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マハラリィの花8


 ヘレン先生が僕にハープを教えてくれなくなった。公爵様のバカ。

 しばらくして、トマスが「王の頭脳」で新しく議論され始めた事柄を、ここだけの話としてチームカサブランカに共有した。王女と西の隣国ヘメロカリス王国のマキシム王太子との婚約話だった。

「早すぎるわ!?私の未来予知ではまだ先のことよ!」王女が悲鳴を上げた。

もしかして僕のせい?いやいや、それは流石に自意識過剰。メルトは一人で首を横に振った。

「私、悪役令嬢にならないように努力しているわ。それなのに何故?どうして?」王女の情緒がおかしい。

「私から陛下にお願いしてみるよ。」王子がなだめた。

「お兄様が申し上げることなんて、ブレーンの方々がとっくに申し上げているはずです。これはもう決められた運命なのですわ。この既定路線から外れるためには脱輪するくらいの衝撃がなければダメなのです。」

「脱輪?つまり、どうすること?」メルトが首を傾げた。

「例えば、・・・家出をするとかかしら?」ヴィヴィが答えた。

ブフッ。王子が飲んでいたお茶を噴き出した。「何を馬鹿なことを!」

「どこへ家出するつもりですか。現実的ではありません。」トマスも言った。

「ヘレン様を匿うことは国王陛下に逆らうことですからね。ですが、それでも私は厭いません。必死に働いてヘレン様一人くらい養ってみせます。贅沢はさせて差し上げられませんが、共に強く生きて参りましょう。」とリリス。

「リリス!ありがとう。だったら私は、ありったけの宝飾品を持って行きます。」と王女。

「物件探しは私にお任せください!」とヴィヴィ。

なんだか妙に現実味を帯びてきた。

「だったら、隣国王子との出会い方を変えてみるってのはどう?」とメルト。悪役令嬢ものによくある、ヒロインの出会いを横取りするみたいに。

「どうやって?」と王子。

「・・・フルドラにお願いして?」深く考えてません。

「それは行き当たりばったりということかな?」王子が大分イラついている。

「そうとも言います。」

「ハハハ、絶対面白いだろそれ?俺がついて行ってやるよ。」とジョン。

「ダメだ。そんな無計画は危険すぎる。」と王子。

「お兄様。このままでは私は一人寂しく死んでしまうのです。どうせなら、皆さまが差し伸べてくださる温かい手を握って逝った方が、うんと幸せではありませんか。」

「・・・ヘレン。」うるうる。お兄ちゃん陥落。

 この無計画な計画は秘密裡に進めなければならない。メルトと王女のふわふわコンビだけでは心配の塊なので、トマスとリリスが同行することになった。王女の不在をごまかすためには王妃の協力が不可欠だ。王子が王妃を味方につけて、チームカサブランカはそれに口裏をあわせることで決定した。

 数日後、それぞれの準備を済ませるとみんなで北の小宮殿のトネリコの木の前に集まった。

王妃が、王女にレースたっぷりのボンネットを被せて水色のリボンを結びながら言った。「私には何もできませんが、あなたの力を信じています。」王女と王妃は見つめ合った。「行って参ります。」

 メルトはフルドラに合図を送った。

フルドラは公爵邸のトネリコの木に宿る精霊なので、公爵邸とどこか1か所のトネリコの木をつなぐことしかできず、隣国に行くにはどうしても公爵邸を経由しなければならなかった。したくないけど。案の定、マリアに見つかる。

「メルティ、どこへ行くの?」

「ごめん、姉さま。それは言えない。」

話してないのか?みんなが驚いた。でもガイアスには伝えてあるから。

「私も連れて行きなさい。あなたは私がいないとダメなんだから。」マリアが怒って言った。

「それはダメ。それよりも、しばらく留守にするのでみんなにうまいこと言っておいてください。」にこっ。

「うまいことって何!?」

メルトはマリアとの間に雪の壁を築き、フルドラの背に姿を消した。

 フルドラには隣国の王城近くに出るようにとお願いした。フルドラは、距離が遠くなるとメルトの気配を感じ取るのが難しくなるので、帰りも同じ木を使うようにと言った。

 出口はヘメロカリスの王宮の近くにあるトネリコの木のはず。木の股に出て四人は定員オーバーだった。またしてもメルトと王女は落下する。運悪く木の下には人がいた。

「「キャー!」」

お姫様抱っこ♡

「「天使?」」ヘメロカリス語で言った。

「きゃぁ、わっ、わっ、マキシム殿下。」王女が顔を真っ赤にして慌てている。

なるほど。メルトはこてんと小首をかしげて可愛らしく言った。「助けてくれてありがとう。ところでここはどこですか?」

「カサブランカ語か!?」マキシム王子と近侍のモーリスは顔を見合わせた。

トマスとリリスが慌てて木から飛び降りた。リリスは動きやすいように男装にポニーテールをしている。

マキシム王子がリリスを見て「これは美しい。」と呟いた。

トマスはきれいなヘメロカリス語を話す。「突然のご無礼申し訳ありません。私たちは・・・その子の魔法で移動していたのですが、どうやら転移魔法は苦手らしく、思わぬところに着地してしまいました。ウィンター伯爵のところへ行きたいのですが、道を教えていただけませんか。」

マキシム王子とモーリスはメルトと王女を抱え直すと、カサブランカ語で言った。

「勝手に王宮に入ることは許されません。ご同行くださいますようお願いいたします。」

着いたのは王宮近くではなく王宮の中でした。

 四人はいくつかある貴族の控室の一つに通された。

「ごめんなさい。フルドラはいつもおかしなところに出るんだ。」とメルト。

「これはこれで手っ取り早くて良かったと思うわ。」とリリス。

「それよりも、メルティ!おうちの方々に何も言ってないでしょう。これでは家出同然よ。」と王女。

「だって、絶対許してくれないんだもん。」とメルトは口をとがらせた。

王女が「マリア様にまた怒られてしまうわ。」困ったように言ったので、「ごめんなさい。」としょんぼりした。

「過ぎたことは仕方がない。無事に帰ればいいんだよ。」とトマスは言った。

老紳士ウィンター伯爵が来て、トマスとその友人として身元が保証されると、マキシム王子とモーリスは四人に興味を示した。伯爵は、トマスのエルドレッド家がヘメロカリスの王家とのコネクションを作りに来たのだと了解しているので、四人の歓迎会に二人を招待した。トマスは有能です。

 王都の伯爵邸へ向かう道すがら、伯爵は、年の離れた客人と何を話そうか考えて、メルトの下手くそな移転魔法を話題にした。折角なのでメルトもこの国の魔法使い事情について質問した。この国にも魔法使いはいるらしい。多くはカサブランカから逃げて来た魔力の弱い者たちで、強制送還を恐れてひっそりと暮らしているという。これに対してリコリスから流浪してきた魔法使いは少々厄介らしい。因みにヘメロカリスとリコリスは国境を接していない。メルトは移転魔法について、自分の魔法ではなく精霊の力を借りているのだと説明した。伯爵はにこにこと聞いている。完全におじいちゃんと孫。

 数日の内に、伯爵はガーデンパーティーを催し、若きエルドレッド家の子息に社交の場を提供した。参加者の多くは大人だが、トマスが次世代ということもあり、若い子息も大勢出席した。参加者全員がカサブランカ語を喋るわけではないので、メルトは壁の花になりがち。気を使って王女とリリスがメルトをダンスに誘って踊れることを見せると、ダンスの申し込み(の依頼)が殺到した。ダンスは言葉の壁を超える。

「私と踊って頂けませんか、美しい人。」

聞き覚えのある声がして振り向くと、マキシム王子がリリスに手を差し出していた。二人の組み合わせは年齢的にも身長的にも絵になった。でも。それは王女殿下にお願いします!

「お誘いいただきありがとうございます。ですが少々疲れてしまいました。申し訳ありませんが少し休んで参ります。」リリスが優雅に断ると、マキシム王子は「では私もご一緒いたします。」とにっこり微笑んでついて行く。リリスはさりげなく王女と合流した。

「王子様はリリスが好きなのかなぁ。」メルトが呟くと、「そうだね。ああいう男勝りな女性はタイプかもしれないな。」モーリスが背後から答えた。それは困る。王女は女の子らしいし、第一ジョンが悲しむ。

 マキシム王子は王女をダンスに誘った。一曲終わると、青い派手なドレスの女性が王子に近づき話しかけた。

「あれはどなたかしら?」周囲がざわめいた。

モーリスも訝しんで王子の方へ向かった。

女性が左手を頭上に上げてパチンと指を鳴らす。

手を中心に霧のようなものが周囲に広がった。同時に耳元で「眠りなさい。」という声が聞こえた気がする。

霧に触れた人からバタバタと倒れた。

皆が目を覚ますと、王子と青いドレスの女性の姿はなかった。このようにして王太子失踪事件は起こった。

 その後、王宮から軍人が来て厳しい取り調べが行われた。その結果、王女は身分を隠し続けることができなくなった。王太子が誘拐されたことを他国に知られたくないヘメロカリスは、マキシム王子が無事に戻るまで四人を王宮で監視下に置くことに決めた。このままではいつ国に帰れるかわからない。トマスは情報収集のためにメルトを出しに使うことにした。

「この子はカサブランカきっての大魔法使いです!是非捜査に協力させてください!」

「何ですと!?」メルトが仰天すると、「嘘は言ってない。」トマスはしれっとベロを出した。トマスの有能さが怖い。自慢じゃないけど、僕は天然なんだぞ!

 捜査チームの話を総合すると、青いドレスの女性は、国の西端にある花畑に住んでいる花畑の魔女だという。リコリス流れの魔女で魅了の魔法を使って悪さをしているらしい。基本的な手口は、金持ち男を魅了の魔法で虜にして住処に連れ込み、その家族に金が尽きるまで貢がせ続けるというもの。討伐隊を出せば軍隊ごと虜にしてしまう厄介な相手だ。これまで王都に出没したことがなかったので、西の端っこで少人数を身代金誘拐するくらいならと放置してきたが、大方、毟り取る相手がいなくなったのだろう。

「どうしたらいいでしょうか。大魔法使いのメルトさん。」偉い人が聞いた。

「・・・どうしましょうね。」困ったな。


言葉の壁ねぇ。リコリスとカサブランカはもともと同族なので、方言程度の違いです。魔法使いはリコリス人なので、ガイアスもワイズマンもリコリス人だったのでしょう。妖精や小人は何語を使うんだと言う話になりますが、相手がわかるように都合よく脳内に語りかけるのです。そういうことにしてください!

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