのためだけに求婚してたならどうしよう。
様々な恐怖があった。
乃々はこんなにも恐怖を抱きながらずっと俺に気持ちを伝えてくれてたのかと思うと、嬉しい反面今まで邪険に扱ってきて申し訳ない事をしたという罪悪感が押し寄せてくる。
「えと、その冗談とか嘘とかではないですか?」
「俺はこんな趣味の悪い嘘をつくような人間じゃない。本当に乃々のことが好きで付き合いたいと心の底から思ったんだ」
母さんへの恩返しのために良い企業に入る目標を忘れたわけではないし諦めるつもりもない。
でも、それとこれとは話が違う。
もう、母さんを言い訳にするのはやめだ。
「じゃ、じゃあ本当に私と付き合ってくれるんですか?」
「俺からお願いしたことなんだけどな。乃々が俺への恩とかそう言うのを無しにして好きでいてくれるんならだけど」
「当たり前です。私は過去の事とか抜きにして陸斗くんのことが大好きです。だから、私からもお願いします。付き合ってください」
俺が乃々に覆いかぶさる形での告白になってしまったけど、こうして俺たちは初めて互いの気持ちを真剣にぶつけ合った。
「てか、酷い体勢だな。よっと」
「ですね。手を貸していただいてもいいですか?」
先に立ち上がった俺に乃々は上目遣いで手を差しだしてくる。
俺は彼女の手をとって立たせてやる。
ニコッと笑みを浮かべた乃々と手を繋いで俺は屋上から校内を見渡す。
今日は快晴で凄く良い景色だ。
「これからよろしくお願いしますね。陸斗くん」
「ああ。こちらこそ」
問題はいろいろあるけど、乃々と二人ならばどんな困難でも乗り越えていける。
そんな気がしてならない。
今日この日、俺達の新しい関係が始まったのだ。




